高熱以上の温もり
「……?」
目を覚ますと、俺の部屋だった。
なんだろう。なんか変な夢を見ていたような気がするが、気のせいだろうか。
「――あ、やっと起きた。もー、なんかいきなり倒れたから心配しちゃったよ。大丈夫なの?」
傍らには少しむくれた優奈がいる。そういえば俺、頭痛で気絶したんだっけ。
「あぁ、わりぃ」
軽く返事をしておくが、優奈の機嫌は収まりそうに無い。
さてどうしたものかと考えつつ、無理矢理に身を起こす――が、若干身体が重い。それに熱っぽいし、風邪でも引いたか。
それにしても、突然倒れた俺に対して救急車を呼ばない辺り、流石は田舎である。
まあ、呼ばれたら呼ばれたで困るんだけどな。
「凄い熱だけど、ほんとに大丈夫なの?」
「何度?」
「40度」
「何だってぇ……?」
まさか本当に風邪だとは。
「――ねぇ、無理してない?」
「ん? 何が?」
「だって裕也君、ここへ来たときからすごく辛そうな顔してるんだもん。表面的には笑ってるけどさ……」
――優菜には敵わん。このとき俺はそう思った。
確かに務めて平静を装っているが、本当は泣きたいくらいだ。自分で言うのもなんだが、それくらい俺の過去は壮絶である。
いじめを受けなかったときなど無く、孤児院でさえ身を狭くして暮らし、周囲の優しかった人たちは皆挙って死んでいく――
もう心が折れそうだ。
「――裕也君」
「?」
すると優奈は、俺の手を握ってきた。
40度の高熱を出しているはずなのに、何故か優奈の手の方が暖かく感じる。
これは――
「私の手、あったかい?」
「――うん」
「だったらそれは温もりだね」
――ぬくもり。懐かしい響きだ。
「私はいつも此処に居るから。絶対何処にも行ったりしないから、どうか温かい気持ちを思い出して」
――そうだ、これだ。
おぼろげながら優奈に母親の姿が重なり、まだ小さかった俺にくれた人間のぬくもりを思い出す。
両親を失くして以来、俺が心のどこかで求めていたもののひとつ――
「……ありがと」
こんな気味の悪い男に対してなんて優しいんだ。
くそっ、こんなときに限って語彙が少なくなる自分が腹正しい。
お礼しか言えないなんて。