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こころの童話  作者: yuzu
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第五話、伝えていきたいこと


 日々は、平穏に流れていった。

近所の人たちとも溶け込んだ。もらったり、おすそ分けしたり、

雪が降った後には、お年寄りに代わって、雪かきを手伝ったり。

人が、喜んでくれたり、役に立つことが嬉しかった。


「親父?」

「おう、祐介か。元気か?どうした?」

「そっちに行ってもいい?」

「いいぞ。何かあったのか?」

「いや、別に」

「いつ来る?狭いけど、泊まっていくか?」

「うん」

「じゃあ待ってるぞ」


 何となく、浮き浮きしてくる。そうだ、布団。

「佐藤さん、予備の布団があったら、貸してもらえない

だろうか」

「誰か来るの?」

「息子がね」

「それはよかったな。ちょっと待ってろ。おーい、布団だせ」

「すいません」

「どうせ普段は、使ってないんだ。遠慮すんな。

今日は、親子水入らずか。いいな。めしは大丈夫かい」

「もう一人暮らしも長くなりましたから。カレーでも

作りますよ」



「おう、来たか。カレーもできたし、まずは、ビールでも

飲むか?それともシャワーでも浴びるか?」

「じゃあ、シャワー」

「そうか、こっちだ」


つまみ、何かなかったかな・・ぎょうざでも焼くか。


「親父、シャンプーは?」

「ない。石鹸あるだろ。それで洗うんだ。ボトルに入って

いるのが、リンスで、洗面器にお湯を張って、キャップに

一杯くらい薄めて使う。結構、さっぱりして気持ちいいぞ」



「お前、元気だったのか?何かあったのか?」

「ただ、親父ってどんな感じだったかなと思って」

「新しいお父さんとうまくいってないのか?」

「いや、俺に気を使ってくれてるけど、男同士って

うまく馴染まない感じでさ。親父ともあんまり話した

ことなかったし・・」

「そうだな。親父がどんなものか分からないよな。

あれこれ考えるより、正直に言葉に出してみたらどうだ?

