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006[ちしゃの森での出来事3]

正義感の強い大人は、無知で残酷だ。

施設にさえ入れてしまえば、正義が勝ったと喜んで、

その御話は御仕舞。めでたし、めでたし…と、なるのだから……。

だから、正義感の強い大人は、

「悪を倒す為」に、何をしても許されると思い。

虐待された者に対し、頭ごなしの言葉で、攻め立て、追い詰め、

何をされたか訊き出し、虐待された子供を施設に入れようとする。


一方、その為に施設に入れられた虐待された子供の方は、

たまったもんじゃない。

施設に入れられたら、虐待する者の世間体の為に連れ戻され、

連れ戻す者が、連れ戻す為にした苦労分、

確実に酷い扱いを受けるの法則。

施設の方は御役所仕事で、改心する様な言葉と態度が見られたら、

マニュアル通りに確実に引き渡し、後の事は関知しない。


御蔭で、施設に入れられた虐待を受ける子供は…、

最初の内、夢の様な『もしかしたら……。』を夢見て、

壊れた夢の先に何度も施設に入れられ、

夢を微かに見ながら、縋る様な気持のまま、何度も連れ戻され、

裏切られて絶望し、殺されるか?生き残れるか?の生活の末…、

「虐待中の事故」で殺される事が多々ある上に…、

虐待をした結果の事故で殺した者は、弁護士の力量に寄り、

最終的に、無実になる事が通常運転……。冗談抜きの本当の話。


そこで殺されず、虐待されて育てられた子供の何人かは、

虐待を続けた大人を護る個人情報に関する法律に護られた相手を殺し、

一方的に悪者にされ、叩きのめされている。

それが12歳の僕が見知っている身近な現実だった。と、言う事で…、

シエンさんに対し「お前も頭ごなしの追求をして来るつもりか?」と、

身構えていた僕は……。そうじゃなかったシエンさんの態度に驚いた。


ちしゃの森の客と言うだけでなく、

それ以前に、マツニイの友達だったシエンさんは、

虐待を公にしても、

「虐待される子供が救われる事はない」と知っていたらしい。

色々考慮して、

『こう言う虐待の場合、こうしていれば、被害が少ない』等、

虐待の具体例を出して、安全対策を教えてくれ、

痣に効く薬を無償で提供してくれた。


僕は素直にその薬を受け取り、何も深く考える事無く、

『僕は男だから大丈夫、護姉さんが、この薬を使いなよ、

姉さんの方のが、傷が残ったら駄目でしょ?女の子なんだから』と、

その薬を護姉さんに渡してしまう。


護姉さんは勿論、マツニイもシエンさんも驚いていた。

どうやら僕は、話題を振るタイミングや

薬を渡すタイミングを失敗してしまったらしい。

護姉さんは、『気付いてたんだ……。』と静かに笑い。

マツニイやシエンさんをチラチラ見ながら不安そうにしている。

僕は、その様子から、自分の言動と行動を後悔し、

護姉さんと同じ様に、マツニイやシエンさんの様子をチラチラと見た。


マツニイは、眉間に皺を寄せ、

『そうか…、他人事じゃなかったから、なのか……。』と言い。

シエンさんは溜息を吐き『これは、遊びの前に仕事だな』と呟き。

『取敢えず、僕等は、こんな事で君等を御役所に任せたりしない。

なんか、微妙に変な話だけど、歯科医である僕を信じて、

怪我を診せて貰えないだろうか?』と言って、

僕と護姉さんを「ちしゃの森」のバックヤードに連れて行き、

診察と適切な治療をしてくれる。


そんな「ちしゃの森」のバックヤードには、何故か…、

診察に必要な道具と、

治療に必要なモノが入ったレトロな雰囲気のカバンが置いてあり、

店では取り扱いが無い筈のイチゴ味のポップコーンの匂いがした。

僕だけは、そんな香りを嗅いだ気がした。

因みに、その時それを感じ取ったのは僕だけで、

他の誰もが『そんな匂いはしなかった』と、口を揃えて言う。

本当に気の所為なのだろうか?


その後の僕は、少しの間、感じていた甘い匂いを気にしつつも、

先に、シエンさんの真面目な診察と丁寧な治療を終え、

護姉さんが僕に『傷を見せたくない』と言うので、

仕方なく「ちしゃの森」の店の外で、散歩させて貰う事にする。

そして、マツニイが教えてくれた方向に進むと、裏口の扉があった。


僕が散歩に行く為に、店の裏口の扉を開けると、

森の香りが僕を包み。そのまま、森の香りは僕を外へと誘う。

その裏口の扉から外へ出た先は・・・

木屑と、萵苣の木の葉が敷き詰められた地面から、萵苣の木が生える。

「萵苣の木」以外が存在しない本当に綺麗に手入れされた。

見渡す限りの萵苣の木の人工林だった。

僕は気の向くまま、短い階段を降り、木材チップの上に一歩踏み出す。


家具を作るのに出たのであろう木屑と木材チップは、

土に還りながらも僕の足を柔らかく、優しく受け入れ、

その香りで、僕を癒し、僕を萵苣の木林の奥へと誘った。


幾らか適当に進み、萵苣の木を見上げると、

柿の木の葉っぱに良く似た萵苣の木の枝の先には、

白い小さな花が、葡萄の花みたいに鈴生りに咲いていた。

それを見ながら気付いたのだが…、

そう言えば、この場所では蝉の声が聞こえて来ない……。

暑さを感じないし、寧ろ、涼しい。

「これぞ、自然の力?って人工林は自然だろうか?」と考えていると、

セメントで岸辺を固められた水路にまで辿り着いてしまう。


「思ったより、自然ではないかもしれない。」と言うよりも・・・

『何故に、こんな場所に、遊園地にある様な乗り物が?』

僕は独り言を呟き、向こう岸に放置された朽ち掛けた乗り物を眺め、

周囲に何時の間にか存在していたペンキの剥げた造形物を発見し、

「自分は、何処まで歩いて来てしまったのだろうか?」と不安になる。


「もしかしたら、裏野ドリームランドまで、歩いて来てしまった?」

何て事を思っていると、水路の方からの大きな水音を耳にする。

背後からの音に、僕の体がビクリと大きく反応した。

更に、そちらの方向から、

何やら大きなモノが近付いて来る気配がする。

僕は何だかとっても怖くなって、相手が熊なら100%アウトな行動。

来た道を全力疾走で走って戻って来てしまった。


その事に関する余談的な朗報として・・・

その気配は熊でも野犬とかでもなかったらしい。

僕は、水音をさせた存在に追い掛けられる事もなく。無事に、

「ちしゃの森」に帰って来る事が出来たのだ。

因みに、その水路と水音の話をしたら・・・

護姉さんも、マツニイもシエンさんも、

仕事上がりのミツキさんや、ヤマネさんまでもが、

『外が凄く暑かったから、白昼夢でも見たのではないか?』と言う。


そもそも、その周辺には、小さな湧水が流れる小川はあれども、

人工的な水路とかは、ないらしい。

『そんな筈はない』と僕が言っても、

皆は『頭を強く打った後遺症なのではなかろうか?』と、

僕を心配するだけで、僕の話を誰もが信じてはくれなかった。

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