拒絶
さて、寝かせたは良いもののどうしようか。
店も遠ければ趣味も無いため、現状では新しい暇つぶしの手段が潰えている。よって、お駄賃が溜まっていく一方で暇つぶしの手段が無い。
今この時のみならず、それはいつだって同じことが言えるわけで。
暇になると暇つぶしができない――分かってはいるのだが、農作業ばかりやってた所為で気にしなかったのだ。まさかこんなことになろうとは思いもよらず、想定外の暇である。
今日は休日。優奈により強制入部させられた演劇部の活動も無く、予定では農作業を手伝うつもりだった。
――すると。
「裕也、おるか?」
ノックと共に、おじさんの声が聞こえてきた。
「入るぞー」
「えっ」
しかも了承もなく入ってきた。
何ということだ、膝の上では優奈がスヤスヤと寝ている最中だというのに。
「荷物を運ぶの手伝……」
「……」
俺の膝で寝る優奈を認め、固まるおじさん。
同じく俺も固まっている。
「――裕也」
「はい」
「優奈に何かしたか?」
「なわけ! ただ――」
この際なので、俺は現状の優奈について話してみることにした。
おじさんはそれを真面目に聞き、話し終えたところで、うんうんと何度か首を振ると。
「裕也」
「はい」
「諦めるんだ」
「マジっすか」
「大マジじゃ。その様子じゃきっと何を言っても止めん――大人しく懐かれとけ」
「ちょ……」
荷物運びの手伝いは何処へやら、おじさんはそのままカッカと笑って部屋を出て行った。
「……」
残された俺は、尚も固まるのだった。
やがて硬直が解けたきっかけと言えば。
「――エアコン、さみぃな」
設定温度を変えながら、ふと何となく優奈の頭を撫でてみる。
彼女の柔らかな髪は撫でているだけで心が和らぎ、不思議とどこかほっこりできた。
――何となく新鮮で、どこか懐かしい感覚だ。
満更ではなく嫌な気もしないが――何故か拒絶反応があって、俺は手を除けるのだった。
「――元気に生きろ」
誰かの言葉が脳裏を過ぎる。
声色も主も不明で、誰のかは分からないが。
これも懐かしくて新鮮で、拒絶してしまうものだった。