3章3話 作者、逃げる
月花から妖怪のことや力のことを教えてもらう俺。
あのあと、懇切丁寧に説明と実践してみたが、結局本当に妖怪と契約するのが一番早そうだということは理解した。
呪具はそもそも適合する人間が限られているらしく、月花の持つ指輪は弾かれてつけることすら出来なかった。
そう考えると、草薙剣が抜けたことはかなりの奇跡だったと言える。なぜ抜けたのか不思議なぐらいだ。
人魂曰く、「過去や血筋に関わりのあるやつでもいるんじゃねえか?」と言われたが、それは無いだろう。
モブですし。
まあ、恐らく作者だからだろう。そういうことにしておこう。深く考えるのは怖いので、やめておきます。
そもそも呪具については使用済みだ。あれを何回もやったからと言ってコントロールできるようになるとは到底思えない。
月花も「あなたは霊力が多いから向かないかもね」と言ってたぐらいだしな。
次に御札だが、お経なのかどうか分からないが、漢字の羅列を見せられた。A4用紙何枚分だろうかという量の漢字を見せられ「これ、覚えられる?」と言われた。
いやいや。無理に決まってる。昔授業でやった写経を思い出したわ。
だいたい30、40分位で一区切りの文章を書いた気がする。
それを何枚も覚えろなんて確かに無理な話だ。
そりゃそうだよと思いました。お坊さんが長い年月をかけて身につけるありがたい教えを、そんな簡単に覚えられるわけが無い。
まあここまででだいたい霊能者のことがわかった気がする。
皆さんセンスと感覚で力を使っていると。
俺みたいに後から力を使えるようになるケースというのは極めて稀らしい。
月花や陽太は幼い頃に鈴蘭の母親『果伊菜』と接触したことで、妖怪が見えるようになり、そしてその母『詩歌』によって、果伊菜の力を分け与えられた。
彼らは彼らで事情が特殊すぎる。
鈴蘭の花言葉と続編のインバートマリスでも突然力に目覚めたのは『幌先鈴蘭』と『真城優』『辰早空』だけ。
3人とも前世からの因縁やら血筋やらで、どちらかというと必然的に目覚めたという方が正しい。
そのほか後発的に能力を使えるようになったのは、『野村海』、『宮ノ森桃子』。続編では『野村大地』、『大坪ヒロ』。
4人とも妖怪や鬼と契約したことで力を使えるようになった人物たちだ。
長々と思考してきたが、つまりそういうことだ。初めから俺に選択肢などないというわけだ。
◆◇◆
「とは言っても抵抗感あるのは分かるわ。どうする?力のことや妖怪のことを知るという目的は達成されたんじゃない?この先に踏み込むかどうかは君が決めることだよ。」
思考を続ける俺に月花は優しく話す。
「えええっ!坊主と契約したい〜!俺も戦いたい〜!」
駄々をこねるろくでもない人魂は無視するとして、真剣に考えたいところだ。
「ええっ!冷たい!無視しないでよ!」
ずっと気持ち悪いな!こいつ!!!なんなんだよ!!!
と、突っ込みたくなる気持ちは抑えて。
「今の俺は普通に生活できるレベルですか?」
「うん。ほぼ霊力は無いに等しいだろうね。しっかり抑えられてる。こないだみたいに無茶しなければ、普通の生活を送れると思うよ。ただ、逆に言えばそれ以上の抑制もできないってこと。……もちろん、修行したり戦えるように練習したりしたらそりゃあ抑制できる範囲は広がるでしょうけどね。」
「俺様がいれば抑制できるぞ!坊主!な、坊主!」
「……妖怪に襲われる可能性は?」
「ないとは言えないけど。今の状態のあなたを襲うなら、普通の人も襲うような妖怪でしょうね。……でもまあ、こちらの世界を知ってしまったのなら一概に安全とも言いきれないわね。何かのきっかけで力がまた解放されるかもしれない。」
「なら、力をコントロールするだけ、できるようにして普通に生活することは……できますか?」
「できる……けど。私はそれをできなかった人を知ってる。あなたも心当たりあるでしょ?」
「そう……ですね」
「で、どうするのかしら?」
恐らく鈴蘭のことだ。もしくはカイナのことかもしれないが。
鈴蘭は最初の時点では妖怪の声が聞こえるだけだった。その後ストレスを溜め見えるようになり、今は溢れ出る力を制御しようとしている。
俺は妖怪がある程度見えて、力を抑えることは出来ているらしい。言われた通り、このまま普通に過ごすのが賢明だと思う。
月花は俺に知識をくれた。どうしたらいいの分からない俺に。今どうなっているのか分からない俺に。
より確実なのは人魂と契約して守るための力を身につけること。だが、それは同時に危険も伴う。
人と異なる世界を知れば、それが恐ろしく異質であることも事実だ。
孤立した鈴蘭や力を受け入れられなかったカイナ。
この先この世界で力に溺れる人たち。
俺にはそんな度胸もない。ただハチャメチャな毎日に追われていただけだ。
ここらで本当に終わっていいのかもしれないな。
「色々ありがとうございました。俺にはやっぱ踏み込む勇気はないです。今普通に暮らせるならそれでいいです。」
俺は自分の答えを素直に吐き出した。
「……そっか。そうだね。わかった。なら、撤収するよ。」
少し残念そうに、でも晴れやかな表情で月花は笑った。
「ま、坊主が決めたんなら、仕方ねえか。いい加減諦めっか!」
「お前も心配してくれて言ってたんだろ。悪かったな、邪険にしてさ。」
「よせやい!照れるやい!」
