五右衛門風呂
部屋を出て、リビングにでる。
「どうしたの?」
「実は赫々云々で」
「あぁ、なるほどね。任せて」
事情を説明し、おばさんに届けてもらう事にした。
母親なら文句は言わないだろうと思っての結果である。
「――」
夜のリビングは閑散としている。
皆それぞれに個室があり、尚且つテレビなども備えられているために誰も部屋を出ようとしないのだという。おばさんだけは家事で忙しくしているようだが。
というわけでリビングにいてもつまらない。用事を果たした以上、ここにいる理由もないわけだし。俺は部屋に戻った。
◇ ◇ ◇
「――――はっ!」
「あ、やっと起きた」
部屋に戻って、寝てしまったらしい。あれから1時間ほど経過している。
目の前では優奈が俺の顔を覗きこんでいる。距離が近くて、ふわりとシャンプーの香りが漂った。
「ほら、お風呂入っておいで」
「あ、あぁ……」
寝惚けた目を擦り、俺は風呂場へ向かった――
「――って、五右衛門風呂かよ!」
円形の風呂釜を見て、そう思った。タイルを拵えるなど近代風にアレンジされているが、まさか五右衛門風呂だとは思わなかった。
今時こんな風呂より安上がりなのあるだろうに。しかも五右衛門風呂の隣はちゃっかりとシャワーあるし――おじさんの趣味だったりするのだろうか。
「――」
洋風のシャワーを終えて、和風の風呂へと入る。
ちゃんと風呂釜の底には木製の板を沈ませる。こうしないと足元が熱くて仕方がない。
一体お湯の温度調節はどうやっているのか、案外良い感じの湯加減である。
「ふぅ」
「湯加減どう?」
「あぁ、良い感じ――ん?」
――俺は一瞬、場の空気が凍りついたと思った。いや、実際に凍りついた。
「な、なんでいるんだよ優奈!?」
足音も物音も立てず、いつの間にか優奈が俺の前にいた。
「だって、五右衛門風呂なんて初めてでしょ? 使い方分かるかなって思ってさ」
「使い方くらい分かるよ!」
「あれ、意外。知らないかと思ってた」
「そりゃあ風呂場入っていきなり五右衛門風呂だと驚くけどよ、基本的な使い方は分かってるつもりだよ」
「そうなんだ。じゃあここに来るまでもなかったかな」
平然としている優奈だが、果たして現実を理解しているのだろうか。
俺全裸。目の前女。入浴剤と風呂釜の陰が良い感じに隠しているからいいものの、一歩間違えれば俺のナニが丸見えだ。
「――優奈、羞恥心ってのはないの?」
「え、いや、恥ずかしいよ?」
「全くそういう風には見えないんだが」
「努力してるの!」
「凄いなその演技力。演劇部にでも入ったら?」
「私演劇部だよ」
「マジかよ」
「あ、裕也君も演劇部強制ね」
「いや、俺部活やろうとは思わないんだが……」
「いーからおいでよ!」
「へいへい」
こうして、慌しい今日は過ぎていった――