光と影
それから色んな場所で遊び倒す中。
「ちょっと君たち」
この大人数を誰が何だと思ったのか、おまわりさんの登場である。
「は、え? 何で警察?」
立花をはじめ、ある程度考えの浅そうな連中は皆慌て始めた。
「だから言ったろ、今日は平日なんだ」
「でも俺ら学校休みなんだぜ? 何で疑われてんだぁ?」
「唯の警察だ、俺らが休校だなんて知るわけないさ」
きっとそうだ。テスト期間中にショッピングモールへ行くのと同じなんだ、きっと。
「違うんじゃないかな」
「え」
優奈が横から入ってくる。
「木立川学園の事情、多分知られてるよ」
「じゃあ一体――あ」
「分かった?」
うむ、大体察した。
唯の休校なら、他のクラスや学年の生徒がここに遊びに来ててもおかしくないはずだ。
だが今はどうだ。来ているのは俺らだけだ。それも全員勢ぞろいで。
結論を言えば"はしゃぎ過ぎ"である。
世間が木立川学園について噂している中ではしゃぐ俺達。差し詰め警察は、慎めとでも言いたいのだろう。
「大人しく家に帰りなさい」
「――わりぃ、みんな」
渋々と警察の言うことに従う。まあ仕方ない。
明らかに落ち込む立花をみんなで「気にするな」と慰めるのだが、あまり効果はなさそうだった。
◇ ◇ ◇
結局、半日くらい暇になる。
俺と優奈はリビングでテレビをつけたが、平日の真昼間から面白いものがやっているはずも無く消すに至る。
いくつかあるDVDは、どれも優奈の私物でラブストーリーばかり。流石に見る気になれない。
こうなったらゲームやるか漫画でも読むか――とも思ったが、ゲームはつい先日優奈と盛り上がってやること無くしたし、漫画も漫画で最近読破したばかり。
新しく何か買うのもアリかと思ったが、碌な計画もなくモノを買うのは、少ない小遣いで生きてきた俺にとってはポリシーに反する。よって、結局外に出るのもやめた。
ならば料理でもして身内の帰りを迎えようか――と思ったところで、俺は先日交わしたおじさんとの会話を思い出した。優奈は料理が絶望的に下手なのに自信を持っているから、2人で居るときに何か作るのはやめたほうが良い――とのこと。
「……」
結論。つんだ。
隣にいる優奈といえば、いつのまにか俺の肩に頭を乗せて心地良さそうに眠っている。
窓から差し込む日の光が良い感じに俺らを照らしていて、隣から聞こえてくる寝息のリズムと相俟って――なんだか俺まで眠くなってきたぞ。
ま、たまには昼寝も良いだろう。座ったまま日の光でまどろむのもまた一興、俺は睡魔に身を任せた。
◇ ◇ ◇
「……?」
「あ、起きた」
目を覚ますと、夕方だった。リビングが夕焼けで黄昏時に染めている。
「んー……ん?」
何かおかしい。そう思ったのは、ぼやけた視界がはっきりして来た頃。
しかも、どうやら横になってるみたいだ。いつの間に横になってしまったのやら――と思いつつ、俺を見下ろしている優奈を見ると。
「……!?」
何かおかしい――その原因が解明した。
結論を言うと、膝枕の状態である。
「ご、ごめん優奈!」
「いいの。私がやったんだから」
「え?」
何故、と問う前に答えが帰ってくる。
「言ったでしょ、温もりを思い出してって。裕也君はそうやって、少しずつ人との関わりを思いだすといいよ」
「……」
関わってはいけない。思い出してはいけない。そうすれば、優奈は死ぬ。
そう言い聞かせているのに、俺は――甘えてしまう。
心の渇望には勝てないようだ。
「全部聞いたんだよ、お父さんから。お父さんは、裕也君がいた孤児院の院長さんから。偶然とはいえ、つらいこと経験してきちゃったんだね」
「――偶然だと思う?」
「そりゃそうだよ。だってファンタジーじゃあるまいし」
「……」
最初に優奈を見たとき、俺は太陽みたいな奴だと思った。それはどうやら合っていたようで、微笑む優奈の笑みは――俺には眩しすぎる。
強い光ほど濃い影を作り上げる。俺の中にある何かの壁――その向こうにある傷だらけの心は、より漆黒へと染まっていくのだ。
この子だけは殺してはいけない。出来る事なら前を見て、その明るさに見合った将来を歩んでほしい。俺とは即ち、前に居られるような人間ではないし。
だが、光と影は表裏一体。もしも、俺がその脇役になれるなら――――
――――進んで他人と関わろう。