あの男とその友人
「だから、言い方ってもんがあるだろってことだよ」
目の前の男は、コーヒーカップを弄びながら面倒くさそうにそう言った。
少し明るめの髪と瞳の色に、日本人にしては長い手足。
ちょっと小洒落たカフェに身をおけば、周りに座っている女性客がチラチラと様子を伺うほどには有馬 瑞樹は整った容姿であった。
俺の友人である。
「そもそもさ、普通に「陽菜の良さは俺だけが分かってれば良いんだよ」とか言えばいいじゃん」
「は?何それ。普通言わねぇよ。なに、お前そんなこと言ってんの。誰に?その女に?」
「その女いうな」
瑞樹の隣に座っていたボブカットの女が不機嫌そうな声を上げた。
「つかさ、デートなんですけど。久しぶりなんですけど。ぶっちゃけ邪魔なんだけど」
どうやら先ほどからずっと言おうと思っていたらしい不満を一気に吐き出してきた。
知ってるよ。
デートなのも久しぶりなのも、邪魔なのもな!
「俺、今、リア充の素敵な休日が許せねぇんだよ」
これだけ女向けのカフェに男二人で居るほど、俺は勇者ではない。
友人のデートに乗り込んでるだけだ。
正直、それもどうかと思わないでもないけどな。
「なんなの、それ。つか、瑞樹の予定を全部把握してるの?ホモなの?ホモなんでしょ」
相変わらず失礼な女だ。
瑞樹は360度どこからみても隙のない男だが、正直女の趣味は微妙だ。
「また、失礼なこと考えてるでしょう」
勘のいい女だな。
「陽子の良さは俺だけ知ってればいいんだよ」
瑞樹は自分の彼女である田中陽子に極上の笑顔を向けた。
名前まで平凡だな、田中陽子。
そして瑞樹。。。
言ってるのか・・・。
「あんた、世の中の田中さんと陽子さんに泣いて謝れ」
それでも瑞樹の極上の笑顔で機嫌を直したのか、俺に対して釘は刺してきたものの取り敢えず静観することにしたらしい。
目の前に置かれているカップに手を伸ばすと、そっと紅茶を飲み始めた。
「見た目だけ王子様みたいな顔した男と、名実ともに本物の王子様に囲まれて傍目からみたら逆ハーレムみたいに思われてるのがホント嫌なんだけどねー」
どうやら前者が俺で、後者が瑞樹のことらしい。
田中陽子。
お前の王子様はお前と付き合うまで結構遊んでた腹黒王子だぞ。
「亘、余計なこというなよ?」
目が笑ってないぜ、王子様よ。