3章2話 作者、知識を深める
翌日。月花が車で迎えに来てくれた。笑顔で乗り込んだのも束の間、隣の席に人魂が居て、不機嫌になりました。
「よお!坊主!」
「なんでお前もいるんだよ」
「酷くない!?気さくに挨拶ぐらい返してよ!」
「いやだよ。まだ疑ってるから。俺。」
「えぇ、なんとか言ってやってくれよ〜月花の姉貴〜!」
泣きつくように声を漏らすと、月花が苦笑いしながら話してくれる。
「まあまあ。そんなに邪険にしないでやってよ。契約の話、私がいた方が信用出来るかなって思ってさ。」
「え、ホントに害なくできる方法あるんですか?」
「害がないってのはまあ、難しいけど。……契約は霊力と妖力を天秤にかけて執り行われるものだよ。もちろん、双方の同意が必要。つまり魂同士のやり取りってことね。」
なるほど。少しだけ話が見えてきた。
つまり海と桃子が簡単に契約を反故にされたのは、単純に二人とも力が足りないから。
オロチの立場が上の状態で、契約が執り行われた。
そういうことだろうか。
「野村くんと宮ノ森さんだっけ。オロチの被害にあった子」
「そうです。」
俺が思考していることに気がつくと、運転しながら会話は進められる。
「霊能協会の話じゃ、二人とも能力持たない子だったみたいね。」
「霊能協会……?」
「私とか陽太が所属している組織よ。そこからお仕事貰ってるの。」
「そんな組織があるんですね。」
「霊能者の保護と指導もお仕事に含まれてるから、私や陽太に相談してくれたのは正解よ。ま、陽太は頭硬いからあんま力になってくれなかっただろうけど。……鈴蘭ちゃんも相談しに来てくれてるのよ?最近はジンくんと仲良くなったからそっちに任せてるけど。……君はもう知ってるから話すけど、彼は正規の能力者だからね。鈴蘭みたいに力を使えていない人には、正規の能力者の方が適任なのよ。」
「そう、なんですね。でも俺は?前に陽太先生に相談した時は力になれないって言われましたよ?」
「今回のは力を使えるようになっちゃったから、どうしようって話でしょ?前のは守って欲しい、力の使い方を教えて欲しい、だったから断ったのよ。多分ね。……今のあなたに必要なのは手段と知識。だから私が協力するって訳。」
「なるほど……」
「坊主は嬢ちゃんより能力に優れているんだよ。能力の抑制がかなり卓越されてる。まあ、簡単に言うと、草薙剣抜いて覚醒したから、あとは慣れろってことだな。今は解放しちまった時に一日以上抑制に時間かかるのは問題だ。それをコントロールする方法、もしくは別の方法、俺と契約するとか、それを姉貴は教えてくれるって訳だな。」
「俺の霊力ってそんな感じなのか。自分じゃ、ぜんぜん分からない。」
一通りの説明を聞いて、ようやく納得がいく。
人魂を邪険にしてしまったが、今のこの現状をどうにかする方法の一つに彼との契約があるということだろう。
草薙剣を抜いてしまったことで、俺はいよいよ霊能者として覚醒してしまった……という所までは理解出来た。
覚醒してしまえば、色々教えることは出来るということだろうか。そういえば、鈴蘭も能力を覚醒し始めてから月花や陽太に力を教わっていたな。
「他の人のは見えるの?」
俺が思考をめぐらせていると、月花が会話を再開する。俺の能力確認といったところか。
「海がオロチに取りつかれてたのは何となく分かりました。黒いモヤがかかっていたので。それでも一瞬しか見えませんでした。……あっ、力を解放?した時は、ジンの霊力がとんでもないことだけ分かりました。」
「なるほどね。最近は見え方に変化あった?」
「草薙剣を抜いてから妖怪が明確に見えるようになりました。……こいつとかは前見えませんでした。」
「おいおい!勝手に触んな!おおぉおおおん!」
「なにそのバイクみたいな声」
人魂に軽く触れてみるとふにゃふにゃと形を変えて暴れる。意外と柔らかくて手触りもいい。
「どう、触ってみて。意外と悪くないでしょ。」
「え、あ、はい。」
言われてみれば、妖怪に触れるのなんて初めてだ。
「その感覚覚えておくといいわ。……着いたわよ。」
話をしているとあっという間だった。
月花曰く、能力の練習にいい所らしいが、連れてこられたのは廃墟ビル。
「なんですか……ここ。」
「何って……廃墟だよ?」
「いやいやいやいやいやいや!!!絶対妖怪出るじゃないですか!」
「うん。依頼も入ってたし、ちょうどいいかなって。」
「え、依頼ってさっき言ってた協会から?」
「うん。雪娘が出るんだってさ。」
ゆ、雪娘!?4話に登場する超強い妖怪じゃねえか!!!
