裕也の部屋
「ここだよ」
「ここ――って」
勉強机が2つ。ぬいぐるみ。ピンク色の敷物。もう話が見えてる。
「――先に聞きたい」
「何かな?」
「元、誰の部屋?」
「優奈だよ」
予想的中。
「いやね、本当は君専用の部屋もあるんだよ。でも物置になってて、まだ掃除できてないんだ。だから優奈の部屋で我慢してくれないかな。優奈も快く許可してくれたから、安心して寛ぐといいよ」
祐希の部屋ではない、転じて同姓同士で纏まっていないところが謎である。
「――因みに、祐希の部屋は一体……」
「あー、それ僕も思ったんだけど……」
この質問が飛んでくる事を予想していたのか、若干苦笑いの祐希さん。
「僕の部屋、見てごらん」
「お、おぉ……?」
優奈の部屋の向かい側が祐希の部屋らしい。扉の取っ手を手に取り、あけて電気を点けてみると――
「――」
「――ね?」
足の踏み場がない、とはこの事を言うのだろう。床には色んなものが散乱してて、敷きっぱなしの布団の上だけ綺麗だった。
しかも部屋全体が肌色だ。壁のみならず天上や襖にまで、隙間なくビッシリとポスターが貼られている。
ポスターだけじゃない。フィギュアやグッズまで買い揃えられており、ゲーム機などの家電にもシールが貼られていたりとトコトン染めている様子。
染めているのは全て、9人の主人公から成るアニメのキャラクターだ。名前は忘れたが、中でも紫髪の人のが多い。
――うん。確かにこれは他人を招ける部屋じゃない。
「いやぁ、巨乳っていいよね」
見惚れたように――実際に見惚れているのだろうが――そのキャラの胸を見て、光悦とした表情を浮かべる祐希さん。
何というか――イメージと全然違う。この方いかにもリア充って感じがしたんだが、やっぱ現実は甘くないってことなのか。
最近の女子は金持ちでイケメンなら良いとか言ってるらしいが、どうなんだろうか、そこんとこ。
――って、何を真面目に考えてるんだ俺は。
「お兄ちゃん」
「!?」
いきなり優奈の声が聞こえてビックリした。っつか、足音聞こえなかったぞ。
驚いたのは祐希も同じらしく、慌てて勢いよく扉を閉める。どうやら俺は妹さえ知らない趣味に触れてしまったらしい。
「そういえば気になったんだけどさ」
「ん?」
「裕也君のこと。別に私の部屋じゃなくても、お兄ちゃんの部屋で良かったんじゃない?」
「そ、それは――」
一瞬だけ言葉を探し、すぐにぎこちなく口を動かす。
「裕也がここに来る前、言ってたんだよ」
「?」
――は? え、何を? 俺何言ったの?
「男の部屋よりは女の子の部屋のほうが良いって」
「いやちょっとまて、言ってないぞ! 俺はおじさんと少し話をしただけで他は何も喋ってないから!」
「あー……あはは」
困ったように笑う優奈である。
「裕也君も、そういう年頃なんだね」
「ち、違うって! だから――」
「でも、初対面でいきなり襲おうとするのはダメだと思うなー」
「別に禁欲主義じゃないけど俺はそこまで落ちぶれてない!」
適当な理由をでっち上げるのは良いが、それで俺を巻き込まないでほしいんですが祐希殿。
「あはは、冗談冗談。どれだけ整理整頓しても部屋が広くならないだけだから、特に深い理由はないよ」
「なんだ、そっか」
冗談という言葉がどれだけ卑怯か、今この時思い知った気がする。
こうなったら仕返ししてやろうかとも思ったが、流石に無礼かと思って止め、手を引かれて優奈の部屋に入っていくのだった。