美少年と美青年
舞い上がった砂や小石などが身体に突き刺さる。
雄叫びと叫び声が木霊し、耳鳴りがする。それに加え風の音で、聞こえていた音が、次第に静止していった。
音も、感覚もない世界。今から襲ってくるであろう衝撃に、自分達は耐えられるだろうか。
無理ならばいっそ、楽に...
そう思った時、
キィイイイイン
鋭い音が聞こえた。金属の音だろうか。
次の瞬間、
キィイイヤヤヤアアアアアアアア!!
凄まじい悲鳴。鼓膜が破れそうになるほどの音。脳内に響き、ガンガンと痛み出す。頭が割れそうだ。しかし、一向に衝撃がこない。ましてや、声が遠ざかっていく。翼のバサバサという音も聞こえる。
不思議に思い、恐る恐る瞳を開く。
足が、見える。人の足だ。2人はゆっくり顔をあげる。
すると、
「大丈夫か?」
「怪我してない?」
声が降ってくる。
目の前にはスラリとした長身の青年と、腰を曲げ2人の顔を覗き込んでくる、少し幼さの残る顔立ちをした少年がいた。
左側に立っている青年は180cm以上あるであろう長身、水色がかった白い髪。吸い込まれそうなブルーの瞳。外見からも分かる、ほどよくついた筋肉。スラリとした長い手足。腰には細長い剣が収まっており、そこに手を乗せている。手はしなやかでとても美しく高くも低すぎもしない透き通るような声。
18歳か、それ以上の年齢に見える。眉目秀麗な青年に目を奪われる。
もう1人の少年は、濃い目の茶と、ベージュがグラデーションになっている髪。瞳は宝石のような、エメラルドグリーン。身長は低めでおそらくさくらと同じくらいだろう。顔は整っており、幼さが残る無邪気な笑顔。屈んでいるせいでよくは見えないが、腰に剣が刺さっているみたいだ。おそらく短剣。
13歳~15歳くらいに見える。可愛らしい端正な顔立ちの少年。
2人に共通している部分がある。それは、細長い耳。
それに気づいた2人だったがあまりにも目の前にいる2人が美しすぎた為、耳のことは頭から抜け、ただただ見惚れていた。
タタタッ
2つの小さな足音が聞こえる。徐々に近づいてきて、ピタリと止まる。
「さくら、つばき」
呆れた声が聞こえ、2人はそちらに顔を向ける。サラは呆れた顔をしていて、ショコラはぼけーっとさくらとつばきを見ていた。
「サラ!怪我ない!?」
我に返ったさくらはすぐにサラを抱き上げる。クルクルとまわしながら怪我はないか確認していく。つばきはショコラを抱きかかえ、頭を撫でる。気持ちよさそうに目を細め、ぐるぐると喉を鳴らす。
その様子を見ていた少年は声をかける。
「可愛い猫だな!」
ニコっと笑い、ショコラの頭を撫でる。むふふ~と上機嫌な声を出すショコラ。とても気持ちよさそうだ。その一連の動作に見惚れてしまっていたつばきだが、少年と目が合い、ハッとする。
「ド、ドラゴンは、どうしたんですの!?」
慌てて周りを見回す。しかし、どこにも居らず、目線を少年に向ける。
「追い払った」
高すぎず低すぎない透き通るような、しかし無機質な声が青年から発せられた。
「追い払った・・・?」
つばきは信じられないというような表情をする。
どうやって、どうして。疑問がぐるぐると脳内を回る。
青年は静かに答える。
「あの種類のドラゴンは大人しい性格だ。そしてどの種族にも関わりをもたない。だから普段人を襲ったりはしない」
つばきは、じっと青年を見る。その言葉を聞いても納得出来ない。現に自分達は襲われたのだ。
でも、と言いかけたが、言葉を遮られた。
「きっと、匂いが違ったんだよ」
「匂い・・・?」
少年の言葉に2人は首を傾げる。
「ドラゴンは匂いで敵を判別する。きっと嗅いだことのない匂いだったから敵と判断したんだろう」
青年の言葉を聞き、なんとか納得する。
有り得ない事が起こりすぎて、段々と感覚が可笑しくなっているような気がした。
取り敢えず!と大きな声で言う少年。
「自己紹介しようぜー!」
何故かテンション高い。
しかし、
「その前に移動しよう。ここじゃまた襲われるかもしれない」
青年が一刀両断する。
しゅんとしたあと、ガックリと肩を落とす少年。その様子は子供のようで、2人はクスっと笑った。
青年は口元に右手を持っていき、何か考えているような様子だ。それはなんとも妖麗な姿。惹きつけられ、目が離せなくなる。
あ、という青年の声で我に返るさくらとつばき。チラッとお互い隣をみると、同じような表情をしていた。なんとなく気まずくなり、顔を逸らす。それに気づいた少年は不思議そうな顔をして2人を見た。
ゴホンとわざとらしい咳をするサラ。その隣でニコニコしているショコラ。猫たちに見られていたことが恥ずかしく、頬を染める2人。
青年は隣にいる少年に声をかける。
「リオ、お前の家でいいよな」
「え、俺ん家?」
「ああ。ここから近いし、安全だろ」
少年は“リオ”という名らしい。リオは少し考え、笑顔で答える。
「そっか!じゃあ、行くか~」
身体を起こし、背伸びをする。ポカンとしていた2人に笑顔を向け、行こうぜ!と元気いっぱいに言う。
太陽のように眩しい笑顔。
その笑顔を見ていると、元気が出てくるような気がした。
2人は立ち上がり、猫たちを抱える。
「よし。しゅっぱーつ!」
右手をあげ、先頭きって歩き出す。その後ろを無表情で歩く青年。
猫たちを抱えた少女2人は不安になりながらも、黙って後に付いて行く。