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仮題 銀木犀と金木犀  作者: 松尾英子
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黄泉平坂 其の弐

四〇代と思われるその女性は、波留に向かって問いかけた。

「アナタは、此処で何をしているのですか!?」

『いきなり、何と問われても…。』

波留は困った。

自分だって来たくて此処に来たわけじゃなし、第一、此処がどこなのかもわからない。

答えに困って黙っていたら、再び問いかけられた。

「此処が何処だかわかりますか!?」

「えっと…分かりません。」

波留は問いかけにおずおずと答える。

すると女性は波留の前を通り抜けて、橋の中央付近で足を止めた。

波留は一瞬、その行動に息をのんで躊躇ったが、次の瞬間には当たりの景色が今までと違うことに気づく。

『あ、あれ!?…橋が朱色の太鼓橋に替わってる…。』

そう、今まで波留が立ち止って、渡るかどうしようか悩んでいたコンクリの橋は消えて、半円形の朱色の木製の太鼓橋に替わっていた。

その橋の中央付近に佇み、女性は波留に微笑みかけている。

「こちらへいらっしゃい。」

女性は、波留に自分の傍に来るように言った。

波留は戸惑いつつも、言われた通りすぐ傍まで歩み寄る。

さっきまで戸惑っていて、渡れなかったコンクリの橋じゃない太鼓橋は、何の抵抗もなくすんなりと渡れた。

しかもちょっと浮かれ気味で。

何故って、よく時代劇なんかで綺麗な格好をした姫君や花嫁が、手を引かれて渡ったり佇んでいるのをみたことがあるので。

そして女性の傍まで近寄ると、何かとても良い香りがした。

そう、これは香水じゃなくて日本的な芳しいお香の香り。

たぶん、着物なんかに染み込ませているのだと思うけれど、ほのかに香る香りはとても上品だった。

『あ~、これが日本的な女性の姿だよな…憧れるわ。』

波留は思わず同性なのに、傍に近寄っただけで頬を染めてしまった。

う~緊張する。

それから、そこで女性と語らいあって、波留は水面に浮かぶ色とりどりの花や蓮の花、水仙等を眺めつつ、あまりの美しい情景に時間が経つのも忘れた。


「アナタは、これからも様々な試練と向き合って、生きなくてはなりません。」

女性は最後にそう言って波留を諭す。

波留は一人ではないと言い、人生を自分で切り開いて生きて行くように言った。

難しい事は小学生の波留にもわからない。

けど、生まれてきたからには意味があるのだと思う。

無駄な人間なんていない。

だから希望を持って前向きに生きる。

そう言うことが言いたいのだと波留は思った。


そう言えば、此処での時間はどうなっているのだろう。

ふと波留は思ったが、時間の流れという感覚が無く、まったくと言っていいほど感じない。

此処へ来てからずいぶん時間が経ってしまったようで、そのくせ数時間しか経っていないようにも思える。

でも実際は波留が意識を失ってから、丸々二日が経っていた。

その間、ずっと波留はこの世界に居たわけだけど…お腹が空くわけでも、眠気に襲われるわけでもなく、どんなに動き回っても疲れる事もない。

時間という概念があるようでないため、これらの感覚が無いのかも知れない。

空に浮かぶ太陽のような光も一定の位置から全く動かない。

暑さ寒さも感じることはなく、空気は清浄でありとても穏やかだ。

違和感というモノも全く感じない不思議な空間。

だけど一つだけはっきりとわかった。

それは此処が夢でも現世でもない特殊な空間であるという事。

その時、おじいさんが言っていた「あの世とこの世の境目」という言葉。

では、この女性は…いったい誰!?

波留とどんな関係があるのだろう…。


女性は「もうそろそろ、ここでの滞在時間の限界ですね。」という。

ああ、別れの時間なんだ。

波留は最後に女性に問いかけた。

「あの…アナタは一体誰なんですか!?…私とどういう関係が…!?」

問いかけに対し、少し考え口を開く女性。

「…アナタとは、再び現世で出会うことになるでしょう。」

『ええっ、これから出会うの!?』

波留には、子どもの頃から少しだけ不思議な力と言うか、認知能力(予知)がある。

だから、これもそんなモノの延長…というか、似たようなものかと納得した。

「ですから、名前は申し上げられませんが…わたくしたちの出会いは偶然ではありません。」

女性はそう言って微笑み、波留を励ます。

偶然じゃない…ってことは必然!?

いったい、どんな意味があるのだろう。

それにこの言葉の意味だと、必ず現世に戻ったら出会うってことだよね。

つまりそれまでは名前を明かさないってことか。

「じゃあ、私は目を覚ましたら…この出来事を忘れちゃうかもしれませんけど…。」

波留は何気に感じたままを口にした。

そう、いつもの予知夢も全部覚えているわけじゃない。

みている予知も一部分だけ。

だからその時が来ないと思いだせない。

ただ、たまに危険察知をする時があって、そう言う緊急時には「○○に気を付けて」って忠告するんだけど…大抵ドン引きされる。

信じちゃいない人間が八割で、あとの二割は「呪われた!」とかって非難されるのがオチ。

だから最近は滅多に他人に言わないようにしている。

そう、緊急時を除いて。

そもそもその予知だって自分の意志でコントロールできないんだよ。

白昼夢で見えたり感じたりすることもあれば、本当に就寝中にみていることが現実になったりするのだ。

そしてそれは大抵いい事よりも悪い事の方が多い。

今回もそういうモノの一部だろう。

波留はそんな風に結論付けた。


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