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カウンシル・オブ・ウォー   (水曜日)

今日も、俺達四人は十六夜邸の一室に集まっていた。遊ぶためじゃない、真面目な会議をするためだ。

「さぁて、頑張るとしますか」

 と、悠木は言ってあくびをした。見るからにやる気がない。

「お前、真面目に参加するつもりがないなら帰れよ」

「嫌だなぁ、ミヤビくん。オレが真面目に何か考えるとでも思ってたのかい?」

 まさかの真面目に参加しない宣言だと!? 見損なったぞ、悠木!

「帰れ! 今すぐ帰れ!」

「そんなに怒らなくてもいいじゃないか。だってオレの頭でなんか考えるより、賢い皆さんだけで考えた方がいい案出ると思うぜ。オレは盛り上げ役さ」

「そんなのありか?」

「いいじゃないの」

 弥生が横から口をはさんだ。

「作戦は四人全員で考える必要はないし、人が多いと逆に話がまとまらなくなる。それに盛り上げ役がいた方が、楽しくなっていいと思うわ」

「私もそう思うです。堅苦しい会議よりも、楽しいほうがいいです」

 悠木のサボりを承認するのは癪だが、まぁ、雫がそう言うなら仕方ないな。相変わらず重要な仕事から逃げるのが上手い奴め。

「まずは何を目標にするか決めるです」

「目標? それは盗賊の二人を捕まえることだろ」

「必ずしも捕まえる必要はないの。彼らが家宝を盗むのを諦めてさえくれればいいのよ。私は話しあいで解決した方がいいと思うわ。もちろん、家宝のことを、他の人に内緒にしてもらう必要もあるけど」

「ミヤビくん、君は早くから参加していたのに、そんなことも知らなかったのかい? これじゃあ、エレガンスくんに降格かな?」

 俺が参加したのが早かったと言っても、一日しか違わないんだ。知らないことだってたくさんあるさ。それにいつまでエレガンスを引きずってんだ。そのネタはもう古い!

 心の中ではツッコミを入れても、表面上は悠木の言葉は無視することにした。

「説得すると言っても、あいつらが話を聞いてくれるとは思わないな。一度、男の方を説得しようとしたんだが、無視された」

「そりゃ説得のやり方が悪かったんだろう」

「そうね、もう一度他の人がやってみる必要はありそう」

 なんだよ、そんなに俺の言葉は説得力ないってのか。別にだれがやろうともさして変わらないだろ。あいつらを説得することなんて無理なんだ。そもそも説得して辞めてくれるような奴が、兵器なんて盗もうとしない。

「じゃ説得担当は……雫ちゃんどう?」

「ふえっ!? 私ですか?」

「それはいい案じゃないか! 雫は純粋で素直だから、話を聞きいれてもらえそうだ。それに可愛い女の子なら、相手も油断するだろ」

 と、悠木は言った。それを聞いた雫の顔が赤くなる。さすがにべた褒めしすぎじゃねぇのか、悠木。こんなの盛り上げ担当者の仕事じゃねぇぞ。

「ほらミヤビくん、君がふてくされて何も言わないから、盛り上げ役のはずのオレが頑張ってるよ。君もちゃんと意見言いなさいっ!」

 そう言われると、余計やる気がなくなるんだよな。しかしここで何も言わないと、俺がサボっていることになってしまう。

「まぁいいと思うぜ。もし危なくなったら、俺が助けてやる」

「大丈夫、自分の身は自分で守れるです。だってミヤビくんは、弥生ちゃんを守らなくちゃいけないですから」

「そういうわけにはいかないよ」

 俺にとって一番大切なのは雫なんだから。弥生が顔をしかめて言った。

「……ミヤビくんは本当にいざというとき雫ちゃんを守れるの?」

「えっ? だ、大丈夫……だと思う」

「じゃあ実戦してみようぜ!」

 悠木め、俺が一瞬不安になったのを分かって言ったな。結局俺への冷やかししかやってないじゃないか。

「トレーニングルームがあるわ。そこで確かめてみましょう」


 なんで都合よくトレーニングルームなんてあるのかなぁ……。しかもよりによって部屋移動の途中で島津に会ってしまった。

「お嬢様、どこへいらっしゃるおつもりですか?」

「これからミヤビくんの戦闘能力を調べに行くの」

「私もご一緒してよろしいでしょうか?」

「別にかまわないわ」

 昨日はすぐ逃げたくせに、こんなときに限ってついてくるのかよ。まさかこいつと戦うことにはならないよな?

