まどろむ君と
買い物袋の中身を急いで冷蔵庫にしまってから、柾樹は日置の姿を探した。ガレージに車が戻っているのを見ていたからだ。
「日置さん?」
サンルームを覗くと、ソファーのひじ掛けから足がはみ出ていた。近づくと腕組みした日置が寝ていた。
陽光の射す暖かい昼下がりとはいえ、まだ冬も半ばだ。ワイシャツとスラックスのままの日置に掛ける毛布を取りに、柾樹は部屋を出た。
起こさないようにそっと毛布をかぶせてから、ソファーの傍らにひざまずく。
いつもは鋭い光を放つ瞳が閉じられると、まつ毛の意外な長さが際立つ。通った鼻筋、上唇よりもやや厚い下唇。この唇にもたらされる感触を思い出し、柾樹は頬を赤らめて目を逸らした。
サンルームは大きく窓が取られたうえ扇窓もあり、床も壁もオフホワイトを基調にしているため明るく暖かい。柾樹のお気に入りの場所だ。日置もよくここにいるから、気に入っているのだろうか。だとしたら嬉しいのだが。
かすかな寝息が聞こえてくる。急な仕事で疲れたのだろう。寝顔は安らかで、見守る柾樹に笑みが浮かんだ。
寝てたらかわいいな。
髪の毛の先をそっと撫でてみて、手触りを楽しむ。つるつるとして心地よい。起きないだろうかと伺った顔には特に変化は見られない。きりりとした眉は髪の毛と同様つやつやと輝き、きれいな毛流れで、目が吸い寄せられた。
軽くなら、触っても大丈夫かな?
じっとまぶたを注視しながら、眉に指先で触れる。毛の流れに沿って滑らせていくと、髪の毛より細く感じた。一本一本が規則正しい長さのそれは、指を細かくくすぐりずっと撫でていたくなる。思っていたよりも柔らかい。
ゆっくりなぞり眉尻まで届くと、閉じていたまぶたが突然開いた。ぎょっとして引こうとした手首を掴まれ、もろに目が合う。
「ご、ごめんなさい…起こした?」
「キスはしてくれないのか」
「ばっ……こんなとこで寝てたら寒いですよ」
掠れた声で問われ、柾樹は慌てふためいた。耳が赤いのか、じんじんする。
「ならばあたためてくれ」
にこりともしない男は毛布をめくり、スペースを示す。ここに入れということか。
仕方なくソファーに乗ると、すかさず抱き込まれ毛布を掛けられる。温もりのためだけでなく柾樹の体温が上がった。顔を見られたくなくて日置の胸元に埋める。日置の香りに胸が高鳴る。
背中を撫でられながら互いの体温が同化すると、徐々に強ばりが解けた。目を瞑り微睡む。
「…んっ……なにしてるんですか…っ」
その矢先に、裾から潜り込んできた手に胸をいたずらされ身をよじった。
「じかに君の肌で温めてほしい」
「何言ってるんですか……変なとこ触らないでください……っ」
にらみつけると、日置はため息をついた。
「……まいったな」
訝しく見つめた柾樹を強く抱きしめ囁いた。
「そんな顔をされるとめちゃめちゃにしたくなる」
「なっ……日置さん……」
柾樹はもぞもぞと身動ぎ、鼻を擦り付ける。
「柾樹、照れているのか」
ぎゅうぎゅうしがみついてくる柾樹に苦笑して、日置は背中を軽く叩いた。
「……日置さんならいいですよ……」
小声で柾樹がようやく呟く。すると顔を上げさせられ、近づいてきた甘い唇に目を閉じた。