猫の異変
森の中で呆然と座っている2人の少女。
少女たちは自分の身に起きている現実を受け入れられないでいた。さくらはため息を吐き、ボーッとしているつばきに声をかけた。
「取り敢えず動くか!」
そう言い、立ち上がるとつばきが反論する。
「無意味に動いてはいけませんわ」
「でも、行動しなきゃ何も変わらないよ」
「そうですけど・・・」
視線を下げ、俯いてしまう。
「いつまでも此処にいたってどうしようもないじゃん。まずはあたし達の置かれてる状況を把握しようよ」
「そう・・・ですわね」
俯いていた顔を上げ、真っ直ぐに森を見つめる。
しばらく森を見つめていると隣から呻き声が聞こえてきた。どうやらサラとショコラが意識を取り戻したようだ。つばきはホッと息を吐く。
2匹に声をかけようとした時、
「んー!よく寝た」
「ふわぁ~。あ、おはようサラくん!」
「おう」
起き上がった飼い猫たち。サラは伸びをし、ショコラは欠伸をしながら言葉を話している。
唖然としながら目の前の猫たちを凝視する。2匹はのんびりと話しを続ける。
「にしても此処どこだ?」
「んー・・・森!」
「そんなこと見れば分かる」
「そっか!」
なんとも気が抜けるような会話。
のほほんと話していた2匹は飼い主の方に目線を向け、まじまじと見つめた。
「サラくん、つばきが信じられないものを見るような目であたし達を見てるよ!」
「さくらなんて口ぽっかり開けてるぜ」
「2人共間抜けな顔ー!おもしろーい!」
猫たちは笑い出す。
「「・・・」」
2人はわなわなと震えだし、そして
「何でお前ら喋ってんだよおおおおお!!」
「信じられませんわ・・・!何がどうなって・・・!?」
思いっきり叫び、わなわなと震える。有り得ないことがまたも起き、混乱するばかり。
叫び声に驚いた2匹だったが、サラはふと疑問に思った。
「まさか俺達の言葉が通じてるってこと、か・・・?」
今度は猫たちの方が有り得ないものを見ているような目で飼い主を見た。
「ぎゃああああああああ!!」
「きゃあああああああ!!」
2匹も叫び声をあげる。
2人と2匹は微妙な距離を置き、驚愕の眼差しでお互いを見合っていた。
数分間見つめ合った2人と2匹。なんともいえない、妙な空気が漂っている。さくらは深呼吸をし、改めて2匹と向き合う。
「えーと。何であんた達が喋ってるのか分かんないけど、取り敢えず落ち着こうか」
さくらはその場で正座をする。その隣で姿勢を正すつばき。
「そう・・・だな。オレ達も冷静になろう」
サラも姿勢を正し、深呼吸をする。それに見習いショコラも深呼吸をする。
「みんな落ち着いた?」
「取り敢えず、ですけれど」
「オレは大丈夫」
「あたしもー!」
なんとか落ち着きを取り戻し、円形になるようにみな座る。
座ったのを確認し、さくらが話し始める。
「よし。サラ達のことは受け入れよう。じゃないと先に進まないし」
「ええ。受け入れがたい事実ですが、今は置いておきましょう」
全員コクリと頷く。自分たちがどうしてこんなところに来たかの経緯を話し合うことにした。
「原因は一つしかないね。あれのせいで変なことが起こってる気がするし」
「指輪、ですわね」
さくらは頷き、サラに問いかける。
「あれはいつ何処で拾ってきたの?」
「許嫁が来る前の玄関」
「玄関・・・?」
さくらは首を捻る。
その時間帯はメイド全員が掃除をしている。なので玄関に指輪のケースが落ちていたとすると必ず誰かが気づくはず。つばきも不思議に思い、ショコラに聞いてみた。
「誰かいなかったんですの?」
「うん!誰もいなかったよ!」
元気いっぱいに答えるショコラ。つばきも首を捻る。
「おかしいな。玄関辺りには3人メイドがいるはずなのに」
「許嫁の2人が来るって分かってるはずですから、念入りに掃除をしているはずですわ」
「でも誰もいなかった」
「・・・どういうことでしょう?」
2人は考え込む。
メイド達は掃除をする場所がきちんと決まっている。2人1組でやっており、どちらか1人が抜けてもその場に残ったもう1人が掃除しているはず。だから、誰もいないという状況は有り得ないのだ。
つばきはふと指輪のことが気になった。
「さくら、指輪はどこにあるんですの?」
「え・・・?」
つばきに言われ指輪のことを思い出したさくらは辺りを見回し、着物に触れた。
「・・・」
「・・・」
立ち上がり、着物をベタベタ触ったが何もない。ピョンピョンとジャンプしてみたが何も出てこない。恐る恐るつばきの方を見る。すると阿修羅のような顔でさくらを見ていた。
(・・・・・・やばい)
顔がひきつる。
「さくら?」
無機質な声で問いかけてくるつばき。相当ご立腹だ。
つばきは立ち上がり、さくらにじりじりと迫っていく。それに対しさくらは後退りをしながらしどろもどろに発言をした。
「つばき、これには深い訳が」
「へえ。どんな訳があるんですの?」
口元にわずかな笑みを浮かべ足音をたてずに迫り来る。本格的にまずいと思い逃げる体勢をとった。