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愛してる

作者:

窓から差し込む光で目が覚めた。どのくらい眠っていただろう。

すっかり弱ってしまった体を動かそうとするが力が入らない。

悔しくてぐっと手を握ろうとすると誰かに手を握り返された。

視線を移すと何時も通りの君が私の手を握っていた。


「おはよう」

そう微笑む君に「うん」と短く返事をする。

どのぐらい寝てた?と聞くと、一週間は眠っていたと返ってきた。

日々死におびえている暮らしだ。段々と寝ている時間が長くなっている気がする。


それでも目が覚めるといつも君が私の手を握ってそこにいる。

もしかして幽霊?なんて聞いたことがあったがすごく笑われたことを思い出す。

それぐらいいつもそばに居てくれるのだこの恋人さんは。


「すこし外に出るかい?」

そう言って車いすをひいてくる君はすごくうれしそうでどうやらそれに私は断れないぐらい心揺さぶられたらしい。

病院の近くの公園に向かうと缶ジュースを持った君が駆けてくる。

そして缶ジュースを開けて私に差し出してくれる。こんなちょっとした優しさが好きだった。

他愛もない会話をして病室に戻る。これが私たちのデートだ。


お互いに愛を囁いたり甘い言葉をかけることはなかったしこれからもないだろう。

好きだなんて、愛してるだなんてお互いを苦しめるだけだと私たちは知っているから。

手を繋いだり言葉を交わすだけで私たちはそこにある愛を確認していた。





その日は特に意識が混濁していた。そばに居る君の顔が霞んでとても見にくい。

君が何か必死に喋りかけているが私はそれをほとんど聞き取ることができない。

ただ一言を除いては。


「愛してる」


その一言だけが私に届いて一筋の涙がこぼれた。

どうして約束が守れないんだろう君は、、、そんなこと言われたら辛くなるのは君じゃないか。

絶対に口にしてはいけないよとあれほど二人で確かめあったのに。

不安になったの?あれほど愛し合ったのに。馬鹿だなぁ君は、、、


「わたしも、あいしてる」


必死に手を握る君に何か伝えたくて、無意識に紡いだ言葉は残酷で掠れた声で君にちゃんと届いたか分からないや。

最後の最後で過ちを犯したね私たち


一層強く握られる手が震えているのが分かった。

ほらやっぱり、辛いだけだったでしょう?そう思いながら何かで心が満たされていくのが不思議だった。


ああ、私ほんとはずっと望んでたんだ。言葉で証明して欲しかったんだ。不安になってたのは、私だったんだ




___その時、すべてが無音になった

もう君の泣く声も聞こえない

愛を囁くことも叶わない



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