2章1話 作者、仲間を作る
はい。いつものように一通り頭の中で暴れたあと、自室で思考を巡らせる。
妹は学校に行ってるし、母さんは昼寝タイムだ。
ちょうどゆっくり考えることが出来るだろう。
どうやら、霊力を身につけてしまったらしい俺。
そのせいか妖怪も見えるようになった。
理由は大体検討がついている。
この世界に来て2日。俺は過度のストレス状態にあった。
元の世界に戻れない不安。勝手が分からないというストレス。
この世界における霊力が目覚めるきっかけは負の感情。
そして妖怪が存在しているという認識。
このふたつが揃うと妖怪が見えるようになったり、力が使えるようになったりする。
そういう設定にしたんだ俺が。
鈴蘭もそうだった。
鈴蘭は、もともと霊能者の家系であったこともあって、力が身についていた。
周囲との違い、同年代からの拒絶を経験したことによって、負の感情が蓄積された。
月花や陽太、霊能者の存在。襲ってくる石の妖怪。それらと対峙したことで、彼女は妖怪が見えるようになった。
その結果、家に住み着いた座敷童子と関わるようになる。
そしてどうやら、俺も座敷童子と関わってしまった。
冷静に考えをまとめているが、悪意を持つ妖怪は霊能者や霊力の高い人間を襲う傾向にある。
俺もその一人になってしまったんだと思うと、最悪の気分だ。
よくある漫画のキャラに会いたい!はあっても、漫画の世界には行きたくない!という状況だ。
嫌だよ!絶対怖いじゃん!俺メインキャラじゃないもん!死ぬじゃん!
「はあ、明日学校かあ。」
憂鬱だ。
だが、まあ戦う手段がない訳でもない。
俺には作者としての知識があるからな。
主人公である鈴蘭はここで力をコントロールし、戦えるようになろうと決意する。
だが、オレは違う。
陽太と月花に全力で守ってもらうぜ!
◆◇◆
「24時間お前を守れと?」
ですよねー。
翌日。陽太に事の経緯を話して数分。回答はこれだ。
当たり前だよな。それができるのなら鈴蘭を守ったはずだ。
「なるべく助けるようにはするさ。だがな、力を持ってしまったのなら学ばなければならないと思うぞ。」
「……先生は鈴蘭の力のこと、知ってたのに放置してたんですか?」
「信じて貰えると思うか?……俺は鈴蘭のこと一度たりとも疑っていない。ただ、周りともう少し上手くやれと言ってきたんだ。」
だよな。卑怯な質問だった。分かってはいたが、どういうつもりだったか確認させてもらった。
「……その通りですね。分かりました。なら、力の使い方教えてください。」
「悪いが、俺は正規の能力者じゃない。能力をどう扱うかみたいなそういうのは感覚でできるようになってしまったんだ。だから妖怪や霊能者についての知識を与えることは出来るが、お前の求めているようなことは出来ない。……正規の能力者を探して、教えてもらうのが、いいと思う。そして能力者の情報は公開してはならない、という規則もあるんだ。……だから悪いな、あんまり力になれなくて。」
優しく、だが悲しげに笑ってみせる陽太。
結局原作通りにしか動けないって訳か。
鈴蘭が恐らく辿ったであろうルート通りに話が進んだ。
わかったよ!!自分でなんとかしますよ!
