害された気分
俺を職員室まで案内した後、優奈は自分の教室へと駆けて行った。
ここで俺は担任且つ要注意教師である師岡先生とご対面ってわけだ。
どんな人かと思っていたら、折りよく職員室の扉が開く。出てきたのは中年の太ったオッサン教師だった。
「あー、君が成瀬かね?」
「はい、初めまして。成瀬裕也といいます」
「担任の師岡だ」
――なるほど、如何にも感じ悪そうな印象だ。普通なら転校生を歓迎するのだろうが、この人においてはそんな様子も見られない。
「早速ついて来い。腐ったアホ共の集う教室、1年2組まで案内してやろう」
腐ったアホ共――とは間違いなく生徒達のことだろう。
それにしてもまあ随分な言い方だな。クラス全員が不良ならまだ分かるが、優奈曰く不良は居ないらしいし。
さて、この先生に取る態度にはどうしたものか――考えていると、案外早く教室に着いた。
2階に1年の教室が集中しているらしい。
「合図があるまでここで待っていろ」
そう言って師岡先生は教室に入っていく。合図があるまで暇な俺は、教室内の声に耳を澄ませる。
「静かにしろ!」
師岡先生の怒声。
「さっさと席に着け!」
再び。直ぐにざわめきが収まった辺り、どうやらよほど警戒されているらしい。
警戒というよりは、あれか。面倒なことになる前にサッサと命令に忠実になろうってやつか。
「ホームルームを始める――あぁ、その前に転校生の紹介だ。入って来い」
おっと、合図があったようだ。早速俺は中に入り、教壇の前に立つ。
――まあ、当然視線は集まるわな。こういうの得意じゃないんだが。
見ればグラウンド側の窓際の席が空いていて、その隣では優奈が微笑んでいる。あそこが俺の席のようだ。
「自己紹介をしろ」
「――成瀬裕也です。よろしく」
「聞くところによると、成瀬は都会からこのチンケな田舎まで引っ越してきたそうだ。いわゆる落ち武者ってヤツだ。分かるな? 穢れたくなければ浮かれて深くかかわらないことだ」
「――あ?」
師岡先生の思わぬ発言に過去が脳裏に蘇り、寸での所で堪忍袋の緒が切れそうになる。
「誰が落ち武者だ。まだ落ちぶれちゃいねぇよ」
「むっ……そういう発言をしとる、即ち落ち武者じゃないのか」
「――」
ここは抑えなくては。迂闊な発言は師岡の機嫌を損ねるどころか、俺の過去がみんなにばれる可能性もあるわけだ。
深水一家でさえ何を思っているか分からないってのに、これ以上俺の居場所を失くさないでほしいな。
「だったら俺が落ち武者かどうか、今後の学校生活で証明してやるよ」
「――もういい。あそこがお前の席だ、さっさと座れ」
言うよりも早く、俺は早足に席に着く。
全く、転校初日からこんなにも気分を害されるとはな。師岡とは、思った以上に腐れきった教師のようだ。
「――ね? 感じ悪いでしょ?」
「あぁ」
こっそり耳打ちしてくる優奈である。
その後ホームルームが終わると、優奈が友達数人を連れて俺のところまでやってきた。