ノイズ
初のホラー作品を書きました。
短編なのでお付き合いください。
僕の世界は、色がないのに色がある。
形がないのに形がある。
大好きな犬のショコラは、ふわふわだ。
暖かくで肌触りがいい。
撫でているとペロリと僕の事を撫でてくれる。
わんっと可愛らしい高音のソの音で鳴く。
ブラッシングする時には、ミの♯からソだ。
公園で楽しそうにしている時には、高音のラからドの音で他の犬とお話している。
「奏。お稽古の時間よ。」そうお母さんに声をかけられる。
「はい。」僕は、白杖を持って立ち上がる。
「にぃにぃ。私も一緒に行く。」妹の調子が一緒についてくる。
「調子。お兄ちゃんを困らせちゃダメよ。」お母さんが注意するが、それを僕が止める。
「大丈夫だよ。お母さん!調子がいてくれる方が、僕。楽しいんだ。」本当だ。
調子は、僕に新しくて楽しい見えない色と見えない形を教えてくれる。
「お母さん!私、小学2年生なんだからね!もう、子供じゃないもん!それにお父さんもお母さんもいつも言ってるじゃん!お兄ちゃんのために努力しなさいって!」調子が不満そうな声を出す。
「そう?それじゃ。お願いしようかしら。」お母さんが、渋々承諾する。
僕と調子は家を出て歩き出す。
外に出ると暖かな香りがした。足元付近でソの♯からラの音がビブラートを聴かせている。
「もう、春なのかい?」
「そうね。最近暖かいかも。なんでそう思うの?」
「ミツバチが近くにいるなって思って。」
「嘘!蜂!?どこに?」調子が騒がしく驚く。
僕は、見えもしない。その世界が、音を通して見えてくる。
きっと、調子は蜂を怖がってその小さな足をタン・タ・タッと軽やかに舞っているんだろう。
それは、きっととても可愛らしい光景だろうな。
思わず口元が綻ぶ。
それほどまでに虫とは、恐ろしいものだろうか?
「にぃにぃ!なんで笑うの!」と怒られてしまった。
10歳年の離れた妹の調子は、僕にとって宝物だ。本当に可愛い。
そんな、調子に連れられてバスに乗り、街を歩き。
ピアノの先生の教室に来た。
コンクールまで、自分の思うように仕上げないと。
課題曲の基礎を固めないと、僕の世界を出すのはそれからだ。
でも出しすぎずに。でも、楽譜に従順ではなく。
ベートーヴェンのピアノソナタ第3番軽やかだけどしっかりしている。
どこか、調子を思わせる曲。リズムを正確に
そして、いて自由に楽しく。
僕は、先生の指示と手本の CDの音源をよく聴き比べて全ての感覚を指先と聴覚に注ぎ込む。
序盤の軽やかなリズムから一気に早いリズムになった時に
C6っC8ノイズが入った。
なんだろう。ピアノでは出せない音だ。
キュキュっとなった音はとても高音のC6からC8の音。
盲学校の小学部の時に交流で普通の小学校に行った事がある。
その時にクラスの子がふざけて黒板とやらを引っ掻いた。
内臓を抉るような不快な音。
僕の中にない音の形
その時と同じような感覚になり、思わず手を止めて口元を抑える。
「奏くん!?」先生が僕の背をさする。暖かい。心地よい。
「大丈夫です。すみません。一瞬ノイズが入ったみたいですが、聞こえましたか?」僕は先生に聞いた。
「ノイズ?ここは、防音室だし。私は、聞こえなかったわ。調子ちゃんも静かに本を読んでいたし‥。調子ちゃん聞こえた?」先生が調子に聞く。
「いえ‥。私は、にぃにぃのピアノしか聞こえなったです。」調子が不思議そうに話す。
「少し、疲れちゃったのかもね。今回のコンクールは4年に一回だもの。緊張して当たり前よ。コーヒーでも飲みましょうか。」そう言うと先生の服の擦れる音がする。
ポコポコとお湯が沸くド・ミ・ソの心地いい三和音だ。
コーヒーのいい香りもしてきた。
僕はだんだん落ち着いていく。
「今度のコンクールに入賞したら、海外の音大に行くの?」先生が僕にコーヒーカップを握らせながら話す。
「出来れば、行きたいと思っています。でも、お金とか後は、行くなら母を連れて行く事になるので調子がかわいそうだし。」そう話すと僕は一口コーヒーを飲む。
美味しい。ミルクたっぷり、砂糖は少なめ。苦味が抑えられてるけど香りはわかる。
僕好みのコーヒーを入れてくれる優しい先生だ。僕が小学校高学年の頃より教えてくれる先生だ。
「にぃにぃ!私を言い訳にしないでよ!にぃにぃは天才なの!盲目の天才ピアニスト音川奏なんだから!」調子が恥ずかしい呼び名で僕を言う。
僕は、目が見えない。
だから、音が目なだけだ。
あれは、僕がまだ物心つく前の話だ。
両親は、目の見えない僕に音の鳴るおもちゃをたくさん買い与えていた。
その中におもちゃの小さなピアノがあった。
ここからは、両親の話だ。
母親が偶然口づさんだ曲を幼い僕がおもちゃのピアノで難なく弾けたらしい。
それからは、目が見えない3歳児にレッスンしてくれる人を探した。
何回も先生が変わった。今回で、五回目?いや、6回目か?
