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バレバレの嘘



病院にお見舞いに行った次の日、安静のため佐藤は二、三日休むことになった。

久しぶりの一人の学校。


二、三日程度ならばズル休みをしてしまおうかと考えたが、いつまでも佐藤に縋っていくわけにもいかない。

これは結局自分自身で解決するしかないのだ。

今の学校生活に限らず、自分のことを気に食わない人は今後の人生でも必ず出会う。

その時にはきっと、佐藤はもういない。

だからこそ、今佐藤と俊郎が支えてくれている今のうちに乗り越えていきたい。

千恵はそんな風に考えていた。



いつも通りの教室、誰も喋りかけてこない教室。自分の席に腰を降ろし、一息つく。

通知のないスマホをぼんやりと眺め、今朝も見たまだ更新されていないサイトに目を通す。


「ぎゃははははははは!」

と耳障りなボリュームの笑い声が廊下に響き、その声の主がだんだん教室に近づいてくるのが分かった。

嫌でも体が反応してしまう。

いじめっ子三人組の登校だった。


気にしないフリをして、イヤホンで耳を塞ぎ机に突っ伏す。

予鈴のチャイムまで残り五分。

その時間が永遠にも感じた。


―――暗闇の中、髪の毛に激痛が走った。

強引に髪を持ち上げられ、視界が急に明るくなった。

正面を視認すると、血の気が一気に引くたことが分かった。


千恵の目の前には

池田愛

関根由佳

矢田郁美

の三人組が半笑いの表情でこちらを見ている。



「な……なんだよ」

突然の攻撃に動揺を隠せない。

「お前、昨日佐藤の病院に見舞いに行ったんだってなぁ」

リーダー格の池田がニヤつきながら尋ねた。

「だ……だからなに」

千恵は必死に強がってはいるが、恐怖で手が震えていた。

掴まれた前髪はまだ離されない。



「佐藤が誰のせいで入院したか知ってっか?」

「は……?どういう意味……?」

千恵の反応を確認した一同が下品な笑い声をあげた。

特に矢田は腹を抱えて笑い目から涙が零れている。



「お前のせいだよ」



それを聞いた千恵の瞳孔は大きく開いた。

手の平が汗をかいたのが分かった。

心臓の音が聞こえてしまうほどの動機がした。


「どういう……意味……?」

「あんた最近、佐藤と仲いいみたいじゃん?

なんか気に食わなかったから、私の彼氏とその友達に頼んでボコってもらったんだよね。

あんたさぁ、もう佐藤と話しすんなよ。またあんたらが話しているところ見かけたら、今度は腕一本じゃ済まさねから」

そう言い終わると、池田は千恵の腹部に腰の乗った拳を入れた。

「ッッ………」

突然の暴力に反応が間に合わず、千恵は息が出来なくなる。

辛うじて絞り出した声が、縮こまった喉で鳴る。


「てめぇの笑った顔、ムカつくんだよボケ。殺すぞ」

痛みで前屈みになっている千恵の耳元で池田はそう呟いた。



クラスメイトの一人が立ち上がり、止めようとした瞬間都合よく予鈴が教室に響いた。

それを聞くと池田は掴んでいた千恵の髪を解き、聞こえるように舌打ちをして自席に戻る。





殴られた腹部よりも、胸の真ん中らへんがずっと痛くなった。


「……わたしのせい?」


そんな自責の問いが授業中ずっと頭の中をグルグルと巡った。

「私が佐藤に縋ってしまったから?」

「私が佐藤と一緒にいたいと願ってしまったから?」

そんな身分不相応な願いを持ってしまったから、佐藤はリンチを受けて腕を折られてしまったの?



――――やっぱり一緒にいないほうがよかったんだなぁ

わたしなんかと出会わなければ、痛い思いも何もしなくて済んだ。

わたしなんかと出会わなければ、わたしなんかに時間を使わずに済んだ。

佐藤はもっと楽しいことにたくさん、時間を使えたのに……。


やっぱり心配と迷惑しか掛けられない存在なんだなぁと

千恵は繰り返しの中、そんな結論にたどり着いてしまった。

そんな回答に辿り着く程の時間と、佐藤と出会うまでのストレスは

千恵の思考をそんな風にしてしまうのには十分すぎる理由だった。


まぁ元々一人だったんだ。ここ数日だけ特別だったんだ。

何も変わらない。大丈夫……。

うん、大丈夫。


一人でも頑張ろう。



………それにしても「階段で転んだ」なんて

そんなバレバレの嘘つくなんてさぁ。

……それも全部わたしのためだったんだね。


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