 トレーニングルームは床が板張りの、大きめな部屋だった。壁一面が鏡になっている。まてよ、これ、ダンス練習するような部屋じゃねぇのか?

「バレエの練習のための部屋みたいな感じですね」

 ほら、雫だって言ってる。

「そうね、正しくはダンス全般を練習する部屋よ」

 やっぱりだ。和風の建物なのに、こんな部屋もあるんだな。でもダンスを練習する部屋って、トレーニングルームとはいわねぇよな? そんな俺の内心を弥生は察してくれた。

「ダンスのトレーニングルームよ」

 なるほど、屁理屈だ。こんな所で模擬戦闘なんてしたら、体ぶつけたときに痛いよな。考えて部屋選んだ? それともみんなで俺をいじめてんの?

「ミヤビくんの相手を誰がする?」

「私がお相手いたしましょうか?」

 と、島津は言った。ちょっと待て、さすがにプロ相手じゃ俺も絶対勝てねぇぞ。こいつはウサギより強いんだろ?

「島津では強すぎるわ、悠木くんはどう?」

「いや、オレは盛り上げ担当だから遠慮しとく」

 意気地無しだな。女の子に嫌われるぜ。

「それじゃあ、私が相手になるわ」

「えっ? 弥生が?」

「悪い?」

「いや、悪くないけどさ。女の子相手じゃ、なんか申し訳ないなと思って……」

この中の誰かが相手になるだろうとは思ったが、まさか弥生が相手になるとは思わなかった。これならば余裕勝ちだ。

「お嬢様、そのようなことをなさって大丈夫なのですか?」

「問題ないわよ。ミヤビくんは紳士だもの、手加減してくれるわ」

 島津は納得がいかないようであったが、渋々頷いた。

「ここで問題がないか見張っていますね」

 なんかごっつい男に見張られてると思うとやりにくいなぁ。


 俺と弥生は部屋の中央に残り、他の人は隅へと移動した。どうやら審判は島津がやってくれるらしい。彼が、決着がついたと判断するまで戦いは続く。道具使用不可、意図的に怪我をさせようとするのはなし。怪我させようとするのなしって、なんか戦いにくいルールだな。

「頑張れ弥生!」

「二人とも頑張るです!」

 雫が応援してくれてる(悠木は俺のことは応援していない)。頑張ってかっこいいとこ見せなきゃな。本気で行くから覚悟しろよ、弥生。

「では、初めっ!」

 先手必勝、一気に終わらせてやる。俺は一気に間合いをつめて、弥生の腕を掴もうとした。

 一瞬何が起こったかわからなかった。気付いたら足が地についていなかった。あれ、俺の背中に翼なんてあったっけ? 今まで気付いてなかったや。これが終わったらどんな翼か確認してみよう。なんかカッコいい奴がいいな。ヒクイドリとか。

