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005[ちしゃの森での出来事2]

僕が目を開けると、護姉さんとミツキさんだけでなく、

他のお客さん達も集まって、皆で僕を見下ろしていた。

僕は、その逆行となった黒い複数の顔と、

きらりと光る複数の人の目に驚き、暴れながら起き上がり、

『脳震盪起こしてるかもしれないから、起きちゃ駄目!』と、

護姉さんに抱き付かれ、もう一度、その場にゆっくりと寝かされる。


僕を床に寝かせ、護姉さんが僕から離れると、

僕と護姉さんが、店に入って来た時、

肝試しの話題で盛り上がっていたグループの中に居たお兄さんが、

『手足に力が入りにくかったり、痺れがあったりしないか?』と、

真剣に訊ねて来て、次に手の指先、靴を脱がせた足の指の先に触れ、

『触られた感覚は有るか?』と確認し、

『たんこぶ出来てて痛いだろうけど、真直ぐ向いててね』と言い。

7分袖のデニムシャツの胸ポケットからペンライトを取り出し、

『診るから、瞼を閉じないでね』と、

光を弱めに調節したそのペンライトを僕の瞳に当て、

僕の両方の瞳を片方づつ覗き込んでから、安堵の吐息を零し、

『大きな音がした割りには、大丈夫そうだ』と緩く笑う。


但し、そのお兄さんは、歯医者さんなのだそうで、

『医大で医学課を専攻していた事も有るけど、

2年間の臨床研修を途中でドロップアウトして、

歯科専攻に切り替えたから、歯科医師免許状しか持ってない』と、

『意識障害が、数十秒でもあったからには』とも言って、

頭を打ってから内出血が起こるまでの可能性が高いのは6時間以内、

長くても1~2日位の間に内出血が起こる可能性もあるので、

一度はCTスキャン検査等で、詳しく調べた方が良い事。

首の回りの筋肉を痛めている可能性もあるので、

暫くは、首に負担が掛からない様、なるべく安静にして、

取敢えず、複合的な要因から「過激な運動を避ける事」を推奨した。


言われた通り、首に負担が掛からない様に起き上がった僕は、

不安定な家庭の事情も有り、病院に行く事を拒絶して、

検査を受けない事を選んだのだが……。

『あ、エロガキ発見!』と言って、

僕が椅子ごと転ぶ原因を作ってしまったミツキさんの方は、

『私が費用を出すから、病院に行こう!!』と言い出し、

僕と護姉さんを困らせる。


僕が病院に行って診察を受けると、

護姉さんの御母さんが、僕にして来た事が公になり。

僕にとっても、護姉さんにとっても、都合の悪い事になるのだ。


その時・・・

僕の靴を脱がした時に、痣に気付いたであろう歯科医のお兄さんが、

そんな僕と護姉さんの様子を見て、勝手に事情を推測&判断し、

保険証無しでの検査の概算費用を提示して『払えるの?』と、

金銭面での心配事を数字で示してくれた。


それがなければ、

その場で、ミツキさんに救急車を呼ばれてしまっていたかもしれない。

そこで一瞬、僕と護姉さんは、

歯科医のお兄さんに本気で感謝したのだが…しかし……。

『細いヒールで何度も踏まれた様な痣が有るね……。

今は内緒にしてあげるから、後で事情を聞かせて貰えるかな?』と、

耳元で囁かれてしまって、結局、最悪の事態。

僕が受けているDVの事が公になってしまう可能性が高い事を知る。


このままでは・・・

護姉さんの御母さんによる僕への虐待に「罪名」が付き、

護姉さんは母親と共に住む場所を失い。

僕は、もっと、精神的に虐められる事が確定の父方の祖父母の家に、

また、預けられてしまう事になってしまう。

そんな悩みを抱える僕の目の前に、マツニイが姿を現した。


「マツニイに、正直に家の事情を話せば、

良い方向に話を持って行ってくれるかもしれない。」

そんな希望を持った僕は、マツニイの行動を目で追う。


マツニイは、140cm程の洋風の衝立の向こう。

雑貨や家具を売っている工房の方から、

透明な袋に入った新しいアイシングバックを持ってやって来て、

まず、『水と氷をくれ!』と厨房の方に声を掛け、

調理場の人から、ピッチャーに入った氷水を受け取り、

袋から出したアイシングバックに、それを注ぎ込んで、

使える状態にして、僕の側に来るなり、『暫く、冷やしておけ』と、

僕の後頭部に冷たいそれを優しく押し当て、歯科医の人の目を見て、

マツニイは、歯科医の人を『シエン』と呼んで、僕の容体を訊いた。


シエンさんから『大丈夫そうだよ』と僕の事を聴いたマツニイは、

僕に『無事でよかった』と言った後、僕に対して、

『今後、大人になるまで、カウンターの椅子に座るの禁止な』と言う。

カウンターの背の高い椅子は、

小学6年生の僕には「まだ早い」と判断されてしまった様だ。

まぁ~、こうなってしまっては、そう思われても仕方が無い。

椅子ごと後ろに転んで、後頭部を強打してしまった後では、

どうあがいても、反論もできない……。僕はカウンター席から離れ、

護姉さんに付き添われ、素直に従い。窓際のテーブル席へと移動した。


この時、今更ながら気付いたのだが・・・

裏野ドリームランドのオリジナルキャラクター「裏野ウサギさん」。

それに関係する物は勿論、

その「不気味に笑うピンクのウサギのきぐるみ」の存在は、

店内にも、店内から見える窓の外にも、存在してない。


10年前に廃園になった遊園地。

裏野ドリームランド関連のキャラクターグッズを持つ人も、

その場には、いない感じだった。

「アレは何だったんだろう?

何で、あんなモノを見た気がしたのだろうか?」

少し考え事をしていると、護姉さんが僕の顔を覗き込み、

『本当に大丈夫?』と心配そうな顔をしていた。


僕は「本当に見た」のか?自分でも、どうなのかもわからない。

「不気味に笑うピンクのウサギのきぐるみ」の話をするのも、

「どうよそれ?話してどうなるの?」と思い。

『シエンさんに何をどう話して良いか、考えていたんだ』と、

笑って誤魔化す。


そして、今置かれた状況。

窓際に設置された備え付けの長椅子に座らせられ、

護姉さんに付き添われた僕は、気まずい思いをしながら、

正面の座席、正面の椅子に座るシエンさんと、

その隣の椅子に座っているマツニイに視線を移す。


どうやら、マツニイに相談する前に、

シエンさんと話さなければならなくなっているらしい。

僕は服の中に隠れている護姉さんの御母さんから受けた虐待の跡、

まだ痛みの残る痣に服の上から触れ、大きく溜息を吐いた。

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