オレは自分に言い聞かせた。
幸運なことに霊力は隠せているらしいし、座敷童子のような大物に出くわさなければ大丈夫だろう。襲われた時はその時考える。
◆◇◆
朝早くの教室には鈴蘭と桃子、汐音、海がいた。
海は鉛筆を走らせ、何やら大忙しでプリントを解いている。
あれ、海ってこんな感じだったっけ。続編だと先生やってるぐらいには勉強スマートなんだけどな。
ああ、でも頭いいやつほど宿題とかプリントとか提出物だらしない傾向あるよな。なんなんだろうあれ。
そんな大忙しの海に桃子が近づいて行く。
「また宿題やってないの?」
「悪いか。」
「別に。」
「……お前こそ最近コソコソ何やってんだ?」
「関係ないでしょ、あんたには。」
「…そう……だな。」
まったく視線を合わすことなく進められる会話。
素直じゃないな2人とも。
2人の馴れ初めはあんまり描いてないけど、幼稚園からの付き合いなんだよな。
なんであんな険悪なんだろうな。原作を補完するための要素なのだろうか。だとすれば、俺にわからない。
ほんとに生きてこの世界で暮らしているんだな。
机に置きっぱなしだったランドセルからノートや教科書を取り出し、机にしまっていく。
「今日は早いんだね」
「ああ、昨日休んだからね。先生とちょっと話してて。」
「そうなんだ。元気になったの?」
「うん。心配してくれてありがとうね。」
「別にそういう訳じゃない。」
「そう?でもありがとね。」
俺は汐音に笑ってみせると、ランドセルを教室後方の棚に収納する。
「お、おはよう。茅野くん。」
鈴蘭が小さな声で挨拶してくれる。ああ、茅野って俺のことか。
まだ慣れない苗字に戸惑いながらも、対応する。
「おはよう。鈴蘭。」
「うん。おはよう。」
「なにか、用あった?」
「ううん、ただの挨拶。茅野くんになら、出来る気がして。」
「そっか。俺でよければいつでもどーぞ?」
「うん!!!」
鈴蘭は満開の笑みを俺に向けてくれる。
さすが主人公だなあ。一瞬周りに綺麗なお花畑見えた気がしたわ。どんだけ綺麗な笑顔だよ。こりゃあ、ジンが惚れるわけだ。
「す、鈴蘭がわ、笑ってる!?」
突然の大きな声。教室の入口を見ると、ジンが真っ青な顔で立っている。
「ぬあっ!!!!今笑ってたよな!?なあっ!?」
ものすごい勢いで迫ってくるジン。俺の肩を掴んで酷く動揺している。
どんだけ動揺してんだよ、こいつ。
「どうやって引き出した!教えてくれ!」
「……挨拶されたから、返したんだよ。おはよう、ジン。」
「挨拶だと!?おはよう、創助。」
「お、おはよう、ジンくん。」
「おおおおっ!!!おはよう!!鈴蘭!!」
赤面しながら挨拶し合う2人。早く付き合えよ、こいつら。
笑顔の引き出し方って。ジンお前何度も鈴蘭のこと笑わせてんだけどな。まあいいか。
アツアツな2人は放っておいて、俺は自席に着く。
「なにさっきの。」
席に戻ると、肘をついて俺を見上げる汐音。なんかこわい。
「なにって?」
「鈴蘭とあんた、昨日休んだでしょ。なんかあったわけ?」
「特に何も無いよ。そんな風に見えた?」
「いや。ただ、あんた鈴蘭派ってことでいいの?」
鋭い目つきだ。一昨日のことを話さなくてよかった。正直に話せば、鈴蘭に懐柔されたとか言われそうだ。
この質問、前もしていた。てっきり見た目の話しだと思ってたけど、違うようだ。
よくある誰々さんグループって話だ。
「汐音は桃子派なの?」
「クラスの大半はね。」
だろうな。桃子の影響力は絶大だ。
宮ノ森桃子。有名企業のご令嬢。多くの企業を傘下に置き、事業を拡大させ続けている。
自分の親がペコペコ機嫌取りをしている姿を見ている子供たちにとっては、恐ろしい存在だ。
何より桃子は頭がいい。
気に入らないやつを貶めるのがかなりうまい。
鈴蘭の立場が今こんなことになっているのも桃子の力だ。
他の子にも色んな方法で貶めたんだろう。
そして、仲間にしてきた。
どんな方法をとったのか知らないが、怖いよなカーストトップのお嬢様。
俺は汐音に助けられてきた存在らしい。本人はそのつもりはなかっただろうが、俺は汐音の派閥。つまりは、桃子の派閥ということになる。
だからこそ、彼女はしつこく確認していたんだ。
自分の派閥である俺が鈴蘭に肩入れしようものなら、自分たちが苦しくなるから。
「わかった。もうしない。困らせてごめんね。忠告してくれてありがとう。」
「……わかってるなら、いいのよ。」
汐音はそっぽを向く。これで会話は終了のようだ。
今の俺ならこういう空気感とか分けるけど、当時の俺はきっと地雷を踏みまくっていたんだろうな。