陽太、鈴蘭、ジン、座敷童子の4人じゃ、全然歯が立たない相手だぞ!?鬼の力と記憶を解放した鈴蘭の母親でようやく倒せたんだぞ!?
あっ!!!!そういえば、月花、お前!!!
その雪娘に捕まってなかった!?
タイミング的には夏休みだったけど……もしかして、このタイミングで捕まるのか!?
おいおいおい。勘弁してくれよ。どうしてこうなるんだよ!!!
「ほら、行くよ。大丈夫だって。雪娘倒したら、ここ好きに使っていいってさ。許可とるの大変だったんだから。それにね、奮発して1ヶ月も有休取っちゃった!クリニックの工事と被って助かったのよ〜!ぱぱっと終わらせて、遊びたいから頑張ろうね!」
1ヶ月!?クリニックの工事!?あまりにも色々都合いいな!?捕まっても社会的には問題なかったのか!
な、なるほど。だけど理解出来た気がする。原作で陽太の対応が遅れたのはこのためだったのか。
いやいやいや!それでも無理なもんは無理だよ!俺絶対巻き込まれるじゃん!この流れ!!!
もうあいつらには関わりたくないの!それどころか戦闘も痛いのも怖いのも嫌なの!
「いやいやいやいや!!!無理!!!無理ですって!!!そんなに大変な許可いるなら、やめましょうよ!!!」
「いいからいいから。私いるし、安心してよ。」
おめえがいちばん安心できねえんだよ!!!ちくしょう!!!
「意外と根性無しだな。普段は大人ぶってるくせによ。」
「うっせ!!!」
大人ぶってんじゃねえ!大人なんだよ!こちとら!!
くそお!この人魂め!!覚えておけよ!!!
俺の抵抗虚しく、首根っこを掴まれて、ズルズルと廃墟に連れていかれましたとさ。
◆◇◆
中に入ると、異質さはすぐに伝わってきた。
凍ったように冷たい床。歩いているだけで冷気が全身を吹き抜けていく。
靴越しから伝わるのは、明らかに踏んだことの無い材質だ。
内装はとにかく簡素で、いつでも建て壊しができるようなぐらいに物は無い。
昔ながらの商業施設や会社を入れていたのだろうか。各部屋が開け放たれ、狭い通路と上へ行く階段が整備されている。
中央の広間はとても広く、各エリアへ移動するためにはここを通る必要がありそうだ。
月花は小型のライトで辺りを照らしながら、進んでいく。
「一見なんともない古びたビルだけど。建て壊しが決まってから、何人も怪我人が出ているそうよ。」
「建て壊しに対して怒っているんでしょうか。」
「さあ。行き場を失った魂が彷徨っているのかもね。前は賑わっていたみたいだから、死んだことも忘れて仕事をしたり、青春を過ごしたりしているのかもよ。」
「まあ、妖怪にとっちゃどれもありそうだな。特に人間関連だとな。」
淡々と会話を進めて歩き出す月花。
慣れなのか臆することなく、進んでいく。
俺と人魂は遅れてついていく。
「見た感じそんなに悪い子は居ないみたいだけど。放置されすぎて悪意が蓄積されているみたいね。」
一通り各部屋を回った月花は、中央の広間に戻ってきた。
俺にはこれぽっちも何も見えなかった。
確かに建物を全体を包み込む嫌な気配は感じる。それでも何も見えなかった。最近見えるようになった妖怪や悪霊の類も何も見えなかった。
「俺には何も見えませんでした。」
「そりゃあそうだよ。妖怪でもなんでもないんだから。」
「……え?どういうことですか」
「坊主!そいつは俺様が説明してやろう!」
「お、おう?」
「要はな。坊主の見えてる妖怪ってのは大体が悪霊か妖怪!つまり人ならざるもの。これは理解しているよな?」
