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011[廃園の七不思議]

一仕事を終え、僕とマツニイは、裏野ドリームランドの観覧車の足元。

裏野ドリームランド東ゲートバス停前で、バスを待っていた。

暫くすると、バス停には、桃やマスカットの香りを振り撒く人達。

近所の果樹園から帰る途中の団体さんが集まり出して賑わう。


その中で誰かが、廃園の7つの怖い話を持ち出した。

『そう言えばさぁ~、この廃園になった遊園地って、

人とか誰もいない筈なのに、

メリーゴーランドが勝手に明りを灯して廻っていたり、

この観覧車にギリギリまで近付くと、

小さい声で「出して…」って言う声が聞こえて来るらしいよ!』

『え?うっそぉ~、こっわぁ~い』

『ほら、あれ!メリーゴーランドが動きだした!』

『きゃ~~~』

『あれ?今、「出して」って声が聞こえなかった?』

『うっそぉ~止めてよぉ~』と、

他所から来た乙女達は、とっても楽しそうだった。

僕とマツニイは、顔を見合わせ、互いに少し笑ってしまう。


彼女等が話題にする。

裏野ドリームランドの七不思議はある意味本物だったからだ。


1つ目の七不思議・・・

廃園になった理由、「度々、子供がいなくなる」と言うのは本当で、

廃園前、当時1~2歳だった僕も一度、居なくなった事があるらしい。

理由は、後程…3つ目の七不思議にて……。


2つ目の七不思議・・・

ジェットコースターでの謎の事故は、現在進行形。

原因は、4つ目の七不思議の副産物。

人ではなくなった誰かが、今日も事故に遭っている。


3つ目の七不思議・・・

アクアツアーの謎の生物の正体は、普通に「この山の主様」。

子供好きで、子供にしか見えず。子供に大人気な彼に、

子供等が触れると、その子供達も、子供にしか見えなくなる。

その為、1つ目の七不思議が生まれ、

見えないのに物音や気配がするから、謎の生物と称されているだけだ。

因みに、まだ、彼を見る事が出来た僕は、彼を目の当たりにして、

1つ目の七不思議の理由を納得しました。


4つ目の七不思議・・・

ミラーハウスでの入れ替わり、まるで中身だけが…ってのはマジな話。

アリスが、裏野ドリームランドに生まれた付喪神と、

悪い人間の魂を交換している結果の御話。

勿論、悪い人間は、人の器を取り上げられて、

遊園地地獄の刑を執行されるのです。その罪が許されるまで……。


5つ目の七不思議・・・

ドリームキャッスルの拷問部屋は実在して、悪い人間は、…以下略…。

拷問部屋でする事は決まっています。拷問以外ありません。


6つ目の七不思議・・・

回るメリーゴーランドは、トードーさんが、

裏野ドリームランドの全盛期を懐かしんで、廻しているだけです。


最期に7つ目の七不思議・・・

観覧車から聴こえる『出して……』って声は、

遊園地地獄の受刑者の声だ。受刑者は廃園から出る事は出来ず。

日課を終えた者から順に、

出られそうに見える「東ゲート」近くの観覧車の足元に集まり、

バス停でバスを持つ人達に向かって、必死に助けを求めている。

その思念が漏れ出して、

聞こえる人には、聞こえてしまうってヤツだろう。


取敢えず、一般人に見える人がいない様なので、アリスが、

『ほっといてえぇ~よ、それも、ある意味、刑やから』と言っている。


僕は、そんな受刑者の中に、元の僕のクラスメイトの姿や、

移住者を追い出すように仕向けていた高齢者達。

元の僕の親戚の人の姿をも見掛ける。当たり前の事だが、相手は、

新しい器に入り、他人の人生を歩む僕に気付かない。

ちょっと残念な様な気がする。


その受刑者達の、手の残っている者は、柵の中から必死に手を伸ばし、

両手を失った者は顔を柵に押し当てて、

朽ち始めたゾンビみたいな恰好で、必死に、

バス停に来る人間達に向かって『ここから出して』と訴えている。