 と考えていたら、そのまま落下し強烈な痛みを感じた。

「うげぇっ」

 そうだ、ヒクイドリは飛べなかった。

「勝負あり。お嬢様の勝ち」

 待てよ、島津。俺は鳥の種類を間違えただけで、弥生に負けたわけじゃねぇぞ。と、言いたかったが、痛みで声がでなかった。

「ごめんね、ミヤビくん」

弥生が見下ろして言った。

「いやぁ、圧勝だったなぁ」

 悠木が笑う。俺が負けたのがそんなにうれしいのか。

「弥生ちゃん、すごいです! 何かやってるのですか?」

「少しね、合気道を習ってたの」

 合気道? そんな特殊な技を使うなんてずるいじゃねぇか。

 痛みがだんだんと引いてきた。そろそろ話せそうだ。

「弥生が強すぎたんだ。相手を変えてくれ」

「負け惜しみか? オレはやんねぇぞ」

 悠木、ここは空気読んでくれよ。お前以外に、もう人がいねぇんだよ。

「他に人がいないから、私がやるです」

 と、雫が言った。


 今度は部屋の真ん中に俺と雫が二人きり。周りの観客さえいなければ最高の空間なのにな。

「二人とも頑張れよ!」

「ミヤビくんが弱いからって、油断しちゃだめよ!」

 今度は悠木も応援してくれたが、弥生の言いようは雫が勝つこと前提じゃないか。さっきのはまぐれだよ、いくらなんでもそう何度も女の子に負けれられねぇぜ。

「初めっ!」

 再び島津の声が響く。今回はむやみに近距離線を挑むのはやめよう。まずは相手の手の内を見てからだ。


俺が自分から攻撃をしないことを悟ったのか、雫は言った。

「ではこちらからいくですね!」

 よし、かかってこい。華麗にかわしてみせる!

 雫は思っていた以上に素早かった。避ける余裕もなく、一瞬で俺の腕を掴んだ。しかもその腕をしっかりとつかんで離さない

「やべっ」

「とりゃーっ!」

 あれ、おかしいな? また足が地面から離れたぞ。今度のはきっと超能力なんだ。今まで隠れていた才能が、危機になって突然開花したんだな。これでは高くは飛べないけど、ふんわりと浮くことができる。

 と思ったら、再び地面に落ち強烈な痛みを感じた。さっきもこんなことがあったような……。デジャヴってやつですか?

「勝負あり、メガネの女の子の勝ち」

 島津の声が遠くに聞こえる。なんか気持ちいいな。すごくいい匂いがする、これは花の匂いか? そうか俺は花畑の真ん中にいるんだな。

「ごめんなさい。少しやりすぎてしまったです」

 雫が俺のこと心配してくれているようだ。俺は幸せ者だなぁ。

「ミヤビ、大丈夫か!? 目の焦点が合ってないぞ」

 邪魔だよ、雫のことが見えないじゃないか。意地悪しないでどいてくれ。

「ミヤビくん!」

「どうやら体を強く打ったようですね。頭も打っているかもしれません」

「とりあえず、検査をしなきゃ」

「お嬢様、今はとりあえず安静にすることが一番なのです。だから……」

「本当にごめんなさい……」

「謝る必要はねぇよ。うまく受け身をとることができなかったこいつがいけないんだ……」

 声が遠のいていく。なんか変な感じだな。

 ……そういや雫って柔道部だっけ。


 目が覚めると目の前に弥生がいた。

「あ、目を覚ましたわよ」

 どうやら俺は気を失っていたらしい。知らない部屋(十六夜邸は広いのだから、知らない部屋にいたとしても驚くことではない)のベッドの上に横たわっていた。

「心配したんだぞ」

「一時間以上意識を失ってたです」

 そうか、そうだったのか。体を動かそうとすると激痛が走った。

「まだ動いちゃだめよ。大丈夫、精密検査をしたけど、どこにも異常はなかったわ」

「すげぇよな、一時間で精密検査が終わっちまうんだ」

 豪邸には医療施設とかもあるのかな。まさに、金持ちさまさまだ。

「じゃあ作戦会議の続きをやりましょうか」

「え、もう始めるの?」

「ミヤビ、お前が寝ている間にも会議はしてたんだぜ。とりあえず、やりやすそうな男の方を先に説得することが決まった。その間に女の方はたぶん島津とかいう奴におさえててもらうことになる。それで説得できれば、もちろんオッケーだ。説得に心配しても、男が何もしてこなかったら大丈夫。問題なのは男が攻撃してきた時、今その相談をしてたんだ」

 そうか、俺の知らぬ間に話は進んで行ったんだな。もう少し俺の心配もしてくれればいいのに。

「戦闘能力も顔さえもわからない相手と戦えって言われても、私にはできないです。さっきのはミヤビくんの身体能力が少しわかっていたから、どれくらいの力でどのように投げればいいのか、わかったのですが」