「あ、ああ。分かっているつもりだよ。」
「んで、この建物にある邪悪な感じはわかるよな。」
「お、おう。嫌な気配みたいなモノと異常に寒い。」
「それが霊能者の感じることの出来る『悪意』『負の感情』ってやつだ。」
「何となくわかった。それじゃあ、月花さんが見えているのは?」
「人だよ。紛れもないね。」
「……人?」
「そう。人の魂や想い。そういったものは残りやすいんだよ。よく付喪神って言うでしょ?それもおんなじ。大切に大切に想い入れた物に魂が宿るんだよ。逆に醜く酷く、凄惨に、扱った物にも強い怨念が宿る。……ここには温かい思い出もあるけど。それと同じくらい、ここの解体に訪れ怪我した人の思い、過去に辛い思いをした人々の怨念も残ってる。……陰と陽は二律背反。光あるところには影がさすんだよ。」
「そしてその悪意は時が経てば経つほど強く同調し、人の魂や思い出を腐食するって訳だ。俺みてえにな。」
2人は交互に口を挟みながら、俺に丁寧に説明してくれる。
要は彷徨う魂に悪意が宿ると、それは悪霊や妖怪となるという話だ。
そして俺が見えていたその存在。そして、元から妖怪だったものたち。
ここにいる俺が見えない存在はまだ人であると表現出来る存在だということ。
「さ。説明はおしまい。ここの悪意ササッと払うよ。次は実践だ。」
「実践!?」
「まあまあ。どんなことも説明、見学、模倣、実施、反省の繰り返しだよ。いっくよー!!!!」
「ちょ、えっ!?」
月花は仕切り直すように手を叩くと、俺と人魂を近くに寄せる。
「霊力の解放は4パターンあるから、よく見ておいてね。」
「多いっすね」
「その1!呪具の使用!」
言いながら月花は懐から札と指輪を取り出す。
「この指輪、普段はただの指輪だけど。はめると、霊力刺激されるのよ。」
「おお!簡単だ!」
「坊主が前やったのはこれだな。草薙剣は鞘から抜くと解放されるって訳だ。」
「なるほど!」
月花が右手の人差し指に指輪をはめると、緑色のオーラが湧き出る。
「初心者はだいたいこれで霊力の出し入れを練習するね。でも君は霊力が大きすぎるからおすすめ出来ない。……そして大事なことをもう1つ。呪具は必ず利き手で使用すること。非利き手は生まれながらの運命を解放しちゃうの。先祖代々の力とかね。」
「坊主あん時もしかして、左手で刀抜いたんじゃねーの?」
「そ、そうだったかも!利き手で持ち手持った気がする!」
「はい、じゃあ次ね!」
再び指輪を外し、懐にしまうと一気に戻る。
さすがだ。コントロールがバッチリだ。
「次はこれ!御札!」
「先に自分の霊力を封じてから使うやり方だな!お前さんにはこれが合うと思うぞ!」
「おお!そんな方法もあるのか!」
「呪文長いから後で教えるね!じゃあ次!」
「え、教えてくださいよ!」
「次は言霊!自分の名前と事象の意味を結びつけて虚を描く力だよ!これはある一族しか使えないから、パスね!」
「いやいや、じゃあ3つじゃん!!!てか呪文教えてよ!」
「最後は憑依!」
「聞いてないし!!!」
「妖怪を憑依させて力を引き出されてもらうやり方!これが一番手っ取り早い!」
「えええええっ!!!結局それじゃん!!!!」
「坊主!契約しようぜ〜!!!!」
「もうやだ。この人たち……」
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