クラスで仲間外れになる苛立ちや不安は分かっているつもりだ。
みんな自分を守ることに精一杯なんだ。
◆◇◆
2日後。金曜日。
俺は鈴蘭、ジン、海の四人で陽太に呼ばれていた。
もちろん俺が事前に相談して、この3人を呼び出す流れを作ってもらった。
表立って鈴蘭に協力することは出来ない。でも筋は通しておきたかった。
あの日信じると約束したから。
そして、この数日で鈴蘭は周りと関わろうと努力している姿が、目に入った。
挨拶をしてみたり、言葉遣いを柔らかくしてみたりその変化は著しかった。
だが、諦めたくなるほど周りの対応は冷たかった。無視する人がほとんど。からかう男子、よそよそしく対応する女子が優しく見えるほどには冷たい。
だからこそこのメンツだ。
「暴力とかは止めるよ。危ないし。でも妖怪がいるとかは、信じられない。そこはみんなと同じだな!」
ジンは鈴蘭に好意的。だが、まあ妖怪のことを信じているという訳では無い様子。
「俺は味方もしないし、攻撃もしない。自分が正しい思うことをしてます。」
海は中立。あからさまな態度をする訳でもないが、味方する訳でもない。
「俺は桃子派閥らしくて……あははは。鈴蘭のことは信じるって言ったけど、汐音が困るのは嫌なんです。」
オレは桃子側という認識らしい。だが、俺のように動きたくても動けない人もいるだろう。
「私はみんなと普通に過ごしたい。私意地になって、みんなに冷たくしたから。信じて貰えなくても普通に過ごしたいんです。冷たくされるのってこんなに嫌な気持ちになるんだってわかったから。」
「話はよくわかったよ。4人とも。頑張ったな、鈴蘭。……なあ鈴蘭、いっその事今の気持ちをみんな伝えてみないか?」
一通り俺たちの話を聞き終えると、陽太はそう切り出した。
鈴蘭が努力すると言うなら、陽太も協力するということだろう。
「でも……みんな聞いてくれる?」
「ああ。みんな思ってるよりも色んなこと考えてる。みんなから話聞いたから、ちゃんとわかるよ。聞いてくれる。それに、意外とこういうのは空気で変わるもんだよ。フォローは俺がする。だからさ、やってみないか。失敗しても今日は金曜日。土日挟めば意外と大丈夫なんだぜ?……でも無理強いはしない。今日の帰りの時間で手を挙げるか、挙げないかだ。お前に任せる。」
「わかりました。やってみます。」
鈴蘭は意気込むと、空き教室を後にする。続くようにジンと海も去っていく。
「ああ、創助ありがとな。」
「え?」
俺も出ていこうとした不意に呼び止められる。
「おかげでクラスのみんなの話聞けたから。」
陽太はこの2日面談と称して中休みと昼休み、放課後と話を聞いたらしい。中々教師らしい動き方するじゃないか。
「いえ、俺はただ鈴蘭に、筋を通したかっただけですから。俺に出来ることをしただけですよ。……ありがとうございます。先生。」
◆◇◆
帰りの時間。
「先生からは以上だが、委員会やみんなからなんかあるか?」
陽太は教壇にたち、周りを見渡すように言い放つ。
鈴蘭は瞳を閉じて、震えている。
だめか、こわいよな。そりゃあ。
なら、俺が。代わりにやってやるか。
「あ、あの」
勢いよく立ち上がり声を出してみたものの、震える。
あ、あれ。どうした、俺。
相手は小学生だぞ。なに、怖がってる。
じっと汐音に見つめられる。
背後からも視線が集中する。
「あっはは!な、なんでもないっす!!」
「ほんとにいいんだな。創助。」
陽太は俺を見据えて言い放つ。
「……良くないです。」
ボソッと漏れる声。視線を下に向けると、汐音が俺の袖を引っ張っている。
やめろという合図だろう。
「ごめん……汐音。俺には、見過ごせない。」
「そう……」
汐音は諦めたように手を離す。
ああ、せっかく仲良くなれそうだったのに。まあやるだけやるか。ここまで来たら。
「ずっーと寝てた俺が何言うんだって話だけど、これでいいのかな?みんな。」
「おいおい、早く帰らせろよ。」
「私今日塾なんですけど」
呼吸が荒い。唇も震えて、言葉が上手く話せない。それでも俺は話してやる。周りのヤジなんか気にすんな。相手は小学生だ!
「みんなハブられんの怖くね?頑張りとか認められないの嫌じゃね?嫌なことを他の人にやんの、もっと嫌じゃね?」
「何の話だよ」
「だりー」
「先生もう帰っていいですよね?」
くぅー!このクソガキども!!!全然話聞いてくれねえ!!!
言葉に詰まった。こいつらをどうやったら納得させられるんだ!
やっぱり、だめか?ダメなのか?
