止まってください
介護送迎のドライバーが白髪のすごい高齢者っぽかった。気にはなっていたが何度も利用することになるので、判断力大丈夫なんですかなどと聞けるはずもなく、黙って両親の送迎で利用させてもらっていた。
それで三ヶ月も経過した頃だろうか。やっとそれを聞くタイミングがあって年齢を聞いてみると72歳ということだった。
そのときの送迎車の中には80になる父と75の母、そしてそろそろ50になるという私がいた。
後ろに座っていた母は、「その年齢になってもしっかり運転ができるなんて素晴らしいことですね」と言った。
運転手の高橋さんはちょっと謙遜したあと、ちょっと自慢気に、「同い年だと免許返納している人も多いんですけどね。幸い私は検査にも引っかかっていません」と言った。
「それは立派ですねえ」と母。それから母は、自分も父も運転できなくなってしまったという愚痴を続けた。
運転手はハンドルを握りながら当たり障りのない相槌を打った。
この高橋さんは感じのいい運転手ではなかった。無愛想で、どこか怒っているようで、どこか女を馬鹿にしているようで——送迎中の私や母や女性介護士への態度でなんとなく分かった——好きにはなれなかった。
相槌も親身なものではなく、かなり適当だった。これで接客しているつもりなのかという気持ちになった。
車はいつものルートをいつものスピードで走った。
路上の隅を自転車が走っていた。
高橋さんはその後ろから近づくと、少し加速して自転車を追い越した。
私は思わず口に出してしまった。「もうちょっと離れて追い越しても……」
「ああ?」高橋さんの反応は思ったより激しかった。
私はしまったと思った。「いや。気のせいでした」
「俺はもう何年も運転手やってんだよ」
後ろの母が言う。「立派ですねえ。ありがたいです」和ませようとしたのかもしれない。
高橋さんはそれ以上、何も言わなかった。しかし露骨に眉間に皺を寄せ、口をへの字に曲げた。
高橋さんの運転歴がどのくらいなのか知らないが、送迎の車に事故の跡がまったくないかというとそんなことはない。窪みが前と後ろと側面、大きくはないが満遍なく付いている。車は古い。だから長い間の中で少しずつ付いたものだとは思う。送迎だと車椅子がぶつかるのも避けられないし。
前の信号が赤だった。車は減速した。
私がドアミラーを姿勢を変えて覗くと、さっきの自転車が近づいてくるのが見えた。タイミング的に青になる前にまた並ぶことになりそうだった。
嫌だなあと私は思った。助手席からだと追い越しのときの距離が本当にギリギリに感じたのだ。おそらく自転車の人はもっと怖かったに違いない。
その信号は押しボタン式の横断歩道で、交差点ではなかった。案の定、そういうときの自転車は車が止まっている間に信号無視をして、すり抜けて先に行ってしまった。
私は目だけで高橋さんの方を見た。彼は先に行くその高校生が乗る自転車をちらりと見た。邪魔だと思ってはいるのが分かった。




