2章3話 作者、友と語る
ジンを送り届けた。あとはもう祈ることしか出来ない。
無事に鈴蘭たちを助けてくれ。そう願うばかりだ。
ふと視線を移すと、周りには無数の妖怪たち。
「こんな所で生活してたんだな俺ら。」
しばらく怖くて動けなかったが、彼らは襲ってくることは無い。
悪意のある妖怪とそうじゃないもの。それが存在するようだ。
今後敵として登場するオロチ、九尾は確かに鈴蘭たちに襲い掛かる。
だが、それは全て天邪鬼という妖怪が悪意を助長させた結果だ。
それぞれに人間を恨む心はあったが、それを強めたのは天邪鬼の力だ。
「……戻るか」
ようやく気持ちが落ち着いてきた。
目の前のこの光景にも早く慣れないとな。
結構ガチで陽太や月花さんに相談しないとまずいな、これは。
◆◇◆
図書館に戻ると退屈そうにしている汐音が視界に入る。
「随分長いおトイレなことで。」
「ごめんって。」
そういえば、トイレに行くって嘘ついてたんだった。
俺はバツが悪そうに座る。
汐音は机に顔を伏せたまま動かない。
周りを見てみると、ワタのような可愛らしい妖怪が飛んでいる。
どこにでもいるなこいつら。
「ポケーポケー」と謎の声を発するもの、たぬきのような見た目の妖怪、うさぎのような、ぴょんぴょん跳ねる妖怪、おかっぱの女の子の妖怪。
総じて可愛らしい妖怪ばかりがいる。全員本を読んでいるようだ。普通の人にはどう映るのか謎だ。
本が浮いて見えるのか?それとも、そういうのは都合よく見えないものなのか?
謎は深まるが、場所によって種類も異なることがわかった。
「あれ……ジンくんは?」
ようやく顔を上げる汐音。目は真っ赤で額に教科書の跡がついている。
「なんか用事だってさ。」
「え、教科書置いてるけど」
「あっ……」
言われて気がつく。急いで送り出したから忘れていた。
「明日、渡しておくよ。」
「帰りに家寄ってあげればいいじゃない」
「そ、それもそうだな……」
い、行きたくねえ!!!!琴上家だぞ!?ぜったい厄介な事起きるじゃん!
もうコリゴリだって!今日どれだけ冷や汗かいたかわかんないんだぞ!
危うく運命変えるところだったんだぞ!主人公死ぬかもしれなかったんだぞ!まだ安心できないぐらい怪しいんだぞ!
俺もガッツリ妖怪見えるようになったし……。
「なんか顔色悪いけど大丈夫なの?」
「ああ、うん。大丈夫……大丈夫」
どうやら、顔に出ていたらしい。汐音が不思議そうに俺の顔を見つめている。
俺は心配をかけないように取り繕ってみせる。
「そ?ならいいけど。……せっかくふたりだから聞きたいことあるんだけど。」
「ん?なに?」
なんだか勉強をする気分でもない。教える相手のジンもいないし、少し話したら帰ろう。
俺は汐音に向き直り、話を聞くことにした。
鈴蘭たちのことは心配だ。だが、やはり俺が行っても役に立てない。
妖怪が見えるようになって、こんなに不安になっている俺には。
できることはしたはずだ。
汐音と話して落ち着こう。
「ずっと気になってたんだけど、なんであんたずっと寝てたの?」
「え?」
「ほらだって。変じゃない?ずっと聞きたかったの。何しても寝てて、学校終わったらすぐ帰ってさ。……それなのに最近すごく活動的?じゃない。なんで?」
確かに汐音の立場からしたら謎なんだろう。それにたくさん迷惑をかけてきたはずだ。
俺にはこの世界の『創助』の記憶はない。
ただ家族関係を見る限り、前世の俺とそんなに変わらない人だったと思う。
世話焼きだった汐音がそばにいてくれたのに、何も感謝していないあたりも昔の俺っぽい。
当たり前が当たり前ではなかったと、壊れてから人は気がつくものだ。
少なくとも俺はそうだった。
仲良くしてくれていた幼なじみや友人を沢山傷つけた。そして、傷つけられて、自分でいっぱいになった。そんな経験がある。
小さい頃の関係性なんて、些細なもので壊れたり育まれたりする。