そして、僕はメディアにも出るようになり、コンクールも入賞を重ねた。
そんな、僕に新しい音が生まれたのは調子が生まれてからだ。
初めての赤ちゃんの泣き声はびっくりした。
あれほど、守らねばと思う。リズムもバラバラで不安定な音
それから、愛らしい音になり、そして、今は、僕を支えてくれる。
とても、大切で。頼もしい妹だ。
「僕は、調子にもやりたい事をやってほしいんだよ。」それは、本心だ。
「私の夢は、にぃにぃが世界でピアノを弾く事なの!だから、」
「コンクール頑張ってね。」
調子が静かにいう。
僕は、こくりと頷き。
また、僕の世界へと入っていく。
練習が終わり、バスに乗っている時だ。
キュキュ。
また、C6からC8の高音だ。
とても、近くから聞こえる。
また、内臓が出てきそうだ。
「にぃにぃ?どうしたの?」調子が心配そうに聞いてくる。
「ちょっと気分悪くて‥。」
「にぃにぃ!顔が真っ青だよ!運転手さんお兄ちゃんが、体調悪みたいです!お兄ちゃんは、目が見えなくて。」
とたん、ちっと強いアタックを感じた。
その音は、僕に不満をぶつけているのであろう。
後頭部をガツンと殴られたようだ。
また、初めての音だ。
僕は、反射的に耳を抑える。
「にぃにぃ?」優しい旋律だ。落ち着こう。
僕は、高校生なんだ。
逆に妹を守らねば。
「ご迷惑かけました。次のバス停で降ります。」僕が静かにいう。
人の息が漏れる。
「気にしなくていいわ。きっと虫のいどころが悪かったのよ。」
なんだか、これも僕の心をモヤモヤさせた。
それからと言うもの
僕を殴りつけたり、内臓を引き摺り出したりする音が聞こえるようになった。
それは、どれもこれも不快で。僕は居た堪れなくなる。
特にキュキュという。C6からC8の高音で、僕の体をズタズタにしてくる音だ。
その音は、ピアノに練習の時に
食事をしている時に
入浴をしている時に
仕舞いには、夢の中にも出てくるようになった。
そのたびに調子が僕を慰めてくれた。
その優しい。旋律に僕の心は救われた。
そんな、調子が僕にこんな話をしてきた。
「にぃにぃ、最近のにぃにぃおかしいよ。ピアノの練習中にいきなり音を外すし。」調子は優しい。本当に心配しているのだろう。
「大丈夫さ。‥。」僕は力無くいう。
「あのね‥。にぃにぃ落ち着いて聞いてね。私、調べたんだ。そしたら、小さな虫が耳の中に入るとキュって音がなるみたい。」
背筋がゾワりとした。
見たことはないが、虫は触った事がある。
カブトムシだったか?ゴツゴツして大きいそれていて痛かった。
そして、確かにきゅっきゅっと虫かごを移動していた。
あんな、ものが僕の耳に?
