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ドラゴンの指輪  作者: ゆきめ
第一幕 幕開け
3/11

許嫁

 晴天が広がり、暖かい日差しが差し込む。

 そんな天気のよい日に部屋の中で過ごしている2人の少女がいた。


 「こんな天気のいい日は外に出たいんだけど」

 「そうですわね」

 「あー・・・外出たい外出たい外出たい」

 「煩いですわよさくら」


 静かに本を読みながら相槌をうっている少女の名は、高宮つばき。


 “高宮家”


 華道で有名な由緒正しい家柄だ。

 高宮流を築き、日本、そして世界にその名を広めた。華道の世界では知らない者はいないほどである。


 その高宮家に産まれ、長女として育ったのがつばき。

 つばきは母、家元の香代子の指導のもと、華道の世界で輝かしい功績を残している。


 その他に茶道、香道、造園など、芸術全般に活躍しており、一目置かれる存在となった。その代わり運動は苦手で、一切出来ない。運動音痴である。


 つばきから「さくら」と呼ばれた少女は高宮さくら。

 つばきの妹であり、高宮家次女である。


 お嬢様らしくない砕けた口調、態度。

 母親が必死に治そうとしても治ることはなかった。


 華道や茶道、芸術全般が全くダメで、何をさせても出来なかった。

 そのせいで周りから陰口を叩かれることもしばしば。


 母親はさくらに厳しく指導したがそれが逆効果になり、稽古場から逃げ出したり家に帰らなかったりした。


 さくらはつばきと違って運動神経は抜群で、見兼ねた父が試しに日本舞踊をやらせてみようと提案し、やらせてみたところすぐさま習得した。


 やればやるほど上達していき、日本の伝統的な舞踊、[舞い,踊り,振り]を完璧にマスターした。今では舞踊においては一目置かれる存在となった。

 興味本位でやり始めた日本武術もどんどん上達してき、今では舞踊よりも優れている。


 この正反対の姉妹はとても仲が良く、例え喧嘩をしていても数時間後にはいつもの仲いい状態に戻っている。1人ずつ部屋はあるのだが、大抵さくらがつばきの部屋に行くのでさくらの部屋は寝室のようなものになっていた。


 そして今日もさくらはつばきの部屋でごろごろしていた。


 「ねー、つばき」

 「何ですの」

 「何であたしらこの部屋に閉じ込められてるわけ?」

 「別に閉じ込められてませんわ」

 「だってさ、この部屋から出ないで下さいって完璧おかしいでしょ」

 「・・・そう、ですわね」


 1時間前に母親から部屋から出ないように言われ、言いつけを守っている2人。しかし、1時間経っても誰の声も聞こえず、静まり返っている。

 お互い疑問に思っていると、扉をノックする音が聞こえてきた。


 コンコン


 「はい」


 つばきが返事をすると扉が開き、母親が笑顔で部屋に入ってきた。


 その笑顔を見た瞬間、さくらは嫌な予感がした。

 滅多に子供達の部屋に来ない人が、ましてや部屋の中に入ってこない人が自ら進んで入ってくる。


 胸がざわざわする。

 さくらは顔をしかめながら母親をじっと見つめる。


 「お母様、どうしたんですの・・・?」


 驚きながらも、恐る恐る聞いてみるつばき。

 すると母親は、


 「あと2時間後に許嫁の方々が来ますからね」


 笑顔で答えた。


 2人には許嫁がいる。

 相手も高宮家同等の家柄であり、相手のご子息2人と結ばれることになっていた。


 2人は何度か会っているのだがご子息が気に食わず、かなり嫌がり未だに拒否している。しかし相手の方は2人を気に入り、欲しいとまで言ってきた。


 結局2人にはどうすることも出来ず、受け入れるしかなかった。

 母親の言葉を聞いた2人は絶句。


 「ちょっと待ってよ!2時間って・・・はあ!?」

 「そんな急に言われましても・・・!」


 2人は慌てて抗議する。

 しかし、


 「そういうことですから。早く支度なさって下さいね」

 「母様!!」


 さくらの叫ぶような声が部屋に響いたが、無情にも声が届くことはなく、扉を閉められた。


 「「・・・」」


 お互い顔を見合わせ呆けていると、メイドが呼びに来た。


 「・・・打つ手なしですわね」

 「・・・だね」


 重い溜息を吐き、腰を上げ部屋から出る。

 

 連れてこられた場所は、衣装部屋。ここには沢山の着物が収容されている。基本的に家でも学校でも外出の時でも着物。学校は私服でいいところだったので学校でも着物を着ている。洋服を着ることがほとんどない2人。


 用意されている着物を見てつばきはため息を吐く。


 「はぁ・・・」

 「つばきが溜息吐くなんて珍しーね」

 「吐きたくもなりますわ」

 「まあね。特にあんた許嫁のこと嫌いだしね」

 「ええ」


 普段表情を変えたりしないつばきだが、許嫁の話になると途端に顔を歪める。

 着物を脱ぎ、母親が用意したであろう高級な着物に渋々腕を通す。


 着替え終わり、化粧をしてもらう。外出や誰かと会う、という時だけはメイドがやることになっている。


 さくらのセミロングの髪を櫛で梳かしながらメイドが聞いてくる。


 「そういえば今日サラくんとショコラちゃん見てないですね」

 「あー・・・そういえば」

 「散歩でもしてるんじゃありませんの?」


 母親の前ではメイド達を使用人として扱う2人だが普段はフレンドリー。冗談を言い合ったり相談したりと友達のように接している。

 その為屋敷にいる者たちも気さく話しをしてくる。


 サラとショコラは2人の飼い猫。

 サラはさくらのペットで、性別はオス。頭が良く、言うことをよくきく偉い子。


 ショコラはつばきのペットで、性別はメス。人懐っこいがドジっ子でアホっ子。


 「でも少しショコラが心配ですわね」

 「大丈夫じゃない?サラと一緒なら」


 猫たちの話をしているとあっという間に化粧が終わった。

 髪の毛を櫛で梳かしていくとメイドが奥からリボンを持ってきた。


 「それどうすんの?」

 「さくら様の髪の毛をポニーテールにします。今日のお着物に合うと思いまして」

 「ふーん」


 素っ気ない返事をして鏡を見る。

 綺麗な薄いピンクのリボン。髪の毛にそのリボンが巻きついていく。意外と似合うな、と内心頷きながら巻かれていくリボンと髪の毛を見つめる。


 1時間くらいで全ての準備が終わり、つばきの部屋で暇を持て余していた。


 「あと1時間か・・・」

 「かなり憂鬱ですわ」


 つばきは不愉快そうに目を細める。


 「どうにかして逃げる方法は・・・」

 「そんな方法あるんですの?」


 さくらは腕を組唸り声をあげる。チラッと窓の方向を向き、ボソリと呟く。


 「・・・。窓から逃げる」

 「無理ですわ」


 つばきに一刀両断され、さらに唸り声をあげる。

 結局いい案が見つからず、残り時間あとわずかになった。


 「あーもう!何かすっげーイライラしてきた」


 ベットから立ち上がり机を叩く。

 歴史の本を読んでいたつばきが煩わしそうに言う。


 「さくらにしては頭を使ったからじゃありません?」


 つばきも若干イラついているのか、本から目を離さず嫌味を言う。軽く言い合いをしていると外が騒がしくなった。どうやら許嫁が到着したみたいだ。門の前に高級車が停まっている。

 

 その光景をみた2人は顔をしかめた。窓から離れ、無言になる。


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