刹那。ガタン!と大きな音をたたてジン、海、汐音が立ち上がる。これほど、嬉しいことがあるだろうか。頑張ってよかったと報われた気がした。
「俺も嫌だぜ!創助!!」
「確かに嫌だな。一回嫌なもんは俺は言う。そのうえで変わんなかったら、ほっとくな。」
「あんたら、最近創助に宿題見せてもらってたでしょ、少しは聞いてやれば?」
「は?なにあんたら。」
喜んだのも束の間、桃子が機嫌悪そうに呟く。
クラスメイト全員が、硬直する。桃子の威圧超怖ぇ。
だが、そんな中一人の少女が立ち上がる。
「4人とも。ありがとう。先生、私みんなに話があります!!!」
一気に全身から力が抜ける。おっせえよ、主人公。
ああ、怖かった。
息をふぅーっと吐きながら、汐音に礼を言う。
「助かった。ほんとに、いつも、ありがとう。」
「これで晴れてあんたのお仲間ね。」
「違いねえや。」
「責任取りなさいよ?」
「ああ、任せろ。」
何にも解決していないが、ひとまず俺、汐音、ジン、海は席に着く。
桃子は無視された怒りで鈴蘭を異常なまでに睨みつけているが、鈴蘭は気にすることなく先生の隣に並び立つ。
「愛されてるな、鈴蘭。」
「はい。向き合うって決めましたから。」
「いってこい!」
陽太は鈴蘭の背中をトン!と叩いてみせる。
鈴蘭は決意を固めたように、話し始めた。
◆◇◆
「まずは、沢山嫌な言い方してごめんなさい。気味悪いこと言ってごめんなさい。」
鈴蘭の素直な謝罪に全員に動揺が拡がっていく。
「ただ、私にとって妖怪が見えるっていうのは変えられないことで、言い分を変えることはできません。きっと嫌な思いをさせてしまうかも知れません。……ただ、みんなと仲良くしたいんです。これは本当の想いです。前みたいにまではいかなくても、わたしはみんなとお話がしたい!」
涙を流しながらの切実な想い。全員ヤジを飛ばすことなく聞いている。
陽太の言う通りだった。みんなそれなりに思うことはあるんだ。
「なに、泣いて誤魔化す気?あんたが変なこと言ったせいで階段から落ちた子いるんだよ?」
ま、対抗してくるよな。桃子は。
「それについては直接本人に確認したぞ。隣のクラスの女の子だよな。桃子に言われて『鈴蘭に変なこといわれたから階段から落ちた』って言ったんだってな。両親の話じゃ、旅行先で転んだって話だったぞ。」
「なっ……なによ、なによなによ!!!私に恥かかせる気?この学校にお金出してるの誰だと思ってるの!?」
「お前の両親だな。」
「ぐっ!!!!いい加減にしなさいよ!!!あんたの首ぐらい飛ばせるのよ!?」
「やってみろよ。桃子。」
「な、なんですって!?」
「俺がなんのためにこの2日、面談したと思う?お前が多くのいじめに加担してる情報集めだよ。これ、なにかわかるか?」
威圧するように机を叩く陽太。見せつけるようにUSBをかざす。
「ここに面談したお前たち全員の動画がある。顔も声もバッチリだ。みんな個室に入ったら、沢山話してくれたぜ?桃子、お前のことをな。」
「そんなの!犯罪よ!!!」
「否定はしないんだな?」
「くっ!!!デタラメよ!全部デタラメよ!!!犯罪!犯罪なんだから!それぐらいのこと揉み消してやるわ!」
「確かに犯罪だな。盗撮に盗聴だからな。……だから好きに親に言えばいい。そのかわりこの映像は好きに使わせてもらう。……俺も俺の身を守るためにな。……現に被害を受けてる奴もいることだしな。証拠としては充分だろ。」
「なっ……」
「だから、好きに首にでも逮捕でもしろよ。……大人なめんなよ?桃子。」
桃子は絶句したように座り込む。
「ま、動画の件は嘘だけどね。モモコがやってたのってこういうことだよ。……それに比べてどうかな。鈴蘭は。みんなほんとに怖い目にあった?だったら、恐ろしいしみんながやってる事も仕方ないと思うよ。でも、そうじゃないんだとしたら、君たちは自分がされたくないことをやってることになる。……鈴蘭も誠意を見せた。次はみんなの番だと思うな。同じクラスメイト同士『認めあっていこうよ』」
◆◇◆
その後長い長い帰りの会は終わりを告げる。
今後のことはみんな次第と言ったところか。
はあ、長い一週間だったな。
でも、俺は忘れていた。
この後起きる大事件を。
桃子の暗躍を。
最後まで読んでくださりありがとうございます。よろしけば、感想や評価、ブックマーク等、よろしくお願い致します。作品作りのモチベーションに繋がります。
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鈴蘭の花言葉〜ある日妖怪が見えるようになった少女。辛い現実の中で成長し、前世からの運命に立ち向かいます〜
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上記作品、完結させております。読むとさらに本作品が面白くなるので、まだの方はぜひ、読んでみてくださいね!