「ミヤビくんは彼と話したことがあるのよね?」

「彼?」

「盗賊の男の人」

「あぁ。話したってほどでもないんだけどな。ほとんど嘘ばっかりだった」

「何か役に立つ情報はなかったの? 確か、ミヤビくんは彼のことをヘタレだって言ってたわよね?」

 確かに言ったような……。よくそんなこと覚えているな。

「大事な所で腕が震えていたり、着地失敗したりしていた。女の方が戦っているのに、その戦いに参加したくないようだった」

「うーん、推測だけど、そこまで身体能力は高くなさそうね」

 おそらく、高くはないだろう。あいつが強かったら、島津を二人がかかりで襲っているはずだ。いくら脳みそまで筋肉の島津と言えど、二人相手なら今以上に苦戦するに違いないから。そういや、なぜ島津しか戦える奴がいないんだ?

「こういうときに戦闘サンプルでもあればよかったのにな。そう思わないかい、ミヤビくん?」

「俺が反抗してたとしても、相手が強いって結果が出るにきまってるだろ」

「とうとう自分が弱いことを認めたか。これじゃ他人をヘタレって言えるような立場じゃねぇよな」

 あいつは俺よりもヘタレなんだ。同じヘタレの俺が言うんだ……というより俺はヘタレじゃねぇよ。自分で何を考えているんだか、よくわからなくなってきた。

「あまり強くないなら、ある程度は反抗できそうです」

「そうね、いざとなったら……悠木くん、雫ちゃんをお願いね」

「オレ!?」

「そうよ、だって他にいないじゃないの」

 悠木は困り顔で俺を見た。あいつの本望は弥生だ。雫を守ったって何の意味もない、と思っているに違いない。本当は、その仕事は俺がやるべきなんだ。でも、悲しいけれど、俺は能力的な問題でできない。

「悠木、お前にしかできないんだ。頑張れ」

「仕方ねぇ、か」

「悠木くん、よろしくお願いしますです」

 と、雫は言った。うらやましいな。

「これで二人の仕事は決まりね。きっと男の狙いは私から情報を聞き出すことだろうから、私はおとり役をやるわ」

「じゃ俺は何をすればいい?」

「……」

 え? 何この沈黙?

「ミヤビくんは……」

「何があるですかね?」

「そもそもミヤビ、お前なんかできることあんの?」

 俺にできること……。

「カンは鋭いぜっ!」

「……」

「半分は妄想じゃねぇのか?」

「そうだけど」

「……」

「できることは、ないわね」

「俺だって、俺だってなんかできる、はず……」

 俺の特技って何だろう? 大したことはできない。頭はよくはない。身体能力は平均以下だ。走るのは嫌いだし、すぐ疲れるし、スポーツなんて面倒だし。

「ミヤビくんは、後ろで待機してくれればいいです。いざとなったら戦ったり、逃げる手伝いをしたりするです。判断力が必要な重要な仕事です」

 ありがとう、雫。なかなかよさそうな仕事を作ってくれて。それってつまり補欠だけど、物はいいようだ。

「とりあえず、これでやってみましょう。これで彼らを説得できればそれでいいし、失敗したらまたその時に考えればいいわ」

「すべてはあの男次第か」

 これがなかなか大変だ。ちゃんと人の話を聞いてくれるような奴だといいがな。

「オレたちは毎日来て待機するだけだな」

「頑張るですっ!」

 それから悠木が何かを思い出したように言った。

「毎日ゲームやってもいいか?」

「もちろん! むしろゲームの相手をこちらからお願いしたいくらいだわ」

 そして、俺達はまた巻き込まれるわけか。どうせ、弱い奴はいてもいなくても同じなんだろうから、二人だけでやってろよ。

「あのさ、雫、俺達は……」

「今度は簡単に負けたりしないです!」

 雫は、負けず嫌いだった。


 夜はものすごく暇だった。

 新しい部屋にはテレビがなかった。その上無意味なほど広く、一人でいると寂しくなる。そんな夜に限って眠れないものだ。

「はぁ……」

 明りを消して、どれくらいの時間がたったのだろうか。時計がないから正確な時間は分からない。もう体は痛くなかった。立ち上がり、窓から外を眺める。満月ではないけど、月が綺麗だ。

「ちょっと散歩してみようかな」

 俺は部屋からこっそりと(別にこっそりとする必要はなかったのだが)抜け出した。


 十六夜邸の夜は静かだ。秋だから鈴虫の声は聞こえてくるのだが、逆にそれ以外の音は一切しなかった。明りがついている部屋が少なく、なぜか照明器具も明りがつけられていないので、明りといったら月明かりぐらいのものだ。新月になって月明かりがなくなってしまったら、真っ暗になってしまうのだろうか?