仲良い人と思っていた人がある日突然表情を変えたり、嫌われていたと思っていた人がそうじゃなかったりする。
長年続いた関係も突然終わりが来ることもある。
逆に全く連絡とっていなかったやつも、久しぶりに会ってみたら結構仲良くて楽しかったりする。
でもだからこそ、そういう経験をしてきたからこそ、俺は誠実でありたいと思う。
目の前にいる汐音は、きちんと俺と向き合ってくれているのだから。
「ごめん沢山迷惑かけたよね。」
「あ……いや、たしかに。まあ、思うところはあったけど。……何でなのかなって。それを聞きたくて。……創助のことで、怒ってばっかりだった私に先生が言ってくれたの。『どうしてそういう人なのか考えてみるのもいいんじゃない?』って。……沢山考えて、最近違う顔も見えてきて、だからこそ余計わかんなくて。……だから、教えて欲しいの。ずっと寝てたことも、鈴蘭を助けたことも。……知りたい。」
俺は黙って汐音の言葉を最後まで聞いた。
本当にいい子なんだな。この子は。
かつての俺にそんなことできただろうか。
いや。無理だっただろう。
俺がそんなことを理解できるようになったのは、しばらく経ってからだ。今でもできているか自信はない。
何度も人と衝突を繰り返して、最近になってようやくわかってきたと思う。
俺なんかより彼女はずっと大人だな。
◆◇◆
俺はそのあと汐音と色んな話をした。
俺も昔虐められたことがあること。
酷いことを言われて心が傷んだこと。
何度も学校を休んだこと。
自分が悪い時もあったし、理不尽なこともあったこと。
助けてくれる人、そばに居てくれる人、裏切る人、期待してしまった人、色んな事情があったこと。
だからこそ、鈴蘭のことも、桃子のことも、汐音のことも、他人事だと思えなかったこと。
それに勉強が好きじゃなくて、自分より優れている周りに嫉妬していたこと。
よく眠っていたことについては、アレルギーが酷くて強い薬を飲んでてそのせいで眠気が強かった、そんな風に説明した。
この世界の創助のことは分からない。でも俺の学生の時はそんな感じだった。
小学校、中学校、高校。色んな話を交えながら、話してみた。
全部前世の話。
彼女に理解できるかは分からない。
でも彼女には俺を知って欲しかった。
不安なこの世界で初めてできた友達だと思うから。
たくさん話して、沢山聞いてもらって、汐音の話も沢山聞いた。
桃子は怖いだけじゃなくて、優しい時もあるとか。いつもどこか寂しそうとか。今度は桃子が浮いてしまうような気がして不安だったとか。
鈴蘭は結構態度でかくて嫌だったとか。でも前はそんなんじゃなくて仲良くしていたとか。ちゃんと話を聞いてあげればよかったとか。
クラスの意地悪な空気が嫌だったとか。なんも考えてなさそうなオレにイライラしていたとか。でもみんなの前で発言していて、放っておけなかったとか。
本当に色んな話をした。
◆◇◆
外に出るとすっかり日が落ちて、夕暮れが少し寂しく見えた。
「はあーあ!なんかスッキリした!ありがとね、話聞いてくれて。」
「それは俺もだよ」
俺たちは顔を合わせて笑った。
そんなやり取りを続けて琴上家に向かっていると、背後から聞き馴染みのある声が聞こえてくる。
オレはその声に気がついて、汐音に合図すると塀の影に隠れ静かに汐音と話す。
海と桃子がクタクタになりながら歩いている。
「あっちって学校よね?2人で会ってたのかな?」
「さ、さあ……?」
「てか隠れる必要ある?」
「あるだろ、なんかいい空気じゃね?」
「そうかなあ?桃子ちゃんってジンくん狙いじゃなかったの?」
「諦めるだろ、さすがに」
「そういうもん?」
「そーいうもんだよ」
俺はようやく安堵する。
2人は無事なようだ。
確か原作でもそうだ。ジンに助けられたふたりは、ジンに眠らさせれて学校へと転移させられる。