「契約はできないけど、たまに話すぐらいしような。」
「おおおおお!そいつはいいぜ!話せる人すくねえからな!」
俺たちは笑って帰ることにした。
だが、その刹那。氷の刃が飛んでくる。
あまりに一瞬の出来事に俺と人魂は対応できなかったが、月花に抱き抱えられなんとか避けることに成功する。
「汝らは何者だ……我が縄張りを犯すか。」
「いんや。しないって。今帰ろうとしてたとこ。」
俺と人魂を下ろすと影に潜む大きな巨体に話しかける月花。
「偽りを語るか。死に値する……!」
「いやいや!ホントだって!」
「貴様は言ったな。この建物を包む悪意を払うと。その少年を帰したあと、払うつもりだったのだろう。……違うか?」
次々に飛んでくる氷の刃。的確に俺や人魂、月花を狙いながら飛んでくる。
誰がどう見ても俺と人魂が足でまといだろう。
月花は俺たちを守りながら、避けながら移動している。
交戦しないのも、この世界に足を踏み入れないとオレが誓ったからだ。
「月花さん!!俺たちが居なかったら、戦えますか……!?」
「えっ!?」
氷柱を交わすのに精一杯なのか月花に声は届かない。
「逃がすと……思うか!!!!」
暗闇からの怒号。どうやら、俺に殺意が向けられたようだ。
刹那。巨大な氷柱が俺の目の前を横切る。
ギリギリのところで、月花が軌道をずらすように力を使ったのだろう。明らかに異質な動き方をした。
おかげで当たることは無かったが、俺は驚きのあまり尻もちを着いて、足が動かなくなる。
「……あっぶねえ……」
ジワジワと身に染みる恐怖。
ガタガタと震えて逃げたい気持ちが先行する。確実に警鐘が鳴り響いている。
このままでは死んでしまうと。
どくん、どくん、と確実に鼓動が早くなっているのを感じた。
初めて味わう死という恐怖のはずなのに、俺はどこかでその感覚を知っているような気がしていた。
「……ぐっ!?」
突然の頭痛。頭に映像が浮かび上がる。
脳裏に赤黒い空と振り下ろされる剣のイメージが浮かぶ。
斬られたのは……俺?
これは記憶なのか?
これは『草薙剣』……?
なんなんだ。この感覚は。
「……はあ、はあ。」
訳の分からない頭痛と身に覚えのない記憶。
妖怪に襲われるという異常事態。
俺は確実に混乱していた。
「逃げなさい!!!」
「っ!?」
気がつくと、大きな巨体の白い獣とその攻撃を受け止める月花が目の前にいた。
いつの間にか影からその姿を妖怪は現していたようだ。
白い猫のような見た目。猫又というやつだろうか。
「立てるはずよ!あなたなら……!あなたにはちゃんと自分の意思を貫く勇気がある!振り返らず、走っていきなさい!」
鼓舞するような言葉。目の前の異常な光景。
猫のような獣。二又に分かれたしっぽ。
振りそぞく無数の氷柱。
全てが異質だが、月花の言葉だけは受け入れることができる。
逃げてもいい。そう言われているんだ。
いや。逃げろ。そう告げられている。
「迷わなくていいはずよ!私は大人であなたは子供!ちゃんと守るから!」
「坊主!逃げるんだ!俺が先導してやる!」
「くっ……!!で、でも!!!」
本当にここで逃げていいのか?
相手は俺の知らない妖怪だ。
ようやく頭が冷静になったのか状況が理解出来ていく。
相手は雪娘じゃない。
ここに住み着いた妖怪なのだろうか。どちらにしろ俺の知らない妖怪だ。
ここで月花を一人にする方がよっぽど原作を崩す展開になるんじゃないか?
でも俺に何が出来るって言うんだ。
「どうしたの!?行きなさい!!『普通の暮らしがしたいんでしょ!?』」
そうだ。
俺はもうこれ以上、巻き込まれたくない。
そもそも、俺が関わらないでただの創助であることが、本来の流れなんだ。
俺がいなくてもこの世界は回る。
月花もこの先に登場するキャラだ。
むしろ今までだって、俺が関わらない方が良かったのかもしれない。
本来ならそのはずなんだ。
ジンを雇った時のことを思い出せ。
あの時草薙剣を抜かなければ、こんな事態にもならなかったはずだ。
これ以上悪化させない為にも、俺がここにいる理由なんてない。
そもそも今の俺は邪魔な存在でしかないんだ。
「……わかりました。……生きて、帰ってきてくださいね!待ってますから!!」
「誰に言ってるのよ。これでも私強いのよ……!」
俺を安心させるためか妖怪の大振りな一撃をひらりとかわして、顔面に蹴りをお見舞いする。
「ぐおっ!?」
妖怪は大きく体勢を崩し、起き上がるのに時間がかかりそうだ。余程、月花の一撃が効いたのだろう。
「さっ!行きなさい!!」
「はい!!!」
その隙をついて俺と人魂は逃げ出す。
月花の攻撃で怒りを顕にした妖怪。俺たちはもう眼中に無いらしい。
ようやく起き上がった妖怪であったが、逃げる俺たちにまるで気がついていない。
「どれだけ……我を愚弄するか…人間風情が!!!!我はここで静かに暮らしたいだけだ!!!」
「私は全然話すつもりだったし、アンタが引き下がるならどうもしないつもりだった。……でも話は聞かないし、連れに手は出すし。……いいよね、祓っても。文句は言わせないよ!!!」
「抜かせ……人間がぁああああ!!」
俺は激しさを増す二者の戦いを背に、その場を後にした。
これが正しい選択だと信じて。
俺は逃げた。
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