2章2話 作者、霊能者を雇う
霞む視界。朦朧とする意識。
明滅する光。目の前に誰かがいる気がした。
なんだ。目の前がボヤけて見える。青い髪の男の子……?
目の前に見える男の子へ視線を移すと、歯を食いじばりながら涙をこらえているのがわかった。
カイ……?今よりも少し幼い?
これ、夢か?
そう理解した刹那、俺の中に感情が流れてくる。
その感情は記憶に刻み込むように、思考となって俺の中を駆け巡る。
他人の考えが、自分の考えのように駆け巡る。
不思議な感覚。視界と意識が切り替わっていく。
◆◇◆
わたしは生まれた時から欲しいものは、なんでも手に入ってきた。
おもちゃも服も、お菓子もケーキも。
お父さんとお母さんはいつも甘やかしてくれて。
周りにだって、友達が沢山いるんだから。
そう、友達がいるんだから。
お父さんとお母さんはいつも忙しい。
家に帰っても誰もいない。
友達だって本当は。
ううん。私寂しくなんてない。
だって、みんな愛してくれているから。
そんな風に言い聞かせてきた。違うって、本当はわかってるよ。
そんな時、アイツを見つけた。私と同じひとりぼっちの男の子を。
幼稚園の頃、アイツはよく虐められていた。小学校に上がってもそれは変わらなかった。
勉強ばかりしてアホみたいって思うだけだった。
どうせ、私より頭良くなんてなれないのに。
でも、もしかしたら。
そんなことを考えたのは、どれだけ虐められてもアイツは屈しなかったからだろう。
アイツなら私のそばにいてくれるかもしれない。私の力にすがり、利益を貪るだけの奴らとは違って。
だからだろう。ひと時の気の迷いが私の胸の内で大きくなっていったのは。
「次は必ず、俺がお前を守る!」
「私を?私がどんなピンチになるって言うのよ。」
「仮は返す。必ず。」
「運動も勉強も私に勝てないあんたが?勘違いしないでよね。気に入らないから助けただけ。あんたのためなんかじゃないんだから。」
「それでもいいよ。なんと言われたっていい。今は届かなくてても。……必ず追い抜く!!見返して、助けて、ざまあみろ!って言ってやる!」
「あっそ。精々、楽しみにしてるわ。」
少し楽しみができた。
それはアイツが成績を伸ばし始めたからだ。
いずれ1位と2位に並んだら、少しは仲良くなれるかもしれない。
友達になれるかもしれない。
でも、おかしくなった。5年生になって、アイツはおかしくなった。
『琴上人』とよく遊ぶようになった。それからだ。アイツは私を見なくなった。ずっと私を見てくれていたのに。
成績も落ちて、提出物も遅れて。
ああ、やっぱり友達になんてなれなかった。
分かってたのに。期待しちゃったんだ。
私と同じかもって。
気がつけば、わたしと鈴蘭の争い。
今度は鈴蘭と仲良くできるかもしれない。いや、仲良くなりたい。今度こそは上手くやるんだ。私と同じ景色を見ているなら、きっと。
でも私はどこかで嫉妬していた。私とは違うとすぐに理解したからだ。
私とは違って普通に友達がいる鈴蘭。笑顔を振りまいて、友達と楽しそうに過ごしていた。
同じって、思ってたのに。やっぱりお前も違ったんだ。
なら、やっぱり私には海しかいない。
そうだ。ジンと仲良くなれば、海ともまた話せる。そうだ、そうしよう。
でもそんな私の想いを鈴蘭は踏みにじった。
どこまで私をイラつかせるんだ。幌先鈴蘭!
ジンを物にするのを邪魔して、成績も私よりも良くて!!
友達も沢山いて!!!
海は海だけは渡さない。
貶めてやる。
幌先鈴蘭!!!!!
お前さえ消えれば。
全部手に入るんだ!!!
「違う!ホントにいるんだってば!ここにほら!聞こえない?変な声聞こえるでしょ!?」
これだと思った。
成績も良くて、人気もあった。見た目もいいから男子にもチヤホヤされていた。
こんな馬鹿なこと言い始めるなんて。
これなら、貶められる。いくらでも。
それなのに。それなのに。
アイツは!!!!
今度はジンと海が助けた?
