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齋藤一明 小噺集

セルフスタンド

作者: 齋藤一明

 セルフスタンド


 最近はやりの無人ガソリンスタンド。24時間営業で少量給油も手軽にできるうえに、やれ水抜き剤どうです? オイル交換どないでっか? なんてまとわりつかない気軽に利用できる給油所です。

 わたいも、ちょいちょい使わせてもろうてます。

 そやねぇ、一週間ほどなりまっしゃろか、オーナーの知らんうちに新機能が追加されてしもうたんですわ。

 付加価値いいますのん? ちょっとした便利な機能なんですけどね、誰が取り付けたんやらわからへんのですわ。

 それが一つの店だけやのうて、あっちゃこっちゃにおましてなぁ、絶対に大きな組織が関与しているて、皆で噂してましたんや。


 料金箱の横に小型給油機がおましてなぁ、飲み物が出るんですわ。ただし、一回の給油で一回しか使われへんようになっておます。

 ですが機械もんでっしゃろ、やっぱり動かんことがおます。

 今日もガソリンいれるついでに利用しました。空見たらお天道さんギラギラしてますしな、咽かわいてましてん。


 百円入れましてん、ワンコインですわ。安いさかいほとんどの人が利用してま。誰かて好きなんでっしゃろな。

 ……あかんがな、お金入れても出てけぇへん。

 機械に書いたある番号に電話したら、すぐにすっとんできましたわ。

 この暑いのに上っ張り着て、前掛けしてはんの。いつの時代やぁて笑えてきましたわ。


「毎度おおきに! 不具合でっか? すんまへん、えらい迷惑かけてしもぅて」


 若いのに愛想のええ兄ちゃんですわ。白塗りの自転車で汗ふうふうかいて走ってきよったさかい、モンクのひとつもて思うてたけど堪忍したったんですわ。


「……へぇ、すんまへん。こんで直りましたさかい。迷惑かけたよって、代金サービスさせてもらいます。ほな、おおきに!」


 兄ちゃん、颯爽と自転車こいで……。近頃おらん商売人でしたわ。


 えっ? 何出るのかか早よ言え? 

 別に意地悪してるんちゃいまんがな、こっから出るんはなぁ、……ビールでんねん。

 ビールちゅうても発泡酒でっせ。大き目のコップ一杯分ですわ。

 しやけど旨い! 生き返りますわ。


 よっしゃ! ガソリンいれたし、美味しいのいただいたし、元気に出発やー!


 スタンドの前の大通り、分離帯に柵がおますよって左しか行けまへん。

 ちょっと行ったら急カーブですわ。その先の信号まで行かんと向きが変えられへん。

 今日は心がウキウキしてま、一杯のビールのおかげでんな。


 急カーブ曲がったら、……あかんがな、検問やがな。

 しゃあない、窓細めに開けて免許証見せましてん。

 白ヘルのおっさん、怒ったような困ったような顔で検知器出しよりましたわ。

 アチャー、バレてもうた。

 マイクロバスに乗るよう言われて、行きまして。


 椅子にすわって風船ふくらませて……。

 免許の行方と罰金が心配でねぇ、生きた心地しまへんで、ほんま。


「ここに署名して」


 署名して拇印ですわ。

 紙の写し渡しながら、そのおまわり、何言うたと思わはります?


「毎度おおきに! すんまへんな、えらい迷惑かけてしもぅて」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 空見たらお天動さん ウチ、お天道さんやと思ってました、、、 地域制? [一言] いや~(笑) 一杯、飲(く)わされましたな~ かしこいな~ ボーナス前やろかーw
[良い点] 齋藤様らしいユーモアあふれる一作ですね。ブラック寄りの社会派なコメディがお得意なのかなと言う印象です。物語として意外性のある展開の連続で見せる構成がよく出来ているなと思いました。 [一言]…
[一言] 面白かったです。この作品を探すのに少し苦労しましたが。 書いている以上は少しは人を楽しませることを考えなければなりませんね。 私はビールが飲みたくなって買いに行きました。
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