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ブレイブ×ドロップ   (火曜日)

「ミヤビくんっ!」

 授業前に机に顔を突っ伏して寝ようとしていると、誰かに声をかけられた。空気の読めない奴だなぁ。顔を上げるとそこには悠木がいた。

「なんだ、お前か」

「残念だったねぇ、可愛い女の子じゃなくて。でもいっか、君には弥生ちゃんがいるんだもの」

「朝からうるせぇな。俺は疲れてんだ」

「疲れてる? どうしてかな? 彼女の家におとまりしたからかな?」

 いつにも増してウザいな。もしや昨日俺が弥生の家に泊まったから、なんか誤解してんのか?

「あのなぁ、俺昨日は弥生の家の警備やらされたんだぞ」

「そうだよな、何もできないお前がやれることと言ったら、警備くらいだよな」

 と、悠木は言いながらも安堵の表情を浮かべた。やっぱり変な誤解してたな、お前。でもな現実はそんなに甘くなかったんだよ。

「で、ミヤビはどんな活躍したんだい? ひよこが逃げ出さないように見張ってたのか?」

「盗賊団の捕虜になりかけた」

「……」

 突然悠木は黙りこんでしまった。なぜか俺の顔色をうかがっている。

「お前の妄想癖は昔から知っているが、そろそろ病院に行った方がいいと思う。さすがに妄想と現実を混同し始めたとなると、犯罪を犯しかねないぞ」

「いや、でも本当のことなんだ」

「そうよ、ミヤビくんは頑張ってくれたわ」

 いつの間にか弥生が隣に来ていた。

「私を助けてくれたもの」

 いやいや、それは言いすぎだろう。照れるじゃねぇか。悠木がうらやましそうな顔をして俺を見ている。人助けって気分がよいもんだな。

「オレも弥生の家に行きたいな……」

 やっと本音が言えたようだね。でも、そう簡単には豪邸には入れないのだよ、残念でした。

「いいわよ」

 えっ、いいのかよ? 悠木が小さくガッツポーズをした。

「今日行ってもいいかな?」

 弥生は頷いた。悠木はすっかりはしゃいでいる。二人の会話をなんとなく眺めていると、背後から声をかけられた。

「盗賊とか捕虜とか、面白そうです。私もお話に混ぜてもらってもいいですか?」

「別にかまわないぜ」

 俺は面倒臭くなって、声の主を確かめもせず適当に答えた。

「ありがとうです。小説の話ですか?」

「いや現実だよ。俺が盗賊に捕まりかけたんだ」

「ミヤビくん、面白いことやってるんですね。見直したです」

 そう言って俺の手を握った。驚いて見上げるとそこにいたのは雫だった。なぜかまた名前は違うけど、そんなことどうだっていい。彼女が俺に対して微笑んでいるんだ!

「あ、あ……」

 心拍数が一気に上がった。握られた手が汗ばむ。きっと顔も赤くなってる。やっぱり俺は雫のことが世界で一番好きだ!

「おっ、なんかいいムードじゃねぇか」

 悠木が冷やかしてきた。こんな時に限って彼はすぐに気付き、的確な邪魔をする。その才能を生せる仕事、どこかにあるんじゃねぇのか。報酬の入らない俺にその才能を使うなよ。

「いいムード? どういうことですか?」

 雫が首をかしげた。それと同時に俺の手も離す。残念。

「私はただミヤビくんがすごいなぁって思っただけです」

「君はそう思っているだけなんだろうけど、ね」

 ニヤニヤしている悠木を、雫は不思議そうに見つめた。頼むからそれ以上バラさないでくれよ。バラしたら今度は俺も弥生にお前の気持ちを話す。

 俺のテレパシー(?)が通じたのか、彼は訂正をした。

「なんでもない。オレが言ったことは気にしないでくれ」

「そうですか。ところで二人は何を話しているのです?」

 質問をされて今度は悠木が慌てた。何も答えることができない。

 雫は痛いとこをついた質問するなぁ。恋愛に興味がないようだから、本当に何も知らないだけなんだろうけど、逆にそれが怖い。気をつけなくては。

 まだ何も話せない悠木の代わりに弥生が質問に答えた。

「悠木くんが今日私の家に遊びに来ることになって、その相談をしていたの。……そうだ、せっかくだから雫ちゃんも一緒に来る?」

 え、何? 何なのこの展開? まさか弥生が気遣ってくれているのか?