許されるわけが無い。
みんなの前であんな仕打ちをして。
私が直接、鈴蘭を殺す。
「今なら信じてやるよ。あんたの妄言。……このオロチの力を手にした今なら!!!あっはははははは!!!!」
◆◇◆
「ひっでぇ夢。」
頭がまだガンガンする。
とんでもなく酷い夢だ。
瞳を開けて、広がるのは見知った天井。
寝汗でシーツが大変なことなっている。
「ああ、変に疲れたなあ。」
桃子の夢を見るとは思わなかった。モブキャラ同士の共鳴だろうか。
あいつ最初の想定だと、ただのいじめっ子モブだったんだよな。
それなのに勝手に動き回るキャラに仕上がって、友達からも好かれるキャラになった訳だが。
悪いキャラが改心するっていうテンプレだけど、あの子の場合根っこの性格あんま変わらなかったのが魅力なんだよな。自分が作ったキャラだけど。
まあ、こんな夢を見たのはあれが原因だろう。先週の金曜日。とんでもない顔で怒っていたモモコを見たからだ。
リアル桃子超怖かった。ありゃみんな怖がるわな。
それにしても、新しい解釈ができそうな夢だった。
桃子って原作だと、ジンのこと好きで鈴蘭のこと気に食わない!って思ってるキャラだけど。
でももし、海が好きだということに気がついていなかったんだとしたら、夢で見たような気持ちになっていてもおかしくないよな。
この世界のモモコがどうかは知らないけど。
◆◇◆
俺がこの世界に転生して早一週間。霊力に目覚めたものの、妖怪に襲われることも無く、平穏に過ごしている。
初日以降、原作の展開も起きておらず、何も気にすることがなくて助かっている。
とりあえずクラスの環境良くするために必死で一旦霊力のこととか、原作のこととか忘れてたもんな、俺。
まあ、今んとこは原作と大きく矛盾するようなことはしてないよな?な?
ひとまず俺は、小学校に通い、クラスメイトと話すのもだいぶ慣れてきたというところだ。
肝心の主人公、鈴蘭はと言うと。
いじめていた空気というのは、徐々に改善されつつあった。少しずつ鈴蘭とクラスメイトは馴染んでいっている。
一部を除いて、だが。
海やジンと話す鈴蘭を睨みつける桃子。
他の子供たちとも鈴蘭はちょっとずつ話している。
たまに見えない何かと話しているが、ジンと海は上手くフォローしているな。
そんな様子を遠目から眺めていると、肩をポンポンと汐音に叩かれる。
「おはよ」
「おはよう、汐音」
いつも通りの挨拶。どうやら、俺の人間関係も問題なさそうだ。
「今日暇?」
「ああ、暇だよ。遊びに行く?」
「なんであんたなんかと。」
「ですよねー」
はいはい。分かっていますとも。いくら小学生の肉体を得たと言っても、俺は彼女たちから見たらおじさんだ。そんな元おじさんの俺が、現役小学生と遊びに行けるわけがなかろう。
俺なりのジョークのつもりだ。
「勉強教えてくんない?」
「ああ、それぐらいなら全然いいよ。」
「あんがと。じゃあジンくんと海くんも誘っておいて」
「いいけど、なんでまた?」
「先生に言われたのよ。ほら、あれ」
汐音はジンと海の方を指さす。
言われるまま見ると、先週のテストを見せ合いながら何やら言い争っている。
「海だって、俺とそんな変わんねーだろ!」
「こないだの小テスト俺の方が高かったし!」
「1点だろうがぁあああああっ!」
「たかが一点。されど一点。」
「相変わらず低レベルね。私の席の周りでやらないでもらえる?」
呆れたように鈴蘭もテストの結果を見せて一蹴している。
「あれは酷いな。」
「私も手伝えるところは手伝うから。ねっ。だから、ふたり誘っておいてよ。私鈴蘭と桃子ちゃん誘うから。」
「え、桃子も?」
「仲間外れは酷いんじゃなかったの?」
「そうだね。みんなでやろう。」
「じゃあよろしくね。学校終わったら、琴街図書館!」
「あいよ」
軽く返事をしてみせる。汐音はなんだかウキウキで女子たちの方へと向かった。
「そのお家に行くとね呪われるんだって!」
「なになに〜?何の話〜?」
「だから最近できた新しい家!モデルハウス?だっけ!住む人みんな死んじゃうんだって!」
「なにそれ!こわ!」
「今話題の心霊スポットなんだよ!」
「そこに行くとね、呪われちゃうんだって!」
はいはい。女の子って噂話好きだよな。ほんとに。
今は鈴蘭とジンと海は楽しそうに話してるし、後にするか。
それにしても図書館で勉強ね。
小学生の時にそんなことした記憶ねえぞ。
中学生の時と専門の時ぐらいか?