「怖がらないで!小さなゴキブリとか蜘蛛とか稀に入る事があるんだって。」
僕は、蜘蛛もゴキブリも知らない。
いや、ゴキブリは、かろうじてわかる。
ゴキブリはカサカサという音と共に現れ家中がパニックになる。
お母さんに聞いたらとても不潔な虫という。
蜘蛛はわからない。音がないからだ。
どんな見た目なんだろう。
僕は、ますます気分が悪くなりトイレに駆け込む。
胃の中のものを吐くだけ吐いた。
家の中でよかった。
家じゃなかったらトイレすらわからない。
「にぃにぃ!ごめん。でも、お母さんにお願いして明日、耳鼻科に行くようにしたから!」調子が背中を摩る。
優しい子だ。安心する。
僕は、頷きベットに戻る。
最近、両親は、帰りが遅い。
僕の留学に向けて仕事の引き継ぎなどをしているみたいだ。
その間僕たちはヘルパーさんと一緒にいる。
そのヘルパーも時間になったら帰る。
今日は、どのヘルパーだったかな?
ベットに入る。
考えるのをやめよう。
「にぃにぃ。今日は、私が一緒に寝てあげるね!」調子が優しく話す。
隣に暖かな温もりを感んじる。
調子の寝息を聞いていると僕は、落ち着いて寝ることができた。
キュッキュっキュっキュ
あの音だC6・C8・C7。不愉快。不規則なリズム
キュッキュッキュっキュっキュC6・キュッキュ
バリ、バリ、バリ、C8。
キュッキュっキュっキュキュッキュっキュっキュキュッキュっキュっキュキュッキュっキュっキュキュッキュっキュっキュキュッキュっキュっキュキュッキュっキュっキュキュッキュっキュっキュ
『ゴキブリ』
わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
そして、僕は、本当に盲目になった。
「かわいそうにねぇ。」
「プッレッシャーあったんじゃない?」
「天才。天才って持て囃して」
「じゃなっから、自分の両耳の中にペンを入れて難聴になんてならないじゃない。」
月光〜調子の曲〜
私は、天才のための目。
その為だけに作られた。
両親は、私をお世話係のために育ててる。
初めは、良かった。
頑張ったら褒めてくれたから。
私の世界が崩れたのは、「私も習い事したい!友達とバレエに通いたい!」
頬に強い衝撃を受けた。
「あなたは奏の側から離れてはいけないの。何言っているの?」
その時、兄はピアノの練習をしていた。
兄がピアノの練習をすると両親は本性を出す。
ーーーー早くしなさい!
ーーーーお兄ちゃんのためでしょう!
ーーーーあなたは、お兄ちゃんの為に動かないといけないの!
「お兄ちゃん為」
私は、両親と一緒にいたくなくて兄に付き添うことにする。
兄の側では、無邪気に可愛く、賢い妹を演じた。
内心冷めていた。
一人では、バスも乗れない兄
必ず、誰かに守られている兄
着替えすらままならない事もあるのに何が天才だ。
その日、私は、本を読んだふりをしていた。
私は兄のために生きないといけないのか?
兄が、留学したら?私は、どうなるの?
父と一緒?
父親のニタニタした顔を思い出した。
ゾッとする。
私は、手の中の小さな石を見た。
この石は、キュッと高い音が鳴る。
その音を聞くと兄のピアノを忘れられる。
兄のレッスンをみる。だがだがとピアノを鳴らしている。
何が、音楽の神に愛された子だ。
私は、こっそりと石を鳴らした。
兄のピアノがとまる。やば!気が付かれた?
「大丈夫です。すみません。一瞬ノイズが入ったみたいですが、聞こえましたか?」
「ノイズ?ここは、防音室だし。私は、聞こえなかったわ。調子ちゃんも静かに本を読んでいたし‥。調子ちゃん聞こえた?」
「いいえ‥。私は、にぃにぃのピアノしか聞こえなったです。」
気づかれてない‥。
私の中の黒い何かが動き出した。
ある時は、バスに
ある時は、勉強中に
ある時は、食事中に
キュッキュッキュっキュっキュC6・キュッキュ
バリ、バリ、バリ、C8。
キュッキュっキュっキュキュッキュっキュっキュキュッキュっキュっキュキュッキュっキュっキュキュッキュっキュっキュキュッキュっキュっキュキュッキュっキュっキュキュッキュっキュっキュ
ホラーって難しいですね。
自分の性癖晒しているようです。
作者の代表作「アラフォー領主ですが、引退したいので伝説の姫巫女を教育します。」をよろしくお願いします。