「いいのですか?」

「もちろん! だって、みんなで行く方が楽しいでしょ」

「ありがとうです!」

 雫と一緒にいられるなんて、とうとう俺にも春が来たか。悠木が俺に気持ち悪いウインクをした。ジェスチャーで弥生に話しかける動作をし、雫を指さす。そうかやっぱりお前の仕業か。今回は素直に感謝するぞ。

楽しみだなぁ。弥生のことだから、四人でゲーム大会でもすることになるのかな。今日だけはウサギとおっさんも、空気読んで来ないでくれるかな。

「じゃあ、今日の放課後、五時に私の家の前集合ね」

「了解っ!」

 悠木が一人でやたら元気な返事をして、俺らの返事はかき消されてしまった。いくらなんでも調子に乗りすぎだろう。


 女の子二人が席に戻ると、すかさず悠木が話しかけてきた。

「どうにか協力して二人ずつ分かれるようにしないか?」

「せっかく女の子がいるのに、それじゃいつも通りだろ」

「いつも通りって、お前どういう分け方したんだよ! 二人ずつといえばオレと弥生、お前と雫にきまってるだろ」

 なるほど、それは名案だ。俺は頷いた。

「今の説明でやっとわかったのかよ。本当にデートしたことねぇんだな」

「まぁな」

 ん? おかしいぞ、何だか自分はデートしたことがあるような口ぶりじゃないか。

「悠木、まさかお前デートしたことあるのか?」

「もちろん!」

 初耳だ、こいつがデートに行ったことがあるだなんて! 何かの勘違いじゃないのか?

 俺の疑問に答えるかのように、小声で付け足した。

「まぁ、ゲームの中だけどな」

 つまり恋愛シミュレーションゲーム。それ、デートの回数に入るのか……? やっぱりお前には弥生の彼氏になる資格なんてねぇ!


 午後五時、三人は無事弥生の家の前に集合した。

「あれ? 雫ちゃんは?」

 雫はまだ来ていなかった。まさか来ないのか?

「あの子は遅刻しないだろうね。ということは何か用事が出来たんだろ。残念だったな、ミヤビくん」

「まだ決めつけるには早い。彼女だって少しくらい遅れることはあるさ」

 と、自分で言いながらも不安だった。

「遅れてごめん! 買い物に行ったら、知らない人と話しこんでしまったです」

 雫は走ってやってきた。知らない人と話したって、おいおい……。

「よかった、みんなそろったわね。ようこそ、私の家へ!」

 と、弥生が言うと、門が開いた。この門弥生の声に反応するんだな。

「うわっすげぇ」

「ほへぇー」

 初めての二人は豪邸に驚いている。ほへぇー、って雫可愛いな。

「雫ちゃん可愛い!」

 ん? 思ってたことをそのまま声に出しちまったか? いや違う俺の声はこんなに高くないはずだ。それに雫「ちゃん」なんて、恥ずかしくて呼べるはずがない。

 弥生が雫の頭を撫でた。

「見た目がちっちゃくて可愛いのに、話し方まで可愛いなんて。私の好みど真ん中よ」

「そ、そうなんですか?」

 やめろ、弥生。お前、現実の可愛い女の子も好きなのか。雫が状況を理解できなくて、困ってるじゃねぇか。

「え、これどういうことだよ? ミヤビ、お前なんか知ってたのか?」

 と、悠木。軽くパニックになっている。ここにも状況理解できてない奴が一人いた。

「弥生は可愛い物に目がないんだ。可愛くなればお前だって頭撫でてもらえるかもな」

「そうか。でもオレ、可愛さと無縁だからなぁ」

 ここで無理に可愛くなろうとしないことが、彼のいいところだ。俺と違って身の程をわきまえている。まぁ猫耳付けた全身がピンク色の悠木を見たくなかった、と言えば嘘になる。

