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仮題 銀木犀と金木犀  作者: 松尾英子
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はじまり

波留が小学校へ入学した頃、典江は留守がちな夫に隠れてパート勤めを始めた。

実はこの頃、両親は別居を始めたのである。

長女の美恵子が結婚をし、店を持って独立し、長男の賢治は海外留学中。

次女は高校進学のため、寄宿舎のある学校を選んだ。

つまり、うるさく言う人間がいなかったので、典江は羽を伸ばすためにパート勤めに出る。

実を言うとこの十年、大人しくしていたのには理由がある。

それはまだ波留が生まれる前の話。


美恵子が高校生で、賢治が小学生の頃、生まれて一年程の朋子を置いて、典江は父の部下と不倫関係になる。

この頃、父は長期出張で一年近く家を空けていた。

その油断から、典江は気が緩んで身近な男性を頼る。

この時、身籠った子ども…それが有紀だった。

つまり有紀は不倫の末に生まれた娘。

その事は我が家の秘密なのだが、この事がきっかけで両親の間に亀裂が入る。

そして美恵子は典江を軽蔑した。

愛海が寄宿舎のある中高一貫校を選択し、その後を追うように結美も家を出て行くが、上の四人が家に寄り付かないわけは、この時の典江の不倫が原因だった。

この後、典江は波留を妊娠することになる。

けれど、望まぬ夫の子どもを身籠った典江は…何度も自殺未遂を繰り返す。

「私は自由になりたいの、私の人生を帰して!!!」

典江は、必死で身籠った子を堕ろそうとする。

「子どもがいなければ…アンタたちがいなければ、私は人生をやり直せるのよ!!!」

不倫の子を産んだ典江は、人生をリセットして生きなおしたい。

だけど子どもがいて、それもままならない。

ジレンマが典江を狂わせた。

そんな典江は再び夫の子を身籠り、さらに狂気に狂わされてしまう。

狂気が典江を支配し、何度も堕胎を試みては失敗していた。

やがて何度目かの堕胎と自殺未遂で、月足らずの未熟児を生む。

それが波留であり、生まれつき呼吸器系の疾患を持って生まれる。

それは明らかに典江の胎教が悪く、子どもへの影響が出た結果だった。

産まれつき体が弱い病弱児。

そんな末っ子を溺愛する父と兄。

無理もない話だ。

だけど、そんな事情なんて有紀と波留には関係がないし、まったく預かり知らないことだ。

まして尚子も朋子にも、そんな記憶は幼すぎてわからない。

何故、有紀が疎まれて、波留が父と兄に溺愛されるのか。

そして美恵子たち上の姉たちが母を嫌うのか。

やがてその理由を知る時が来るのだけれど…それはまだ先の話。


波留が病弱だったため、人一倍手がかかる。

それが幸か不幸か、典江を家庭に縛り付けたのだった。

一見すると穏やかな日常。

けれど、その日常の中に毒は溜まりゆく。

典江の中に沈殿していく毒は、やがて典江自身だけではなく、自分を縛り付けた娘へと向けられていった。


幼稚園の年長になった波留は、徐々に体力が付き始め、以前と比べると熱を出す回数も減って来ていた。

小学校入学に向け、卒園間近の波留は元気いっぱい。

幼稚園までの送迎は母の典江の役目なんだが、なぜかいつも公園へ寄り道しては一人遊ばせる。

その間に典江はひとりスーパーへ、買い物に行ってしまう。

そう、父や姉たちの知らない典江の実態。

それは有紀で放置することに慣れた典江。

『ちょっとぐらい目を離しても平気よね』

典江は子どもの目を離す事に抵抗がなくなっていた。

中高生の愛海と結美は、寄宿学校へ通っていて家を出ている。

あとは小学生三人が家に居て、塾や習い事に出掛けるので、手がかかるのは波留一人だ。

つまり、自分が自由になるためには、波留を放置すればいいというわけ。

それと公園の中は安全であるという思い込み。

『誘拐なんて、そうそうあるわけないじゃない』

そう、典江の中では「家の子に限って」という油断があった。

けれど、世の中そんなに甘くはないわけで。

取り返しのつかない事件は、こんな油断が起こさせるのかもしれない。




その日、いつもの公園で母の迎えを待っていた。

波留が一人砂場で遊んでいると、声をかけてきたのは近所の米屋のおじいさん。

「おや、波留ちゃん一人!?」

「うん、お母さんが此処で遊んで待ってなさいって。」

無邪気に答える波留。

「ふ~ん、お母さんはどこ行ったの!?」

お米屋さんは波留に聞く。

「お母さん?…うんとね、お買いものなの!」

笑顔で答えた波留に、なおも質問を繰り返す

「そう、お家でお留守番してなくていいの!?」

米屋は自宅に誰がいるのか聞き出そうとした。

「えっとねえ、お家はお姉ちゃんたちがいるから、お勉強の邪魔しちゃダメなんだって。」

それは意地悪な尚子がわざと吹き込んだもの。

自分にとって都合が悪い事は何でも妹に押し付ける。

努力とかってあまり好きじゃない。

家の用事も朋子に押し付けていたが、自分の手柄として褒められたい。

だが、優秀な姉たちに及ばない尚子。

でも、やっぱり学校でも家でも常にチヤホヤされたいし、「流石、宇都宮家の子だ」と世間から言われたい。

それには見栄を張るしかないってわけ。

そして唯一、自分の思い通りにならない波留が邪魔だった。

そのため、母に言って買い物に連れ出すよう頼んでいた。

典江も波留の手かかからなければ…と思っている。

子守の必要のない有紀と違って波留は病弱児。

すぐに熱を出すので、大抵は朋子に面倒を頼んでいる。

だけど塾がある日は仕方がないので連れ歩くのだ。

でも、面倒なので公園で遊ばせておき、その間にスーパーへ行って買い物をしていた。

米屋は、実はある目的があって、波留に声をかけている。

それは…おじいさんの性癖はペドフィリア(小児性愛者)だった。

「そうか、波留ちゃんは良い子だねえ。良い子にはおやつを挙げよう、手を洗っておいで。」

そう言って波留を連れ出した。

波留は、いつもお米を配達してくれるおじいさんには、警戒心を持っていない。

疑いもせずについて行った。


最近の公園のトイレは真新しくて小奇麗だ。

中も洋式になっていて、身障者トイレは広い。

波留はおじいさんの膝の上に座り、おじいさんにパンツを脱がされ性器を弄られた。

弄られていると、アソコがなんだがむず痒い。

おじいさんの荒い呼吸が肩先にかかる。

だけど、波留は自分が何をされているか分からない。

しばらくすると波留を呼ぶ母の声がして…解放された。

「いいかな、波留ちゃんはお利口さんだから、この事は秘密に出来るね」

おじいさんは、波留にお菓子を渡すと、そう言って消えた。

それから数回、波留は公園で遊んでいるとき、おじいさんから声を掛けられるようになった。



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