記憶を消された訳では無いが、確信を持ってジンを霊能者だと認識させないため……だった気がする。
我ながらふわっとした設定だ。
でもジンの巻き込みたくないという気持ちは、理解できるから良しとして欲しい。
鈴蘭は同じ霊能者だからその場に残すんだよな。
それにしても流れは変わってないのに、尽くこいつらに関わってしまうな。
原作に描写されてないし、またおかしなことになっても困る。
このままスルーだろ、これは。
ひとまず俺は塀の影にかくれながら、桃子とカイを見守ることにした。
二人は突然立ち止まると、何やら話し始めた。何となく声は聞き取れるな。
「なんで助けてくれたのよ。あたしなんかを。」
「約束したろ。助けるって。」
「……覚えてたの?」
「ざまぁみろ!……そう言ってやるって言ったろ?」
「……もお。なによ、それ。ばか。」
「それにさっきも言ったけど、鈴蘭と仲良くしたかったんだろ。ちゃんと見てたから、分かる。」
「ふ、ふーん?そんなにあたしの事好きなの〜?」
「は、はあっ!?だからちげえっての!っていうか!もうあんな危ないことすんなよな!クラスでももうちょい普通にやってみろよ、友達できるから。」
「あ〜!話し逸らした〜!!余計なお世話なんですけど!……あれでも待って。アンタ乗っ取られたんだし、あたしのこと助けてくれてなくない!?」
「はああああっ!?そりゃねえだろ!!俺いなかったらお前殺されてたぞ!絶対!」
「そんなことありませーん!」
「かっ!可愛くねえ!!!助けるんじゃなかった!」
「……ありがと。チュ!……これでいい?」
「おま、おおおおお、お前!」
「ふふ!顔真っ赤ですけど?」
「夕陽!夕陽でそう見えんの!!!」
「ほんとかな?」
「そうに決まってる!」
言い争いを続ける二人。突然桃子はカイの頬にキスをした。
おいおい、見てらんねえぜ。
「邪魔したら悪いし行こうか汐音……っていなああああい!!!」
後ろを振り返ると汐音の姿はなく、全速力で2人に近づく後ろ姿が見えた。
「え!二人付き合ってるの!?」
「おいおい!汐音!!」
声をかけたものの、もう遅かった。
やっぱ汐音もちゃんと小学生ですよ。はい。
全力で赤面する海に、笑い転げる桃子。
これはドンマイだな海。
でも無事でよかったよ。
「お、お前ら!!なんでここに!?」
「ああ、さっきまでジンと汐音と俺の3人で勉強してて。……朝誘ったろ?」
「え、ああ。そうか。……え?ジンいたのか?」
「うん、真面目に勉強してたよ。」
「なにそれー!あたし誘われてなーい」
「ごめん!桃子ちゃん!誘おうとしたら、鈴蘭と手繋いでどっか行くから」
「え、あ、ふーん。そうだったかも?」
なんだかバツが悪そうな桃子。
まあ、そりゃあそうですよ。
廃墟に連れて行って殺そうとしたんですから。
恐ろしい小学生です、ほんとに。
「じゃ、じゃあ!あたし達はこれで!!!」
「ちょ、桃子!ジンのこと確認しなくていいのか?ホントに夢だったかも!」
「あんなリアルな夢あってたまる!?」
「そうだけど!妖怪とか刀とかまだ理解できないって!」
「アンタは取り憑かれたでしょ!」
「お前もだろうが!」
「明日鈴蘭に確認する!アンタはいつも通りジンくんの心配してやんなさい!」
「わーったよ!」
嵐のように去っていく二人。どこか楽しげに桃子は弾けるような笑顔を浮べる。
海も桃子に手を引かれてどこか照れくさそうに笑っている。
大変な思いしたし、あいつらもしたんだろうけど、ひとまず一件落着だな。
これからはあんまり4人に関わらないようにしよう。これからきっと楽しく日々を過ごすのだから。
今日みたいな思いは沢山だ。
幸せになれよ、4人とも。
◆◇◆
遠ざかる2人の背中を見送る俺と汐音。
「ありゃ、行っちゃった。ジンくんの荷物お願いしようとしたのに。」
「あはは……いいんじゃないかな。」
ふわっとした設定がいい感じで強くなったなあ。