俺も、今までお前と話せなかった分、色々話したいよ。

何か、訊きたいことはあるか?何でもいいぞ」

「母さんとは、本当にだめだったの?」

「それが一番辛い質問だな。お前、恋をしたことあるか?」

「好きな女ってことなら」

「そうだな。お前ももう二十一だもんな。お前にも、

母さんにも悪いと思うが、俺には、どうしても忘れられない

女がいた。いや、忘れたと思っていた。だから、

母さんに惹かれて結婚したんだ。

母さんが悪いんじゃない。俺が、俺の心をごまかして

いたから、こうなった」

「その人とは?」

「ずっと会っていなかった。何もなかったよ」

「それでも、好きだったって?」

「そう。可笑しいだろうな。俺は、単細胞で、つきあって

いたときには、毎日浮かれていたし、別れたときには、

なりふり構わず落ち込みまくってさ、みんなにも呆れ

られたよ。そんな人間なんだ。知らなかっただろう?」

「そうだな。家にいた頃は、いつも暗い顔してたし、

覇気がない感じだった。そんな情熱あったんだ」



「誰にも、その人の代わりはできないと分かったんだ。

だから、離婚した」

「その人と結婚するの?」

「いや、できないんだ」

「それでも、母さんとはやっていけなかった?」

「一緒にいても、お互いに傷つけるだけだった。自分の

気持ちに気づいてしまったからな」

「そんなにいい女だったの?」

「俺にとってはな。お前もこの人だと思ったら、

絶対放すんじゃないぞ」

「そんなに熱中できるもんかな・・」

「できるさ。お前には、半分は俺の血が流れているん

だから。

きっと、俺と母さんは、根っこが違っていたんだ。

言っておくが、それはお前のせいでも、母さんのせい

でもない。人の心は、思い通りにはならない。

自分の心でもな。

そろそろメシにするか。カレーだけどいいか?」

「家では、何もしなかったのに・・」

「そうだな。料理は、簡単なものだけだ。あとは、

掃除も洗濯も何でもやるぞ。どうだ?旨いか?」

「うん、まあまあ」

「まあまあ・・か」

「随分、石鹸作ったね」

「これか?まだ、熟成中だ。出来上がるまでに

ひと月からふた月かかるんだ」

「そんなにかかるの」

「工場で作られる石鹸は、すぐに出来るんだろうけどな。

手間がかかる分、愛着も湧くぞ。今度、一緒に作って

みるか?化学の実験みたいだぞ」

「そのうちね」


「今日、帰るのか?」

「だって、親父仕事だろう?」

「お前が、話したい、何かしたいと思っているなら、

休んでもいいんだぞ」

「いや、今のところ特には・・また来るよ」

「そうか。来てくれて、嬉しかったぞ。また、

きっと来いよ」

「うん」


 二人は、離婚後、少しずつ親子になった。

度々、圭介のアパートに来て、近所の人たちと

バーベキューをしたり、畑の収穫を手伝ったり、

冬には、一緒に雪かきをしたり、

石鹸も一緒に作った。

 祐介も祖父の会社に入社し、営業部で働いた。

数年後、結婚し、圭介もお祖父ちゃんになった。

孫の可愛いことといったら・・


 奈月、孫ってものすごく可愛いな。お前にとっての、

姪や甥もそうだったろう。俺も、爺ちゃんだよ。

奈月、俺のこと、待っていてくれよ。俺を、忘れるなよ。


 今年もまた、奈月の墓の前に、圭介がいた。



 いつもの休日。いつものように、石鹸を作ろうとして、

オリーブオイルが残り少なくなっていたことに気づき、

買い物に出た。

 今日は、天気がいいな。ちょっと遠回りして、川沿い

を散歩するか。


 土手には、テニスコートもあった。

 やってる、やってる。ベンチに腰掛け、しばらく

眺めていた。

もう、あれから四十年くらい経つんだな。今のウェアーは、

色とりどりでおしゃれになったもんだ。さてと。


 土手を上り、歩いていると、前からダンプが走ってきた。

少し際に避けようとしたとき、十メートルくらい前に、

子供が走って土手を登ってきた。

「危ない!」


 子供を助けようとして、圭介はダンプに飛ばされた。


 気がつくと、令子と圭介家族がいた。息ができない。

(俺は、死ぬんだな)


「れい・・こ、たの・・む」

「分かってるよ、お兄ちゃん。でも、まだいかないで・・」

「ゆう・・す・け、・・あい・・し・て・・るぞ」

「親父、まだだめだ。まだ、いくな。梨奈もいるぞ」

「り・・な、じーじ・・わ・す・・れ・な・・・」

「じいじ、じいじ」

孫の梨奈に微笑みながら、圭介は逝った。



 葬儀も終わり、火葬場で待っているとき、祐介は令子に

声をかけた。

「令子叔母さん、親父が言ってた、(頼む)って何のこと?」

「兄さんに頼まれてたことがあったの。ずっと前に」

「何を?」

「自分が死んだら、自分の骨と一緒に納骨してほしいって」

「何を?」

「兄さんの大切な人の遺灰」

「親父が好きだった人って、亡くなってたの?」

「そう、もう十四、五年かな。離婚した頃」

「叔母さん、その人のこと知ってるの?」

「ええ、兄さんの一つ下、私の二年先輩だから」

「親父、前に言ってた。お前、この人だと思ったら、

絶対に放すなって。親父、後悔してたのかな。どんな人?」

「とても優しい人。いつも人のことばかり考えるような。

私達後輩も大好きだった先輩よ」

「その人とつきあってたの?」

「祐介、その話聞いて、嫌じゃない?」

「大丈夫だよ」

「兄さんが、高校二年のとき、毎日とても楽しそうでね。

彼女ができたって、信じられないくらい喜んでいた。

先輩が入部した直後から、兄さんには彼女しか目に入ら

なかった。でも、数ヵ月後彼女から別れの手紙を渡されたの。

兄さん、とても落ち込んで、抜け殻のようだった。

本来兄さんは、明るくて、ムードメーカーのような人

だったのに、あんな兄さん二度しか見たことないわ。

一度目は、振られたとき。立ち直るのに、大分かかったわ。

そのうち、兄さんはきっと、恨むことで忘れようとしたんだ

と思う。そして、あなたのお母さんと出会って結婚した。

 でも、あなたのお母さんと先輩は、違う種類の人よ。

もしかしたら、先輩とはあえて違うタイプの人を選んだ

のかもしれない。でも、きっと合わなかったのね。

それでも、すぐに別れなかったのは、祐介がいたからよ。

うちは、兄さんが小学生のときに、父親が亡くなって

いたから、せめて祐介が一人前になるまで頑張ろうと

していたと思うの。でも、先輩は亡くなってしまった。

そのお通夜で、先輩が別れようとした本当の理由を聞いたの。

先輩は、好きな人ができたからって言っていたそうだけど、

本当は、兄さんのためだった。彼女とつきあうようになって、

兄さんは、他の事は何も考えられないようになって、

成績も落ちていった。一応進学校だったからね、先輩は

心配していたそうだけど、兄さんは、聞く耳を持たなかった。

だから、兄さんの将来を心配して、先輩は別れようと

したみたい。二度目の抜け殻は、その後よ。私は、先輩の後を

追って死んじゃうんじゃないかと思ったわ。でも、立ち直った。

どうしてか分かる?

きっと、直後はそうしたかったと思う。でもそんなこと、

先輩が望むはずがないことが分かっていた。兄さん、言って

たわ。(そんなことをしたら、あいつは怒って会ってくれない。

俺、あいつのところへ行ったら、山ほど文句言ってやるんだ)

って。だから、その後の兄さんは、先輩と再会することを

望みにして生きていたはずよ。


 私ね、先輩を恨めしく思ったわ。兄さんをあんなに苦しめた

のだから。でも兄さんは、どんなに苦しくても、その先に

あいつがいるなら、俺は行くって言うの・・・・」


「叔母さん・・」


「ごめん。兄さんは、私にとっては兄であり、父親でも

あったの。そのくせ、随分のろけ話も聞かされたわ。

きっとあの二人は、相手のことを想って、すれ違って

しまったのね。

 兄さん、先輩に会えたかしら・・」


 親父、そんなに愛していたのか・・・

その人と幸せになれよ。もう、離れるなよ。

 

 祐介の胸に、圭介の言葉がよみがえる。

「祐介、心を込めて生きろ。自分にできる精一杯を注げ。

きっと、感動できるようになる」


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