優等生になったもんだな、俺も。
そんなことを考えていると、ジンは自席に戻り宿題。鈴蘭は読書をしていた。
海も自席に戻ったばかりのようだ。俺は話しかけやすそうな海に近づく。
「海、今日って空いてる?」
「ああ、ごめん。今日はちょっと予定ある。」
「そっか。なら仕方ないか。」
「なんか用あったのか?」
「ん?ああ。汐音に勉強しようって誘われてさ。海やジンもどうかなって。女の子も汐音が誘うみたいだよ。」
「さすが優等生。頼りにされてんね。」
「あっはは。そりゃどうも。」
これでも必死に勉強してるんだぜ?理科とか理科とか理科とか。
「勉強はいいよ。塾行ってるし。一人の方ができるんだ。」
「そっか。じゃあそのうちみんなで遊ぼう。ずっと勉強は疲れるからね!」
「それは賛成だな!」
「おう!!」
「お前ホント変わったよな。さっき鈴蘭にも言ったけどさ。いい事だと思う。あいつが積極的にみんなに関わるようになったのも誰かさんのおかげみたいだしな。……支倉のこと大切にしてやるんだぞ?」
「お、おう?……ありがとう!」
なんでもお見通しだな。こいつは。
去り際、海は俺に笑ってみせる。こうやって、鈴蘭とかジンとか桃子のことか、周りのこといつも気にかけているんだよな。
一定の距離をとって、ちょっと冷たく見える時もあるけど。
もし、朝の夢がホントのことなら、周りと近づきすぎないように距離を取ってしまうのかもしれないな。
ひとまず海は不参加っと。
俺は自席に戻り、再度海の方を見やる。
それにしても見間違いだろうか。
「なんか黒い……?」
一瞬海の周りに黒いモヤが見えた気がしたが、今は見えない。
疲れてんのかな。俺も。変な夢見るし。
◆◇◆
放課後。陽太に首根っこを掴まれたジンがオレと汐音の前に立っていた。
「いてててて!やめろって!タマタマ!」
「誰がタマタマじゃ。ほれ、汐音と創助に勉強教えてもらえ。」
「いやいや!!今日稽古だから!」
「親には事前に言ってある。『馬鹿だから助かります〜』ってお母さん言ってたぞ。」
「なあっ!?あのクソババア!!!帰ってきてたのか!!!!」
「じゃ、頼むな。2人とも。」
「「はあ」」
オレと汐音は圧倒されながらそう返事した。
◆◇◆
図書館について数分。長い机と椅子。話しても良い学習スペースなるところで、勉強を開始する。
いざ勉強を始めてしまえば、ジンは真面目に取り組んでいる。
お前はそういうやつだよな。根は真面目で、周りとは違う大きな使命を背負ってる。
今はただの子供だがな。
「創助はなんでそんなに勉強できるんだ?嫌になんねーの?」
「使わないと思ってることも意外と生活に役立ってるんだよ。やりたい仕事によっては、今やっておかないと苦労することになる。」
「何の話?」
「追試は恐ろしいんだぞ。高いお金払ってんのに、辞めさせられるかもしれないんだぞ!」
「だから何の話?」
「理科とか理科とか理科とか恐ろしいんだぞ!」
「お、おう。わ、わかった。おまえが理科嫌いなことだけはわかったよ。」
汐音も教えてくれと頼んできたわりに、スラスラとプリントや問題集を解いている。
「なんだできんじゃん。」
「あんたの代わりに問題とか当てられること多くて、勉強するようになったのよ。できるならちゃんと起きてなさいよ、バカ。」
「あ、はい。ごめんなさい。」
頭上がりませんね、汐音さんには。
「ところで汐音。鈴蘭と桃子も誘うって言ってなかった?」
「あー、それなんだけど誘おうとしたらさ。二人で手繋いでどっか行ったからさ。誘いづらくて。」
「ふえー、桃子も心入れ替えたんだな。」
「いいことじゃん!鈴蘭友達増えて嬉しいな!」
「あの二人、色々あったじゃん?だから、仲良くなるきっかけになればって思ったんだけど。余計なお世話だったかも。」
「そんなことないって。また誘おう。今度はみんなで遊びに行くとかいいよね。海とも今日話したんだ。」
「おお!いいな!それ!」
「それは素敵な話ね。……でも、ジンくん?手がとまってるよ?」
「あ、はい。やりまーす。」
汐音に指摘されて、気を取り直すジン。
この話はまた今度だな。
それにしても、汐音はほんとにいい子だなあ。
◆◇◆
そんなこんなで、真面目に勉強をこなすこと1時間。
「ふう、一旦休憩しよう。結構集中してたね。」
「そうね。それにしても、ずっーと気になってたけど。ジンくん、それ下ろしたら?」
俺も気になっていた。
ジンはずっと荷物を背負い、座っている。袋に入った細長い棒のようなものを背負っていた。
「ああ、わり。これないと落ち着かなくて。」
「でも学校の時はつけてないよな?なんで?」
「陽太に怒られちまって。預かってもらってんだ。」
「それなんなの?」
「竹刀みたいな?俺の流派の武器なんだ。ああ、刀とかじゃないぞ?」
フワッと濁すように話すジン。ああ、『草薙剣』か。オロチ倒した時も使ってたな。
オロチ……?
