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ゲジョン  作者: ネッしー
3/6

一人目

 市民の革命運動が起きたのは、アゴアゴア国の中の大都市「シャルガイド」であった。そこから北東へ数キロ、建物が乱雑し、石造りの道にも苔が増え始め、さらにそこから先へ数キロ進むと、石造りの門を隔てた先に大きな山が見えてくる。「レレク山」というが、ここら辺一帯ではこの山以外にないものだから、この山はよく目立つ。ではその山の周りに何があるかというと、さらに北東の数キロ先の都市部まで荒野が続くのである。枯れ木も逃げ、地割れも逃げるようにどこかへ伸びている。渇きに渇いたこの地区は「デドドキシン」といって危険区域に設定されており、誰もが近寄らなかったのだが、しかしこの地区を挙げるということは近寄った煌びやかな人間がいたわけである。レレク山は荒野の真ん中に相応しくないほどの緑で青々と、壮大に佇んでいた。その山の麓から妙に整理された道を登っていくと、見えてくるのは立派な、立派な白い白樺を基調としたお屋敷である。それはヘルヤ家を彷彿とさせるような、三階建ての大きな屋敷。薄赤い屋根には煙突も付いている。きっと使わないだろうが。


 その屋敷に、背の高いメイドにしょわれて登っていく少年の姿があった。

「ねぇレアル、どこに向かってるの?」

 と口を開いたのはシリューであった。白い髪と綺麗な顔をメイドの背中から上げて、そうメイドに言った。無論、メイドの名はレアルである。

「シリュー様を、まずは安全なところへお連れします」

 と道を登りながら、少し息を切らしてレアルは言う。温度は高いように感じた。木々の影が道を豊かにデザイン化していたが、むわっとした空気には喉が詰まりそうになるほどである。レアルの着る、見た目を優先したメイド服は少々動きにくそうだし、決して居心地がいいものではないだろう。シリューはそうやって心配になりながらレアルの背中に顔を預けた。

「ねぇレアル、なんで僕を助けるの? 僕は死ぬんじゃないの?」

 とレアルの気持ちも汲まずにシリューはそう聞く。

「いえ、シリュー様、あなたは死ぬべきではありません。死んではなりませんよ。……いやどうでしょうか、あくまで私の意見です」

 レアルは足取りを少し重くして「私が」と「私が」と意を決したようにこう言った。

「私が、あなたを死なせませんから……」

 シリューは、背中にうずめた顔をまた上げた。少しだけ涼しい風がふぶいたと思ったら、その白い、立派な、それは立派な屋敷が見えてくるのであった。二人の新しい家であり、新しい政権の拠点である。

 いわゆる木のトンネルとやらを抜けると白い屋敷が見え、庭と呼べるスペースは広々としており、緑の自然にカラフルな花に、荒野の真ん中だとはとうてい思えない。

「シリュー様、ここが新しい家になります。まだ汚いですが、シリュー様のお部屋だけは綺麗にしておきました」

 シリューはレアルの背中から降ろされ、屋敷を見上げた。

「うん、ありがとう。お母さんたちは呼んでるの?」

 レアルは「いえ」と、表情を変えなかった。レアルの短い黒髪が、綺麗な糸目顔に涼しい風と共に触れて、どこか寂しそうな顔に見えた。少し見えたレアルの目は、蒼かった。

「お母さま方は、シリュー様を置いて逃げたのですよ。大丈夫です。シリュー様が心配するようなことではございません」

 と少し不安定な答えを言う。そんなことより中へ、中へとレアルに急かされ玄関の扉を開ける。蔓やめくれた木の表層が、痛んだ屋敷を物語るが、中へ入ってみれば落ち着いた雰囲気であった。水の入ったバケツや、箒が壁に立てかけられており、レアルが掃除に勤しんでいたことが分かる。シリューは子供ながらに興奮をした。贅沢はしない、それはヘルヤ家と比べれば劣るところはあるが、それでもこちらの方が感覚的に守られている気がするのである。どことなく包まれる感覚。シリューは笑顔になって目を輝かせた。

「すごいね、新しいお家、前のところより僕は好きだよ」

 と声を張った。それはレアルの笑顔を少し淀ませた。誇りまみれのこんな、屋敷を前より好きだというのは、なんだか無理をしているようにレアルに感じられたのであった。そんなこと心配しなくても、シリューは心の底から前より良いと感じていたわけだが。

