1章3話 作者、妖と出会う
少しの間眠り目を覚ます。
疲労困憊な俺を玉緒姉弟が車で送ってくれる。
鈴蘭は何やら足早に帰っていった。少し明るい表情をしていたし、なにか考えることがあったのかもしれない。
確かこの日、鈴蘭は『座敷童子』と初めて関わるんだよな。
もう今日の1件で妖怪の姿は見えるようになったんだっけか。
俺はひとまず、これで家に帰れると思うと一安心。
運転は月花。助手席に陽太。後ろに俺。そんな感じで座ると、車が発進する。走り始めると、月花は寝そうな陽太にひと声かける。
「陽太、ちゃんとナビしなさいよ?」
「わかってるよ。体の至る所痛いけど、創助を送らないとな。」
「あ、あの、わざわざありがとうこざいます。」
俺は2人にお礼を言ってみせる。何とか帰れるのは2人のおかげだ。まさか車を出してくれるとは思わなかった。今日何が起きたか事情を知っている2人にとって、心配なのかもしれないな。
ほんと、ただ学校から家に帰るだけで、とんだ大冒険だ。もうクタクタだぜ。
「気にしなくていいのよ。突然階段から出られなくなったんだっけ?」
「え、あ、はい。」
月花は穏やかに言ってみせるが、きっと探りを入れてる。俺がどこまで理解してしまったのか。
「強いストレスが働いたのかもね。疲れてるのかしらね。体とかは大丈夫?」
「は、はい。お陰様で、なんとか。」
「姉さんは病院の先生なんだ。気になる症状があったら、話すといいよ。」
「お気遣いありがとうございます。今は混乱してて何が何だか。」
「そうね。落ち着いて気になることあったら、うちにおいで。陽太に話してくれればいいから。」
「あ、ありがとうございます。」
何もバレていないだろうか。妖怪の影響を受けて、一時的に混乱している子供という認識をしてくれれば助かるのだが。
そんなことを話していると、家に着く。
さすがに近い。
真っ直ぐ行って曲がるだけだ。これだけのために酷い思いしたな、ほんとに。
再び2人にお礼を言うと自宅に入る。2人は親に挨拶したいと申し出たが、俺が上手く対応できない気がして断った。家に誰もいないと嘘をついてしまったが、まあいいだろう。
◆◇◆
連なる二階建てアパートの一角。
昔住んでいた家に似ている。あそこ幽霊出るし、近所に怖い魔女みたいなおばさんいてあんまいい思い出ないんだよな。
まあ、その経験のおかげで、未知のものとか否定的にはならずに育ったんだろうけど。果たしてよかったのか悪かったのかは分からない。
「た、ただいま」
持っていた鍵で扉を開け、俺は探るようにそう声に出す。そうして靴を脱いで家に上がる。
おわ、まんま当時住んでいた家の内装だ。こんなことあるのか。
ペットは……さすがに居ないか。
大きなテーブル、ソファに椅子ふたつ。狭いキッチンにシールまみれの冷蔵庫。ぶつかると直ぐに消えるストーブ。旧型の液晶テレビ。
知らない家なのに落ち着くわ。
ただ一つだけ。見慣れない鏡があることを除けば、ほとんど昔住んでいた家だ。
「てか暗いな。」
カーテンは開いているが、電気は消えている。外は夕方を越えて、暗くなってきている。
「ほいっと」
俺は何も考えることなく電気をつけてみせる。
「電気の位置もそのまんまか。誰も帰ってきてないのかな。だとしたらカーテン開けっぱかよ。」
家は昔住んでいたそのものだが、家族とは初対面だ。
家族なのに初対面という意味のわからない状況だが。
せめて変な人じゃなければいいんだけど、少しばかり緊張する。
「2階も行ってみるか」
無駄に段差のある階段を登ると、これもまた見慣れた光景が広がる。
和室と2段ベッドの置かれた子供部屋。
「兄弟いんのか」
前の世界だと妹だったけど、こっちだとどうかな。
ベッドを見る感じ女の子と男の子用だ。
「妹だな、これは。」
一瞬弟に期待したがまあ仕方ある無い。
「机もふたつあるな。」
俺が使っていた机はかなり綺麗に扱われている。
創助とやらは勉強してないのかな。みんな口を揃えて寝てたって言ってたな。
妹(仮)の机の上には細かい小物で溢れかえっている。乱雑に置かれたノートには3年3組『茅野瑠璃』とある。年の差まで完璧な訳だが、名前はやはり違うことだけは分かる。随分可愛い名前になったもんだ。思い出せないけど。