一瞬、脳裏に言葉がよぎる。
琴上人。
琴上家一族の少年。彼らの一族は古くから妖殺しを行っている。
ジンの力が明かされるのはいつだった?オロチを倒した時じゃなかったか?それはいつだ?石の妖怪に襲われて1週間ぐらいじゃなかったか?
桃子と鈴蘭が手を繋いでどこかへ?
そんな馬鹿な。あんなに朝睨んでたのに?そんなわけないだろう。バカか俺は。
海はなんで俺の誘いを断った?理由はなんだ?用事ってなんだ?
嫌な予感がする。
全部、辻褄があってしまう。
桃子と鈴蘭がどこかへ。海もどこかへ。
ジンは遅れて登場……。
鈴蘭がクラスメイトと仲良くなり始めた。石の妖怪に襲われて一週間後。
いやまだだ。まだ確信できない。
なにか見逃してる。
「な、なあ。汐音。」
「なにさ?」
「休憩がてら、最近聞いた怖い話とかしてくれよ。」
「なによ急に。」
「なんかない?ほ、ほら、朝話してたじゃんか。」
「ん〜?」
「呪いの家だろ、朝みんな話してたよな。そんな話聞きたいのか?」
「呪いの家……」
俺は考え込むように頭を抱える。
たしかそんな呼び名だった気がする。
バチくそイベント見逃してんじゃねえか!俺!
ってまてまて。この場にジンいるのは不味くないか!?
鈴蘭大ピンチになるじゃんか!
桃子は呪いの家に行き、オロチと契約をしてしまう。その結果、望んだのは鈴蘭を殺すこと。
海は桃子の様子をずっと心配して、自分の体を渡すことで桃子を守る契約をした。
だが、オロチはそんな契約もろともしなかった。
このままじゃ、鈴蘭も桃子も海もみんな殺されてしまう。
本来なら、ジンが何故か駆けつけて、オロチを瞬殺するはずなのに。
くそ、俺が関わったせいで。
流れがおかしくなったんだ。
落ち込んでいる暇はない。今はそんなことを考えてる場合か!落ち込むのはあとだ。
原作に矛盾しなければ、いいだけの事だ。
間に合うと信じて、この場からジンを呪いの家へ向かわせるんだ。
「おおっと、呪いの家かあ。怖い話聞いたらトイレ行きたくなってきたな!怖くて行けないぞ!困ったな!」
「いや、まだなんも話してないけど。」
「あんたから振ったんじゃない。どうしたの?寝不足?」
「ぐおっ!漏れる漏れる!」
「おお、わかったって。ついて行くから。」
「いってら〜」
よし!!ジンと2人きりを作り出すことに成功だ!
◆◇◆
「お、おい。ここ外だぞ?」
「聞いてくれ。ジン。」
俺は外にジンを連れ出すと真剣に言葉を伝える。
「な、なんだよ?トイレじゃないの?」
「琴上人。いや、琴上家次期当主、妖殺しのジンと、呼んだらわかるか?」
「なんの遊び?」
「鈴蘭と桃子が向かったのは呪いの家だ。」
「肝試しってやつか。いいね。」
「違うそうじゃない。あそこには妖怪が出るんだ。」
「妖怪?お前そんなの信じてんのか?」
なんだ、さっきから。この会話の噛み合わさなさ。
お前霊能者だろ?妖怪殺してるだろ?鈴蘭のピンチなんだぞ?
