010[ちょっとした真相]
アリスは、僕の姿の上に本来の自分の姿を投影し、
その姿で僕の首を拾い上げ、
『実体が欲しくて肉体貰ってしまってごめんな!
新しい人生と新しい体を準備するから、許したってな』と、
僕の口元にキスをした後、首を元の位置に戻してくれる。
正直…、「今までの人生に未練があるか?」と訊かれたら、
「無い!」としか答えられない僕は、多少、納得いかないながら、
アリスの言葉を真に受け、
『顔も成績も中の上!
優しい母親と、兄か姉、弟か妹の居る。家族関係仲が良い家庭で、
大金持ちじゃなくて良いけど、それなりに御金がある家が良い。
んで、今の裏野みたいなイジメの温床になっている地域に、次は、
生れ育ちたくないです。』と、ガチなリクエストを口にしていた。
その場に居た者達が全員口を閉ざし、周囲が静まり返る。
『あれ?もしかして、
細かいリクエストは受け付けてなかったりしますか?』と、
僕が訊ねると、アリスは『肝すわってんな~』と大笑いし始めて、
『ココまで、順応出来た子、初めてやわ!』と言い出し、
『ウチが責任もって、迎君の夢、叶えたるし』と言った後、
『その夢を叶える為に、迎君も手を貸したってな』と、
僕に仲間を紹介してくれる。
そこで初めて、ドリームキャッスルのテラスに居た普通の人間は、
護姉さんだけなのではないか?と言う事を知った。
他は、生き物モチーフの造形物達と、
青白い大きな幼虫に寄り添う「きぐるみの裏野ウサギさん」。
今なら分かる。あの「ピンクのウサギのきぐるみ」はマツニイだ!
僕は自分の姿とマツニイの姿を見て、
『マツニイも、もしかして、
僕と同じ事情とかで、「きぐるみ」になったんですか?』と話し掛け、
『いやいや、実はな…、今日、お前にやった資料あるだろ?
アレの記事を書いて雑誌の掲載したら、雑誌は自主回収。
記事を握り潰され序に俺、名誉棄損で訴えられて、
自殺に見せかけて殺されたんだわ』
『え?何それマジで?』と言う話になってしまい。
マツニイと「青白い大きな幼虫」シエンさんの話しに寄ると……。
裏野ドリームランドの敷地内に存在する。
風化し、彫られた字も消えてしまった小さな蚕の慰霊碑の上の、
蚕の繭に見立てた丸い石で、マツニイは撲殺され…、
ジェットコースターのレールの上から遺体を落とされ…、自殺に偽装。
そんな死を経験した縁あって、今に至る……。って何だ!それ!!
殺人事件だし!説明、短っ!そして、気の所為かノリが軽いぞ!
と、そこで騒いで一段落。
『所で何で、護姉さんはココに居るの?』と僕が護姉さんに訊いたら、
友達付き合いで裏野ドリームランドに肝試しに来て、
一緒に肝試しに来た見知らぬ男に以下略…、
死亡済みのマツニイに救われ、護姉さん自称、切ない恋話を語り……。
その後、裏野ドリームランドのミラーハウスの噂を聞き付け、
マツニイに「新たな肉体を与えられるのでは?」と、
ミラーハウスに侵入し、アリスと出会い。
護姉さんは生贄として、僕をここへ連れて来たらしい。って、
ちょっと酷くない?僕の甘い期待を打ち砕き過ぎですよ!
まぁ~、アリスが僕好みの美少女だから許すけどね!
そして、ここからが、
僕が幸せな新しい人生を手に入れる為に必要な任務の御話。
『今の裏野みたくなイジメの温床になっている地域に、
生れ育ちたくないんやったら、裏野の悪者を退治せんと駄目違う?
イジメの無い地域に行っても、
後から来た裏野出身者に汚染されたら一緒やん!
だから、いじめ根絶の為に、
迎君が、「悪者を排除する勇者」になればええんと違う?
悪者の中身は、ウチが綺麗なモノと交換したげるし、
この鏡の前に悪者を立たせたってや、
ミラーハウスで悪者の相手は、したるし』とアリスが笑い。
ノートくらいのサイズの鏡をくれた。
『取敢えず、俺と一緒に、
今の裏野を作った御偉いさん達の排除から始めて見ないか?』と、
マツニイが僕の肩をポンッと叩き、引き寄せ、
『語る者はそれぞれの主観。
「自らが選んだ意味だけ」で、言葉を使い。
聞く者はそれぞれの感性。
「自らが求める意味だけ」で、言葉を理解する。
言葉は意味を変化させ、変質して、最初の意味を紛失し、
白くも黒くも染まり行く。』と、
マツニイは、僕に何度も語った「何だか良く分らない者」の言葉。
その独自解釈を語る様に囁き、
『どうするか決めるのは、お前だ』と言う。
マツニイは、何かを後悔していて、僕には後で後悔させない様に、
考える余地をくれたのかもしれない。でも、既に腹黒い世界に居て、
そこで今更、何色に染まっても大した意味はない気がする。
僕はマツニイの優しさに『ありがとう』と言い。
僕は序に思い出した「何だか良く分らない者の歌」
マツニイ解釈版を思い出し、
『上に立って「自分が選んだ意味だけで言葉を使う者」。
その言葉で、高い地位から落ちてしまった。
取り巻き達がどう頑張っても、傷付いた名声は元に戻せなかった。』
声に出して言葉にし、
『そして「自分が選んだ意味だけで言葉を使う者」の失敗は、
その者を救おうとする取り巻き達の試みを見ていた、
第三者に寄って噂となる。』と言った後、
『僕は、マツニイの潔白の証明をする事から始めたいと思う。』と、
高らかに宣言した。
そして僕の存在は、僕が僕として行った行為に寄り、
この国の偉い人の命令で消され、隠蔽されてしまう。
僕は、その過程で、人間すべてに絶望し、
今は、シエンさんの煙草の煙で作られた糸で作成された僕の人形が
粉砕機に掛けられ、土に返される光景を眺めながら
『正義とか、正しいって事は、何だろう?』と、
マツニイに質問している。
マツニイもその光景を眺めながら
『迎君は、戦争での誉れ高き英雄が、
戦後、戦争犯罪人として処罰されるのは知ってるよな?
世の中の正義なんて、結局は何だか良く分らないモノだよ』と言った。
『そっかそれなら、
アリスが言う正義が一番綺麗な正義かもしれないね。それじゃあ僕、
今日からはフルタイムで、裏野ドリームランドに生まれた付喪神と、
悪い人間の魂を交換する仕事に取り掛かる事にするよ!
マツニイはどうする?』と僕は一人立ち上がり。
僕の問い掛けにマツニイは、
『迎君、気が早いよ!何するにも、この仕事が終わってからだろう?
彼等の仕事が終わるのを見届けて、
彼等を夢の国へ送り届けてからにしないと駄目だ。』と言う。
確かにその通りだ。
偽物だとは言え、本物と信じ、子供を殺して土に撒いてる人間が、
アリスの考える楽園に必要な人材とは思えない。
僕はマツニイに従い。静かにその時を待った。