「はぁ、弥生が可愛いもの好きだったなんて……。きっと校内では自制しているんだろうな」

「そうなのか?」

「オレしょっちゅう弥生のこと眺めてるけど、可愛いもの好きだったなんて初耳だ。きっと校内では自分の立場を考えて、バレないようにしているんだ。お嬢様だから。なんかオレらのお嬢様というものに対する妄想が、知らないうちに彼女の負担になっていたのかもな」

 こんなに真面目な顔をしている悠木は久しぶりに見た。ちゃんと好きな子のことを心配してあげられるんだな。あ、でも、しょっちゅう眺めてるっていうのはまずいんじゃないのか? このままだと来年には弥生のストーカーになって、島津に半殺しにされるぞ。

 なんて考えたら、ご本人様がやってきた。

「おかえりなさいませ、お嬢様。この様に沢山のお友達を連れていらっしゃるとは、珍しいですね」

 無理やり笑顔を作っているが、うんざりしたような表情を隠し切れていない。こいつ、子供全般嫌いなのかもしれないな。お嬢様は例外なんだろうけどさ。

「たまには賑やかでもいいでしょ」

 と、弥生は言った。どうやら島津の内心に全く気付いてないらしい。俺の想いも気付いてくれなかったくらいだから、当たり前か。全く、ここにいる女子は、なんでどいつもこいつも鈍いんだ。

「そうですね。では、私はこれで」

 さっさと自分の仕事部屋へと戻っていく島津。俺からしてみれば、逃げた。

「さぁて、どうしようか」

「これから何をするです?」

「あのさ……」

 弥生は言葉に詰まった。やっぱりあれをやりたいんだな。言いにくいなら、俺が代わりに言おうか。

「ゲームやらないか?」

 雫が首をかしげ、悠木が唖然とし、弥生が笑った。

「おい! なんでそうなるんだよ!?」

「いいわね、やりましょう!」

 悠木がかなり驚いたことは言うまでもない。


 人生二回目の連続百戦。何度やってもきついものはきつい。しかも今回は親指の筋肉痛がある。ほぼ素人の雫には申し訳ないが、ここでの立場は俺も似たようなものだった。ほとんど弥生と悠木の一騎打ちだ。

「なかなか、やるわね!」

「いやぁ、オレもここまで追い詰められたのは初めてだ」

 また弥生と悠木のキャラだけ残ってる。二人にとってはよき対戦相手かもしれないが、巻き込まれる俺達は正直退屈だ。悠木のやつ、自分だけ彼女との距離を縮めようとするなんて、なんか話が違くねぇか?

「皆さんすごいですね」

 雫は本当に感心しているようであった。彼女にとって、自分ができない組に入ること自体珍しいのかもしれない。

「こんなのできても何の役にも立たないぜ。ただの遊びだよ」

「でも熱中しているお二人を見てると、何だかうらやましくなるのです。それに悠木くんは絵だって上手いです」

「絵が上手いっていっても、あいつが描くのはイラストだ。油絵とかちゃんとしたものは描かないぞ」

 そして、萌え系の女の子のイラストばかり描いている。とまではさすがに言わなかった。

「そのイラストで、悠木くんは友達を楽しませてるです。友達を楽しませることができるのはすごいと思うです。尊敬するです」

 楽しませてるって、確かにあいつの描いたイラストを見た男たちは喜ぶが、それはあんまりいい意味じゃないと思うんだが。あ、俺はせっかくのいい機会になんで悠木についての話ばっかしてるんだ。

「雫、それよりもさ……」

「大丈夫か!?」

 悠木の言葉に驚いて振り向くと、彼が弥生を腕で支えていた。

「どうしたんだ?」

「突然弥生が倒れそうになって、とっさにオレがおさえたんだ」

 そこまで言った彼の顔が赤くなった。そうだよな、お前今好きな女の子を支えているんだぜ。上手くいけばそのまま……いやそれよりも今は弥生の心配をしろよ、俺!