何だかとっても、滑稽だ。

序に…、実際は臭わないが、その臭そうな雰囲気が、

この糞暑い中、頂けない……。


僕は腐敗臭と紙一重な、果物の匂いが混ざった臭い、

人の匂い、汗の臭い、それを消す為の人工的な甘い匂いに酔い。

気分を変える為に、風上に移動し、外方を向いて深呼吸して、

『ねぇ~マツニイ……。これからの裏野地域が、住み良い、

良い地域になって行くと良いよね』と、マツニイに微笑み掛ける。


マツニイも新しい器で『当たり前だろ?』と言い。

『そろそろ仕事も終盤だ、そうなって貰わないと困る…、

その為に俺達は、必死に頑張っているんだから……。』と、

僕の頭を乱暴に撫でた。


そう、そろそろ…、

裏野ドリームランドに生まれた付喪神の完全移住が終了する。

それまでに、この裏野山の主様の器を見付け、移住頂いて、

その後は、裏野ドリームランドを取り壊すだけ…なのだ……。


但し、主様の器だけは、心が汚れた人間の器では宜しくない。

僕はバスに乗り込み、マツニイと一番後ろの席に陣取って、

『何処かに、良い器は無いかなぁ~…』と、

近所の果樹園から帰る途中の団体さんに目を向けた。


夏休み中の為、「子供」が何人か乗車している。

「喜ばしい事」だが、そこに当たりが入っているかは分らない。

裏野ドリームランドの開発当初からの歴代の裏野ウサギさんが、

どんな器を用意しても、主様に移住頂けなかったのだ。


でも、どうしても僕は、早く主様に移住頂きたかった。

だって、総ての仕事が無事に全部終わったら…、

アリスが、僕のお母さんになって、僕のリクエスト通りの家庭を作り。

僕を生まれ変わらせてくれる予定になっていて、

僕は、失踪しなければイケナカッタ、この器の人間の人生から離脱し、

「早く、新しい人生を早く歩み出したい」と思っていたのだから……。


僕はカバンから、

スマホケースに入り、スマホに偽装した鏡を取り出し膝の上で開き、

マツニイとアリスに、

『ねぇ~、どの器が一番、綺麗だと思う?』と訊ねる。

鏡の中で、アリスは微笑み、マツニイが溜息を吐いた。


その数日後、僕はスマホに偽装した鏡を片手に地元を離れ、

『すみません!探しているモノがあるんですが……。』と、

ターゲットに「スマホに偽装した鏡」を見せ、

上手に御迎えする事が出来た。


そう、「スマホに偽装した鏡」を見せられた相手は、

向けられた鏡を自ら覗き込み、自分から罠に落ちてくれる。

そして、ミラーハウスから切り出された鏡の力は、

器や魂を囲い込む「囲いのアリス」通称「囲さん」同様、

今現在も健在だった。


僕の目の前でマツニイが悲し気な顔をして、

『変わってしまったね』と言う。

『正義の味方になりたくて、新聞記者を目指した』と、

元の最初の器の頃に言っていたマツニイは、今までの悪人とは違う、

善人を生贄にする事に、罪悪感を感じてしまうのだろう。


僕もアリスに出会う前まで、

そう言う理由で、「ジャーナリストになる」と言う夢を持っていた。

でも、その正義では、悪を倒せなかった。

それだけではない。マツニイは淘汰され、殺されてしまったのだ。


僕は、今の裏野地域を見て思う。

「地元の文化を守る為」と、息巻いていた人間を排除する事で、

過疎化が急激に進んでいた裏野地域は変化し、人口が増えている。

差別も偏見も無く、入植者が快適に暮らせ。イジメも無くなった。

誰かがもっと早く、アリスに手を貸していれば、

最初のマツニイが殺されたり、

最初の僕が、酷いイジメに遭い続ける事なんてなかったであろう。


だから、アリスの言う事は総て正しい。

間違いの無いアリスに従う僕は、

最初の僕が夢見た「正義の味方」になれたんだ。


そうだ!折角、夢が叶ったのだから、頑張らなくては!

そして今日も、僕はアリスの為に、生贄を迎えに行く。

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