なんでそんな普通な顔で笑ってんだよ!!!
「妖怪なんて、いる訳ねーだろ」
「は……?」
俺は言葉に詰まる。そうだ。俺が作った琴上人ってやつは、こういうやつだ。
正義のためにその力を使っている訳じゃない。
そういう力を持っているから。
そういう家に生まれたから。
やれと言われているから。
掟だと言われているから。霊能者であることを隠しているんだ。
「なんもないなら、戻ろーぜ。」
ジンは何事も無かったかのように、図書館へと戻っていく。
「すぅー、はぁー。」
オレは深呼吸をする。深く、深く。
焦るな。何とかできるはずだ。
原作では、ちゃんと助けに行っているんだ。
俺は覚えている知識をフル回転させる。持っている手札を使う。
原作の流れに修正するんだ。
作者として。
このわからず屋の、第2の主人公を動かすんだ。
「相手は八岐大蛇である可能性が高い。」
「っ……!」
ジンは俺の言葉に足を止める。
琴上家とオロチには古くからの因縁がある。
その草薙剣がその証拠だ。
「俺に正体を隠す必要は無い。」
「……だから何言って…」
グッパイ。オレの普通の生活。
俺は覚悟を決める。
「オレも霊能者だからだ。」
この世界じゃなかったら、とんでもなく恥ずかしいセリフ。
俺は堂々とその事実を告げる。
「あっはははは!ば、ばっかじゃねえの!?何真面目な顔で言うかと思ったら!!」
ああ、いいさ。大いに笑えばいい。だが、オレにはそんな時間はねえ。
俺は笑っているジンの背後に回ると、背負っている袋を奪い取る。
「お、おい!やめろよ!何すんだよ?」
「こいつが抜けたら信じるよな?」
半信半疑だ。だが、普通の人間には抜けない細工をしているはずだ。
俺の読みが正しければ。
座敷童子はそういう言い回しをするやつだ。
「やめっ……」
ジンが止めようとする中、俺は何も考えずに袋から刀を出す。
何が竹刀だ。
思いっきり刀じゃねえか。
「これで信じろよ!ジン!!!」
俺はそのまま刀をいとも容易く抜いてみせる。
よし、抜けたぞ!!!どうだ!?
「はあ。わぁーったよ。信じるよ。……んで、何が言いたい?」
抜いてから後悔する。
何もかも覚悟が足りなかったことに。
霊力の意図的な解放。
目の前に広がる無数の妖怪たち。
カエルのようなもの、牛のような巨体のもの、いくつも瞳を持つ異形のもの。そこら中に見たこともない怪物が山ほど現れる。
空の色は不気味に赤く染まる。
抑えていた力が溢れたのだろう。
俺の世界は大きく色を変えた。
なによりも、目の前のジン。
彼が別世界の住人であると理解してしまった。
纏うオーラは紅。黄金の瞳がオレを見据えている。
体全身が震えるほどの霊力がジンから解き放たれている。
俺はそのまま震えて動けなくなっていた。
「だから止めたのに。……来ちゃったな、こっちの世界に。」
嘲笑うように言葉を紡ぐジン。
これが、ジンと鈴蘭が見ている世界なのか。
だがもう。後戻りなんてできない。
「み…見ての通り、俺は最近能力を得た新参者だ。だから呪いの家の事を知ってんのに、鈴蘭やモモコを、たたたた、助けに行けない。……お、おお俺はお前を雇いたい。」
震えながら言葉を紡ぐ。足も手も冷たくて、震えて怖くて、何言ってるのか分からない。それでも必死に言葉を紡ぐ。
その甲斐あってなのか、ジンは大人びた笑みを浮かべて言葉を返す。
「ま、そこまでの覚悟を見せられたら、仕方ねえ。なんでオロチのこと知ってんのかとか、なんで俺の家のこと知ってんのかとか色々あるけど。とりあえず、雇われてやるよ。父さんに確認すれば、すぐに分かることだ。ホントにオロチだってんなら、俺が討伐してやるよ。」
「ああ、頼む。」
「んじゃまあ、行ってくるよ。」
どうやら、彼を雇うことが出来たらしい。
最後まで読んでくださりありがとうございます。よろしけば、感想や評価、ブックマーク等、よろしくお願い致します。作品作りのモチベーションに繋がります。
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上記作品、完結させております。読むとさらに本作品が面白くなるので、まだの方はぜひ、読んでみてくださいね!