「大丈夫……軽いめまいがしただけ」

 弥生はこめかみのあたりを指で押さえながらも、自力で起き上った。

「まだ具合が悪そうです。少し休んだ方がいいです」

「百戦連続ってのが、さすがに無理があったんじゃねぇのか?」

 いや、弥生は百回連続で格ゲーやったところで、体調を崩すような人じゃない。ましてや今回はまだ五十回ほどしかやっていないんだ。彼女が体調崩した原因は違うところにあるはずだ。

「ごめん、ちょっと違う部屋に行って休むわ」

「一人で行くのは危ない。オレが付き添おうか?」

 と、悠木。さすが、ゲームとはいえシミュレーション結果が出てるじゃないか。

「悪いんだけど、今回はミヤビくん、お願い」

 ……それは、俺に付添いをしろって言ってるんだよな? 

 仕方なく、俺は弥生の付き添いをする羽目になった。別に少し遠くの部屋に一緒に行くのは、悠木がやっても俺がやっても変わらないと思うだがな。一度フられた後だから(そう思ってるのは俺だかもしれないが)部屋についてまさかの告白タイムってパターンは、さすがにもうないだろうし。あの時は友達と言ってしまったけど、本当はミヤビくんのこと好きなんです! なんて……なくはない話だな。


 弥生が再び体調を崩すことなく、無事に部屋を移動した。

「どうしようか? まだ俺ここにいた方がいい?」

 彼女は頷いた。その後の気まずい沈黙。俺はこの沈黙が大嫌いなんだ。何か言った方がいいのだろうか? それとも何も話さないでほしいのだろうか?

 ふいに弥生は口を開いた。

「昨日、私の両親の話をしたわよね?」

 弥生を助けるために死んだ両親、確かにそんな話を聞いた。

「その続きの話。長くなるけど、聞いてくれる?」

「それは今、聞いた方がいいのか?」

 まだ彼女の体調は良くなったとは言えない状態だった。

「ええ、そうした方がいいみたいなの」

「そうした方がいいみたいって……まさか例の家宝を守るためのヒントをもらったのか?」

「そう。まずはその話もしなくちゃいけないわね。私の家に代々伝わる家宝は、実は神様から授かったものなの。その家宝を守るのが十六夜家の役目なんだけど、家宝はとても価値があって、そのうえ危険な物なのよ。強力な勢力が敵にまわって、私達の力だけじゃどうしようもない時だってあるわ。そんな時、突然誰かがヒントをくれる。いつも意識を失ってしまって、ヒントは誰がくれたものかわからないのだけど、なぜか目が覚めるとヒントの内容と、それを誰かに教えてもらったんだ、ということだけ覚えてる。私達はそのヒントを『神託』って読んでるの」

 と、弥生は一気に説明した。

 家宝は神から授かったものとか、「神託」とか、話が大きくなりすぎている。俺はてっきり、家宝は高そうな壺かなんかだと思ってたのに。

「危険ってどれくらい危険なんだ?」

「地球を滅ぼすくらい」

 地球を滅ぼすだって!? おかしいだろ、そんな中二病な家宝なんて、もはや家宝じゃない。それは兵器だ。こんな所にあるわけがない。

 だがどうだろう? 金持ちってのは、何かしら悪いことをしているものなのかもしれない。地球を滅ぼすって言うのは少々言いすぎだと思うが。

「家宝について、もっと詳しいことを説明してくれないか?」

「ごめん、それはできないの」

 また家長だけの秘密ってやつか。

「信じてくれる?」

 かなり信じがたいことだ。かなり危険な兵器が、平和な町の豪邸の中にあるなんて。地球を滅ぼすというのは信じることはできない。だが、弥生が言っていることだ、ほとんど真実なんだろう。