「シリュー様のお部屋は二階です」

 レアルがそういうとシリューは「え」と大きな声で喜びの声を上げた。

「二階なの。嬉しいよ、ありがとう」

 かつての屋敷では、シリューの部屋は一階であった。しかも家の中心部のほうにあり、それは警備を包囲することによってシリューを守っていたのである。ただの美少年であるからではないが、まぁそれもあるのだが、シリューは家計の中では性格が穏やかで、聡明な頭脳を持っている。そんな人間がいれば、守るか攻撃するかの二択であろう。シリューは結果的に守られたわけであった。とにかくシリューにとっては二階に自分の部屋があるというのは嬉しいものであった。シリューは靴のまま玄関を歩く。玄関の空間は少し狭く、そこから左右に伸びる廊下がある。右には台所と風呂、洗面所があるようで、レアルはそっちで掃除の続きをするという。玄関から見て左へ進むとL字型に突き当たり、右へ曲がる廊下になっている。その右へ伸びる廊下は非常に長く、仕切りの扉が廊下の右にずらりと並び、触ってみると簡単に破れてしまいそうな紙で作られている。左はガラス張りの扉でしきつめられ、外の庭が優雅に見える。長い長いベランダのように見えなくもなかった。昔本で読んだときに「縁側」という概念を知ったが、見るのは初めてであった。そもそもこの屋敷はどことなくアゴアゴアの家らしくはない。まったく別の家のような、文化の大きく違う国の家のように見えた。

 L字の廊下をさらに進むと階段へと続く扉があり、シリューはなぜ内開きなのか不満に思いながら扉を開けた。階段はUターンしながら上へ上るような構造になっており、ぎしぎしと軋む音もした。二階は一階と同じような廊下が伸びており。しかし今度は縁側などなく、壁で囲われている。シリューは廊下を歩いて、ある扉の前で目を細めた。それは少し怪訝な顔であった。扉には木に彫られた「シリューのへや」と看板がぶら下がっているではないか。部屋をわざわざ平仮名で書くほどの幼さだと、レアルはそう感じてしまっているのかとシリューはなんだか恥ずかしくなってしまった。このことはそのうちレアルと話し合うとして、シリューはワクワクしながら扉を開けた。

 中は必要最低限の家具だけが置かれてあった。広さは中々に広く、トマト栽培ぐらいはできそうな広さである。部屋の右の方に棚やベッドや机が押し寄せて置いてあり、そこに置手紙のようなものがあった。「ご自由にお動かしください」と書いてあり、レアルが書いたのだろうと確信したが、しかしまたシリューは怪訝な顔をしたのである。気持ちはありがたいが、シリューはまだ九歳である。家具など動かせるものか。と思い、ただこのよし寄せた状況でも使えなくないのでシリューはこのまま使うことにした。


——そんなデドドキシンでの穏やかな生活が幕を開ける一方、シャルガイドではそうもいかない状況であった。それもそのはずで、国民はシリューというヘルヤ家の血筋が消えたことに手を打てなかった。拘束し、べジュンの次にいたぶる予定であったのに消えてしまうというから、消化不良によりなぜか革命の興奮は収まらなかった。エボバルトは頭を抱えていた。もういいじゃないかと革命を進める人たちに説得をしたが、ヘルヤ家の人間を絶えさせなければ落ち着きそうにもなかった。この状況はマズイとエボバルトは悩み、それも当然で、つまり革命が続くということは王の不在である。残ったヘルヤ家がどこかにいないかとエボバルトは探すこととなるのだが、その手掛かりはたった一つであった。それはメイド。たまに町で買い物をしている謎のメイド、あの糸目の短髪のメイド、あいつしかいない。とエボバルトは根拠のない確信を抱いていた。それはあの日シリューを守るように現れたあの日、メイドが現れたことに直結しているはずである。そしてそのメイドが、美しく我々の弾圧を振り切って、恐ろしい身体能力でその場を去るあの様子。あのメイドに問い詰めるしかないと、そう思っていた。

 それは、問い詰めるというよりかは、助けを乞うというものだが。


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