やっぱり、関わることで原作の流れを補完できるのかもしれないな。
大きく改変してしまうこともありそうだけど。逆もまた然りか。
その後、難なくジンの荷物を送り届け汐音と別れた俺。
神社に着く着前に帰宅途中のジンに会えて、手短に話はすんだ。
汐音といたからか、ジンは俺のことを詮索することは無かった。
海と桃子と会ったことを話すと、耳元で「鈴蘭も無事だぞ、サンキュな。」と言われた。
これでようやく一安心だ。
だが、当然のごとくトラブルは起きるもので。
「よお、神獣の坊主。月花の姉貴から話は聞いてるぞ。」
帰宅途中。油断した俺の前にそいつは現れた。
どうやら、話しかけてくるタイプの妖怪二度目の遭遇です。
石のような、人魂のような、緑色の小型の何か。手のひらサイズの小さななにかだ。そう、何かだ。
表情は豊かだが、緑色で不気味という他ないだろう。
総じてなんとも表現しがたい存在に話しかけられているわけだ。
誰だよマジで。月花の姉貴とか言ってるし。
人魂は黙って俺の方を見据えて、反応を待っている。
えぇ、これ返事しないとダメなやつ?普通に怖いけど。気さくに話しかけてるつもりなのかな。
だが、敵意剥き出しでないことは明らかだ。話しかけてくれているのだから、返した方がいいだろう。うん、そうした方がいいと分かってはいる。
だが、少しだけ躊躇いと恐怖はある。ゆっくり落ち着いてから切り出そう。
あからさまな深呼吸を終え、俺は恐る恐る話しかけてみた。鈴蘭も話しかけてくるやつには話してたって言ってたもんな。が、頑張るぞ。
「もしかしなくても妖怪……?」
「その通りである!前に月花の姉貴に浄化された石の妖怪とは俺の事よ!名はまだない!人間だった頃の名前は忘れたのだ!」
話しかけると上機嫌に答えてくれる人魂。聞いていないのに、自分のことをペラペラと語り始めた。
だが、こいつが誰かようやくわかった。
お前最初に鈴蘭襲った妖怪じゃねえか。
原作の1話ではかませ犬のつもりで出して、そのあとフェードアウトなキャラだった。
だが、実際はこいつのおかげで怖い思いしたんだ。終わらない階段、普通に怖かったんだぞ!!
一体なんの用だよ!怖いのやめてね?俺戦えないからね?
どうしてこう、面倒くさそうな展開になるんだ!
「座敷童子探してたんだが、思いのほかいい展開だ。」
こっちは全然良くないって。帰ってペペロンチーノ食べたい。もう休ませてよ!
「えーっと、なんの……用でしょう?」
俺は暴れる心を必死に隠しながら会話を進める。面倒なことにならないように、穏便に行きたい。
「いやいや、まさか草薙剣自分から抜くとは恐れ入ったぞ!坊主!」
おいおい。なんでそんなこと知ってんだよ。見張ってたの!?なんで!?月花に言われたとか!?こいつ原作だと騒動の後、鈴蘭のそばにいなかったか!?
「えっと…用ないなら……帰ります…ね…」
絶対面倒臭いことになる!早く帰らなければ!
だが、帰ろうとする俺の前に何度も石の妖怪は現れ、道を遮る。
そして素敵とは言えないその顔で、俺を見据えて告げる。
絶対めんどくさいことを言うぞ!こいつ!俺にはわかる!今までの流れ的に分かる!
「おいおい!まてやい!いやな?困ってるかと思ってよ!どうだ坊主、『俺と契約しねえか?』」
ほらめんどくさいこと言ってきた!
ふざけんな!作者!
「絶対!嫌です!!!!」
どうやらまだ、俺のドタバタライフは始まったばかりのようです。
最後まで読んでくださりありがとうございます。よろしけば、感想や評価、ブックマーク等、よろしくお願い致します。作品作りのモチベーションに繋がります。
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上記作品、完結させております。読むとさらに本作品が面白くなるので、まだの方はぜひ、読んでみてくださいね!