「全部は無理だけど、大体は信じるよ」

「ありがとう」

 弥生は笑った。

「で、何の話をしようとしていたのかしら?」

 まただ。こんな重要な話をしている時にまで忘れるとは。むしろ重要な話をしている時の方が忘れっぽくなっている気もする。

「家宝とか『神託』の話。あと弥生のご両親の話だよ」

「ああ、そうだったわね。家宝は今まで何度も狙われることがあったらしいわ。ほとんどは私の知らない時代のことだけど。今でも家宝がここに存在しているということは、私の知らない時代の祖先が立派に家宝を守り続けてくれたわけね。そして一回だけ、私が生まれた後家宝が狙われたことがあった。それは私が生まれたばかりの頃だったらしいわ。

その時の犯人は、十六夜家を恨んでいた。その恨みから家宝を壊してやりたいと思った。最初はその犯人が誰であるかわからなかったんだけど、私の両親は犯人から家宝を守るために、戦うことをきめた。その時両親はね、仲の良かった知り合いの男にだけ、家宝の秘密を明かしたの。その男は両親を全面的に協力することを誓ったらしいわ。そして、一か月もたたないうちに彼は殺された。家を焼かれたの。彼の妻と幼い息子も犠牲になった。その一家で唯一人、奇跡的に無傷で助かった彼のもう一人の息子は、犯人の顔を見ていた。その息子は証言をしてくれた。その息子の祖父、つまり家宝の秘密を知った男の父親は、残された息子を引き取り、私達一家と絶縁し、遠くへ引っ越していった。当然よね。大切な息子と、彼のお嫁さん、そしてお孫さんのうちの一人が私の両親が原因で殺されたのだもの。

とにかく、犯人が分かったことで事件は解決したと思われた。でも、それで終わりじゃなかった。犯人は十六夜家全体を恨んでいたけれど、その時は誰よりも私の両親を恨んでいた。警察に捕まる直前に、犯人はこの家に侵入した。私の両親は逃げることだってできたのよ。私さえいなければ。幼い私を守るために、私の両親は犯人に立ち向かい殺された。その後、犯人は私の存在を知ることもなく、自殺した」

 話し終えた弥生は一度ため息をついた。暗く悲しい話だ。結局は誰も報われなかったのか。家宝なんてなくなってしまった方がいいんじゃないのか。

「今、家宝がなければいいのに、って思ったでしょ?」

「うん」

「私だってそう思うわ。でも家宝をなくす方法がないのよ」

 家宝をなくす方法がない? よくわからないけど、このままでは不幸ばかり増えていきそうな気がする。それに今も不幸は増えているのかもしれない……。

「家宝の秘密を教えられた男の息子は、十六夜家を恨んでるんじゃないのか?」

「そうかもしれないわね」

「もしかしたら、その息子が家宝を狙うってことも……」

 ここまで俺の言葉を聞き、弥生もわかったらしい。

「カラス……確かに大体の年齢はあっているわ。たしか男の名字は、(から)(しま)。カラスの『カラ』は空島の『空』かもしれない。名前は知らないのだけど」

「つまり……」

「カラスと名乗る男は、家宝の秘密を知っていた男の息子の確率が高そうね」

 そうか、そうだったのか。くだらない盗人かと思っていたが、それだけの過去があったのか。親なし同士となると、同情だってしたくなる。

「でも彼は家宝について詳しいことを何も知らない。きっと父親は何も話さなかったのよ」

 それは良かった。でも、こんなこと分かった所で何になる? 弥生の能力は友好的な解決を導き出してはくれないのか。これじゃ弥生が可愛そうなだけじゃねぇか。俺は何のために呼ばれたのか……。