 なんて、しんみりしてしまった。俺らしくもない。とにかくい暗いんだ、足元に石があってもわからないくらいに。

「うわっ!」

 本当に石に躓いてしまった。なんとか転ぶことなく体制を立て直す。ここで転んだら、あのヘタレと同類みたいじゃないか。

 あてもなく歩いてると、中庭の岩の上に人影が見えた。嫌な予感がする。俺はとっさに草陰に隠れた。

 目をこらす。岩の上の人はどうやらこちらには気付いてないようだ。もしあいつらだったら、即逃げて、島津に知らせよう。どうやら顔を伏せて……泣いてるのか?

 岩の上の人は顔を上げた。あれは、弥生だ。

「ミヤビくん?」

 バレてしまったか。夜目が聞くんだな。隠れてる必要もなくなったので、俺は立ち上がった。

「散歩してて、偶然通りかかったんだ」

「そうなの……」

 月明かりに照らされ、頬で水滴が光った。やっぱり泣いていたのか。

「なんで泣いてるんだ?」

「大丈夫、なんでもないの」

 大丈夫だったら泣いたりしないだろ。泣くなよ、弥生、と言ってやりたがったが、俺にはそんなことを言う資格はない気がして、何も言えず黙っていた。

「月、綺麗ね」

 と、弥生は言った。何か言わなくては。

「そっち行っていいかな?」

「うん」

 俺は弥生の隣に座った。でも、何も話せなかった。

「昼間はごめんね、ミヤビくんは役立たずじゃないわ。ただ、暴力的なことには向いていないだけ」

「別に気にしてないよ。それに俺、弥生に役立たずだなんて言われなかったぜ」

「そうだっけ」

 似たような意味合いの言葉を言っただけだ。他人の言ったことは覚えていても、自分の言ったことは忘れるんだな。

「ありがとう」

「突然なんだよ?」

「いつも私のこと助けようとしてくれるじゃない」

「助けることはできてないけどな。それに俺だけじゃない。雫や悠木もお前のために頑張ってる」

「……そうね」

 沈黙。庭の鈴虫の声だけが響いている。

「ごめんね」

「今度はなんだよ?」

「私のせいで、こんなことに巻き込んでしまって」

「弥生のせいじゃねぇよ。お前はどちらかというと被害者。いけないのは家宝と、それを盗もうとする奴らだ」

 また沈黙。とても長いような気がしたけど、本当は一瞬だったのかもしれない。正確な時間なんて時計がないからわからない。

 ただ、気付いたら俺は口を開いていた。

「弥生、これからどうなるかなんてわからない。不安にだってなるだろう。でもな、これだけは言っておく。俺はお前のこと見捨てたりはしない。何もできないような奴だけど、何もできないなりに、一緒に戦う」

「それは、最後までずっと?」

「ずっと」

 そこまで言って急に恥ずかしくなった。何いってるんだよ、俺! 本望は雫なんだろ。こんな所で何言っちまってるんだよ!

「ありがとう」

「また、ありがとうかよ」

 呆れながら振り向くと、弥生は泣いていた。

「ちょっ、なんで泣いてるんだ!?」

「ミヤビくんがやさしくしてくれて、嬉しすぎて……」

「勘弁してくれよ」

 弥生は涙を拭き、立ち上がった。

「ありがとう、ミヤビくん。私なんだか元気が出た」

 そう言って彼女は立ち去った。ありがとうも三回も言われると、ありがたみがなくなるもんだな。

「さて、俺も帰ることにしましょうか」

 その直後、俺は自分のいた部屋の場所がわからないことに気付くのだった。


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