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崩落まで、

おもう、こと

作者: 昭如春香

 


 うわぁ。


 私は思わず顔を顰めた。視線の先には最近転校してきた女子生徒__イズベルガ・マルギット・ロッシュと、この魔法学園に君臨しているあるいは人気のある六人の将来有望な男子生徒達だ。


 イズベルガを抱き締めている金髪碧眼に甘いマスクの男は、この学園の生徒代表を務めているフランツペーター・ホラント・プラッテだ。保有魔力は一般的な魔道師の十倍はあるらしい。またズバ抜けた魔道のセンスがあり、学生の身分ながら既に幾つもの新しく有用な魔法を発表した天才だ。宮廷魔道師に内定しているとかいないとか。


 その隣で然りげ無く彼女の手を取って恭しく口付けたの銀髪に紫紺の瞳の青年は、ドラゴンとの契約を成功させた召喚師アウグスト・ディーター・リッターだ。実家は伯爵家で、一族の中ではとりわけ優秀だとか。


 アウグストの頭を叩いたのは、この国の王家の第五王子であらせられるラインハルト・バルナバス・ティモ・レーヴェンタール様だ。建国をした勇者王の精霊剣・カリバーンに選ばれた魔法剣士だ。人懐っこい笑みで年上の女性を魅了しているとか。


 騒いでいる周りを放ってちゃっかりとイズベルガを心配そうに覗き込んでいるのは、六歳の時に予言により神殿へと迎え入れられたバルトロメウスだ。色素の薄い髪はゆるやかに後ろで結ばれている。繊細な顔をしていて、男なのか疑わしい。


 先ほどからイズベルガをとろけるような笑顔で見つめているのは、ラウレンツ・エンゲルブレヒト・ヘニッヒだ。どこか野性味を持った色男といった風貌だ。彼は数少ない占術の担い手で、女好きとして有名だった。しかしながらイズベルガには本気なようで、数々の女性との関係をやめたとか。


 中々イズベルガに近づけないでオロオロしている大人しそうな青年は商家としてここ数年頭角を現しているロンゲン家の嫡男ヒルデベルト・ヨーナス・ロンゲンだ。人当たりもよく、頭の回転も早い青年は、魔具師としての腕もいいようだ。


 イズベルガはそんな彼らとの間に奇妙な関係を築いている。一番関係性として近しいのは、きっと恋人なんだろう。あるいは、宮廷恋愛を題材にした小説で、一人の夫人が若い燕を囲んでいるのだろうか。夫人と違ってその財力や利権よりも、恋情で繋がっているのは確かだ。


 そんなイズベルガに対して良い感情を抱いていない人物は多い。イズベルガに愛を囁く彼らには概ね婚約者がいるし、容姿端麗で将来有望な彼らだ。そんな彼らに恋情を抱いている女の子は数えきれないほどだろう。


 私自身は、彼女に対してそんな嫉妬とかは抱いていない。何故かって? 答えは簡単な事だ。私は『関係性』が視えるからだ。


 一口に『関係性』と言って分かる事は多くない。一つは血縁関係。一つは関係性が相互であるか否か。一つは関係性に含まれる感情。そして、もう一つが___。



「ローザ? 何やってんのって、ゲ」


「何でもない……図書館に行く途中」



 思考はエッボが話し掛けて来たことで途切れた。ヴィートールト・エッボ・ベルトホルトは私の幼馴染で精霊魔導士として、この学院一の実力者だ。ちゃらんぽらんに見えるけど。


 そそくさと移動をしようとしたけれど、タイミングが悪かった。



「ヴィートールト? 良かったら、この後一緒に____」


「先約があるから」


「えぇ! ちょっとくらい____」


「急いでるんで」



 ぐいぐいエッボに引きずられながら、中庭を後にした。()()主に、ちらりと視線をやる。彼女の後から睨んで来る六人が殺気立っていて、私はさっと目を逸らす。



「選んだ方が、いいよ」



 ぽつりと呟いた言葉、きっと彼女に聞き取れないだろうし、例え聴いていたにしても私の意見を考慮する事はないだろうけど。


 私は『関係性』が視える。便利そうに思えるけれど、その実態は悪夢だ。


 『友達』だと笑い合う彼らの間には『嫉妬と憎悪』の糸で結ばれていた。


 『夫婦』だと手を繋ぐ彼らの間には『無関心』の色。


 そして『恋人』だと恋情を抱く彼らの間には圧倒的なまで『執着』。


 私はイズベルガ・マルギット・ロッシュの姿を見た事がない。なぜなら、彼女の姿は沢山の糸で覆われていたから。糸の色から分かるのは、『嫉妬』『憎悪』『恋慕』『親愛』。それらがぐるぐると彼女に巻き付いている。


 その中でも恐ろしいのが、負の感情ではなく、『恋慕』。握りこぶしくらいの太さの糸__もはや縄か__が彼女の首や腕や足に巻き付いている。


 それも、六本も。


 当初見たよりもその太さは増しており、太さとは即ち危険性や執着性の現れとも言える。何か一つでもバランスが崩れてしまえば____。



「放って置けよ」


「…………でも」


「一人を選ばないアイツが悪いんだから、放って置け」



 分かってて、やっているんだから。そうエッボは言った。


 理解しているのか。ならもう、私にできることはない。







 こうして、私は天秤が崩れるまでを、傍観したのだ。




.

思う/想う/憶う/念う、こと


●イルムヒルト・ローザ・ディンケル

この作品の『私』

占術魔術科一年の、ぼんやり系傍観少女


●ヴィートールト・エッボ・ベルトホルト

『私』の幼馴染で精霊魔法科一年で期待の新星

チャラい系イケメン


●イズベルガ・マルギット・ロッシュ

最近転校してきた教養魔法科二年の少女

逆ハーなう


●フランツペーター・ホラント・プラッテ

将来有望な学院の天才魔道師で高等魔道科三年所属

金髪碧眼の俺様系イケメン


●アウグスト・ディーター・リッター

伯爵家次男坊&天才召喚師 召喚学科三年

寡黙男前系イケメン


●ラインハルト・バルナバス・ティモ・レーヴェンタール

教養魔法学科二年所属

爽やか系イケメンな第五王子


●バルトロメウス

神聖魔法科一年の将来有望な神官

男の系なツンデレ


●ウレンツ・エンゲルブレヒト・ヘニッヒ

占術科教師の一人で有名な占術師

野性味ある色男


●ヒルデベルト・ヨーナス・ロンゲン

イズガベルトの幼馴染で教養魔法科二年

実家は商家で魔具師として修行中


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― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして。 全部の作品、面白くて何度も読んでしまいました。 特に崩落シリーズは大好きで、連絡として読んでみたいです。 底冷えし、風邪が流行っていますので体調には気をつけて下さいね。…
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