「カラスってやつにどんな過去があるにせよ、あいつのやっていることは悪いことだ。俺は弥生と一緒に家宝を守るぜ」

「ミヤビくん、ありがとう!」

 弥生は感謝してくれるけど、俺は自分に何ができるかわからず、不安だった。


「そろそろ戻るぜ、二人が寂しがっているかもしれないからな」

 と言って俺が立ち上がると、部屋の外が突然騒がしくなった。まさか、こんなときに盗賊団のお出ましなのか? いや、お手伝いさんって確立もある。お手伝いさんはいっぱいいるから、その確率の方が高いはずだ。早く外を確認しなくては。

 恐る恐る扉を開いた。そこには土下座をする悠木と雫がいた。

「すまん、そんなつもりはなかったのに、立ち聞きしちまった。許してくれ」

「どこから聞いてたの?」

 と、背後で弥生が言った。

「二言だけです。ミヤビくんが弥生ちゃんを守るって言ったことと、それに対して弥生ちゃんがありがとうっていったことです」

 運が悪かった。これじゃ、俺が弥生のこと好きみたいじゃないか。それをよりによって雫に聞かれてしまうとは。

「それならよかった」

 弥生が言った。君はいいかもしれないけど、俺はよくねぇよ。

「お詫びと言っちゃあなんだが、オレ達も悪い奴を捕まえる手伝いさせてくれないか?」

 こいつ、弥生の近くにいたいだけだろ。

「ミヤビくんだけ頑張らせちゃ悪い気がするのです」

「とても危険よ、何があるかわからないわ」

「それくらいわかってる。でも何かやりたいんだ」

「私達友達じゃないですか」

 友達……。なんか友情マンガみたいな展開だ。(一名、下心満載な奴もいるが)なんか俺って幸せなんだなぁって実感した。

「本気で、一緒に戦ってくれるつもりなの?」

「はい!」

「もちろん!」

「みんな……ありがとう」

 俺よりも、もっと幸せな人が一名。この友情も弥生のカリスマ性からくるものかもしれないな。家宝の秘密を教えられた男の気持ち、何だかわかる気がする。このカリスマ性を生かせば、もしかしたらあいつらだって……。これも妄想なのか。

「明日は作戦会議だ。また弥生の家に集まろう!」

「学校終わってからね」

「それまでにいくつか案を考えておくです」

 お前たち明日も来るつもりか。別に雫はいいけどさ。

「ところで悪い奴らってどんなやつなんだ?」

 と、悠木は言った。お前そんなことも知らないで、手伝うだのなんだの言ってたのか! 完全に下心しかないじゃないか。

「カラスって男とウサギって女の二人組の盗賊だ。ウサギってやつがものすごい戦闘力を持っている。カラスはヘタレだが」

「ミヤビくんを捕虜にした人ですか?」

「そうだ」

「やべっ本当に危ない奴らなんだな。変なニックネームみたいなの使いやがって。オレもなんかいい名前つけたいな」

 本当にやる気あんのか?

「そうだ、ブレイブとかどうだ? 悠木だからブレイブ」

「漢字違うだろっ!」

「別にそれくらい大目に見てくれよ」

 大目に見るとかそういう話じゃないと思う。

「私は弥生で三月だから、マーチね」

 なんでそこで弥生も話に乗るんだ。別にそのままでも可愛いからいいじゃないか。

「となると、私はドロップですか」

 雫までも……。やめろよ、わざわざバカに付き合う必要はないんだぞ。

「ミヤビくんは、もともとの名前が気取ってるから、そのままでも別にいいですよねぇ」

 相変わらず悠木の発言は癪に障る。でも一人でそのままってのも悲しいな。仕方ない、俺も便乗してやるか。

「俺は、えーと……」

「英語にするとエレガンスです」

 悠木と弥生が同時に笑った。

「エレガンスか! 最高じゃないか!」

「エレガンスくん、いい名前じゃない!」

 雫はなんで二人が笑っているのか理解できないようだ。まぁ感性の違いだよな。別にわからなくてもいいだろう。笑われない分、俺はうれしいし。

「エレガンス!」

「エレガンスくん!」

 なんか俺のニックネームだけ残りそうだぞ。それに俺の名前、ミヤビじゃないんだけどなぁ。


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