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ドラゴンの指輪  作者: ゆきめ
第二幕 闇の世界
6/11

空に舞う大きな物体

 その時、さくらの耳に異様な音が聞こえた。


 「ん?」


 後退りを止め、立ち止まる。

 すかさずつばきが突っかかろうとしたが、さくらが手を前に出し制止する。その表情があまりにも真剣だったのでつばきも辺りの様子を伺う。


 「何の音・・・?」

 「音?」


 さくらは目を瞑り、眉間に皺を寄せている。つばきは目だけで辺りを見渡しながら耳をすます。

 しかし何も聞こえない。


 「音なんてしませんわよ」


 さくらに言うが、黙ったまま目を瞑っている。

 するとサラが叫ぶような声で言う。


 「あっちだ!あっちの方から何かが近づいてくる!!」


 サラは顔を向け、その方向を示す。その方向を見ても薄暗い森の中。ザワザワと木々が揺れるだけで、特に変化はない。威嚇するように低く唸るサラにその隣で丸くなり怯えているショコラ。自分の隣にいるさくらを見ると、サラが示した方向を睨みつけるように見ている。


 何がいるのだろうか。つばきは段々と恐ろしくなっていった。すると突然バッとさくらが上を見る。つばきも恐る恐る見上げると、


 「・・・何ですの、あれ」


 目に入ってきたのは、白い大きな物体。

 灰色の空に真っ白い大きな物体がつばき達の上を迂回している。大きい胴体に、広々とした翼。そして太く、逞しい長い尻尾。


 どこかで見たことがある。


 あれは...


 「ドラゴン・・・?」


 さくらが呟く。その呟きにつばきはゆっくりとさくらを見る。


 「あれ、ドラゴンじゃない?」


 さくらは淡々と言う。


 「あ、あ、ありえませんわ!!」


 つばきは悲鳴に近い声をあげる。


 「ドラゴンというものは架空の存在ですのよ!?」

 「でもさ、あの指輪にそっくりだよ」


 さくらの言ったとおり、上空にいる物体はあの指輪の象徴ともいえるドラゴンにそっくりだった。それに自分達が知っているドラゴンも、まさにあの物体の容姿にそっくり。

 認めざるをえない。そう思った瞬間、足から力が抜ける。


 「つばき!」


 とっさに反応したさくらが支えたが、足に力が入らない。地に足がついている感覚がない。

 さくらはなんとかつばきを立たせ、上空を見る。ただ迂回しているだけならいい。けれどもし、こっちに向かってきたら。


 「・・・」


 迂回している様子をじっと見つめる。移動するべきかどうか迷っていた。


 もし自分達が標的になっているとしたら、むやみに動いたらあのドラゴンが襲ってくる。ただ迂回しているだけならドラゴンが過ぎ去るのを大人しく待ったほうがいい。


 (どうする・・・)


 考え込んでいると、突如上に上にドラゴンが昇っていく。それに全く気づかないさくら。目はドラゴンを見ていても思考の渦に呑まれていた。


 「嫌な予感がする!逃げよう!」

 「サラくん・・・?」

 

 大声で叫び慌てた様子のサラにショコラ驚く。どんなことがあっても慌てたりしない冷静沈着な彼が、こんなに慌てている。ショコラはさくらに訴える。


 「さくら!すぐに此処から離れよう!サラくんの言うとおりにしよう!」


 早く!と急かすと我に返り2匹を見る。こんな必死になっている2匹を見たのは初めてだった。さくらは2匹の言うとおり、逃げることを選択した。


 2匹の必死な様子もあるが、自分自身とても嫌な予感がしていた。本能が逃げろと警告している。


 上を向く。迂回していたドラゴンは上に上に登っている。驚いたが、これはチャンスだと思った。


 (今ならまだ間に合う)


 そう思った瞬間、



 ゴオオオオオオオオ



 凄まじい轟音が森に響く。突風が吹き、前が見えなくなる。

 腕で顔を覆い、砂埃を防ぐ。なんとか目を開けようとした時、サラの叫び声が聞こえた。


 「こっちに向かってくるぞ!!」


 見上げると、上空を優雅に登っていたドラゴンは急降下し、こちらに猛スピードで向かってくる。


 (嫌な予感的中かよ・・・!)


 さくらはすぐに猫たちに逃げるように言う。しかし猫たちは2人を待とうとした。さくらに一喝され渋々ながら猛スピードで森の中へと走っていった。安堵の表情を浮かべながら、自分たちも逃げようとするが隣にいるつばきが一向に動かない。


 「何してんの!?」


 焦りながらつばきを引っ張ったり持ち上げようとしたりしたがピクリとも動かない。


 「つばき!!」


 怒鳴り声をあげても反応しない。

 真っ直ぐドラゴンを見つめている。呆然と、硬直したように動かないつばき。


 「動いてつばき!!」


 必死に引っ張るが、地面と同化しているのではないかと思うほどビクともしない。

 つばきの口が動く。


 「あ、あああ、あああああ」


 言葉にならない声を発する。

 つばきの瞳は、ドラゴンの鋭い瞳に囚われていた。



 つばきは急降下してくるドラゴンの瞳を見てしまった。

 

 それはなんとも美しい、燃えるような緋。

 その緋い瞳に囚われてしまい、身体は石のように硬直し動かない。頭の中で動け、動けと叫んでも足はピクリとも動かない。

 

 警報が鳴っていた。頭の中で、鳴りっぱなしだ。自分の身体ではなくなったような感覚。自分の力でも、他人の力でも動かなくなった身体。


 ドラゴンは雄叫びをあげながら向かってくる。


 瞳は囚われたまま、つばきは必死に口を動かした。


 「に、げて」

 「つばき!?」

 「にげて、さくら・・・!」


 絞り出すように放った言葉。

 つばきの手足はガタガタと震えだした。言葉も震えており、とても弱々しく、悲鳴に近かった。


 遠くで猫たちの声が聞こえる。自分達の名前を叫んでいる。さくらは猫たちをチラッと見た。こちらに駆け出してきている。


 ドラゴンはどんどん迫ってきていた。迂回していた時より、もっともっと巨大だ。


 (もう、駄目か・・・)


 迫り来る恐怖。

 さくらはつばきの膝裏を蹴り、ガクンと崩れた身体を後ろから抱え込むように抱きしめた。


 「大丈夫だよ、つばき」


 耳元で優しい声が聞こえる。

 つばきは震える身体を自分自身でも抱きしめ、さくらの腕を掴む。


 迫る、赤い瞳をから逃れるように、なんとか瞳を閉じる。


 「さくら」


 小さな声で、妹の名を呼ぶ。

 姉を守るように、ギュッと力強く抱きしめる。


 凄まじい風、雄叫び、恐怖。


 サラとショコラの叫び声が耳の遠くで微かに聞こえ、2人はゆっくりと、目を閉じた。



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