OPENING
時々、自分はいったい何をやっているのだろうと考え込む事がある
学校指定の制服を着込んでいる限りはそこらへんにいる普通の高校生と変わらず、みなと学問に励んでいる点は同じはずなのに
右手にはペンではなく、古い様式の銃を。そして左手にはノートではなく、うっすら血がこびりついたナイフを手にしている私は、今後どんな未来を歩んで行くのだろう
ここは内閣総理大臣官邸某応接間。私たちは首相官邸を襲撃し文字通り戦闘中だ。理由はただ1つ。自分たちの権利を守るため
いまどき首相官邸を襲うなんて馬鹿げた行動を取る奴らなんてそうそう居ない。すぐに警察に拘束されて投獄されて終わり。そんなことは私や仲間たち自身が痛いくらいに知っている
だとしても、私たちは戦わなくてはいけなかった
官邸は国の中枢機関のある場所なのでそう簡単に作戦はうまくはいかない
当然の如く警備体制が厳しく、大抵の場合失敗して拘束され少年院送りになるだろう。私たちがただの高校生であるならば、の話だが
…ただの高校生でありたいと思わない日なんて無かった。過酷な訓練に音を上げて逃げ出したい時だって山程あった。それでも私は銃を持ち続け、必死にナイフを振り続けた
目の前で鮮血が溢れ出し苦悶の表情を浮かべながら相手が倒れる。私は無表情でそれを見つめ、息をついた
…こんな姿、お兄ちゃんが見たらきっと悲しむだろうなあ
そう思いながらも私は大理石を血に染め、歩を進める
——いつか、私の罪が許されますように…
突然、扉の奥から派手な喧騒が聞こえてきた。どうやら予定よりも早く機動隊が動き出したらしい。銃撃の音と同時に、無線から『彼女』の声が聞こえる
「…っ、コードがロックされたみたいだわ…ここまでのようね」
その言葉を聞いて傍に控えていた仲間が動揺する。
——実戦経験を積んだ身であっても無理なものはやはり無理なのか。だとしても私は作戦を中断しようとは思わなかった。この恨みを晴らすまでは決して終われまい、と
私はたくさんの人間を絶命に追いやった右手の銃を握りしめ、呟く
「…まだ、終わりじゃありません」
機動隊がもうそこまで迫ってるであろう扉を、私は冷静に見据えた
…そもそも何故このように馬鹿げた戦いが始まってしまったのか。
発端は10年前にまで遡る
当時の私はこんな銃やナイフと無縁の幼少期を送っていた
誰もが平穏を信じ、戦争なんて起こるわけがないと完全に否定していた時代だった
ところが、とある春の日、たった1つの法律が定められ、そのわずか2週間後に施行、そして――次の年にそれが起こってしまった。
それにより、私の人生の歯車が一気に狂いだした。私のみならず、多くの人々がその狂いに巻き込まれていき、またそれを止められるものは誰も居なかった
そのまま何も出来ずに時は過ぎ去ってしまい、私は15の春に学園と呼ばれる学校に入学したのだった