これで妹(確定)になったわけだな。
「やることないし、疲れたし寝るか」
俺は自分のベッドと思われるベッドに横になった。
随分疲れていたようで、俺は朝まで起きることは無かった。
◆◇◆
翌朝、とんでもない衝撃が体を襲い目が覚める。
「な、なんだ!?」
「おっはよー!お兄ちゃん!」
目の前に妹そっくりな幼女が乗っている。
とんでもない衝撃はこいつが原因か。
赤茶髪の女の子。茶色い瞳にあるかどうか分からないほど小さい鼻。めっちゃ妹に似てるな、この子。
どうやら、この世界の妹瑠璃とはこの子だろう。
てか、この世界の俺お兄ちゃんって呼ばせてんの?きっつ。
しかも朝起きるの妹の方が早いんかい。前の世界だとギリギリまで寝てたぞ。
見ると妹は髪をポニーテールにして青いジャージを着ている。もう準備はできているようだ。
似てるのは見た目だけか。
起きたら元の世界に戻ってないかなとか思ってたけど、どうやらそのまんまらしい。
リアル世界にこんな妹はいません。寝起き悪くてギリギリまで寝てる妹しか俺は知らん。昼寝して起こされたことはあっても、朝起こされたことは無い。
「ん〜?まだ寝てんの?それ!往復ビンタ!!!!」
「……えっ」
色々頭で思考している姿が、寝ぼけていると判断されたのだろう。
強烈な往復ビンタが飛んでくる。
「ぼへっ!?おっふ!?おっわ!?ぐおっ!!!ギブ!ギブアップ!!!痛いって!!!起きたから!」
「おお!起きたか!じゃあ瑠璃先いくね、日直だから!!」
「日直って……もうそんな時間?」
「うん!もう8時!」
「学校って何時まで……?」
「8時45分!」
「はあああああっ!?遅刻する!!!」
「え、いつも10分で用意してるじゃん」
「はっ!?嘘だろ!!」
俺は前の世界で早起きが得意だった。そして、用意に時間がかかるタイプの男の子だ。
あれ、そういえば、小学校の頃は用意早かったな。でも1時間はかかってたぞ。
この際、シャワーは諦めよう。全力で用意してやる!!
「じゃあ行ってくるね!」
妹は慌てる俺を笑いながら赤いランドセルを背負うと、そのまま階段を駆け下り登校した。
◇◆◇
俺も急いで時間割を揃え、水色のランドセルを背負う。今更ながらランドセルって懐かしいよね。
そのまま1回に降りると、これまた母さんそっくりな女性が現れる。
「おお、おはよ。起きれたんか。死んでるかと思ったわ。……今日休んでいいって先生から連絡来たよ。」
「ほえ?」
「昨日具合悪くなって先生に送ってもらったんしょ?」
「ああ、うん。そうそう。休んでいいの?」
「良いも何も、昨日寝てる時に声掛けたら『ねむい』しか言わなかったから、相当疲れてたんでない?」
「え、声掛けたの?覚えてないんだけど。てか瑠璃に起こされたんだけど」
「ずっと起きないって心配してたから、声掛けてきてって言ったんさ」
「強烈な起こし方だったよ。ほんとに心配してたのかあれ?」
「してたって。……ご飯できてるけど食べる?」
「ああ、うん。頼むわ。」
どうやら陽太が気を利かせてくれたらしい。感謝感謝。
それにしても、母さんと普通に会話できるな。見た目もそうだけど雰囲気もそのままだからかな?あんま緊張しねえや。
前の世界だともうちょっとマシンガントークだった気がするけど、落ち着いてる時の母さんって感じするわ。
赤茶髪に赤いメガネ、三角頭巾にエプロン。俺の知ってる母さんよりだいぶ若いし痩せてるな。昔こんなだったかも。
◇◆◇
朝食はご飯と味噌汁、サラダに目玉焼き。
中々に馴染みある味だ。落ち着く。
妹にしろ母さんにしろ、どちらとも元の世界の見た目にかなり近い。
起きたら過去の世界でした、と言われても信じるレベルだ。
妹は見た目だけそっくり、母さんは性格も近い感じがした。雰囲気というか空気感が似てる。
もしかして、母さんもこの世界に来たとか?全然その可能性もあるレベルだ。試しに聞いてみるか。
「昨日、理科の授業あってさ。」
「ほんほん。」
「全然授業とは関係ないけど、先生が花言葉の話始めてさ。」
「脱線の方がおもろいよねー」
「んでさ、『鈴蘭の花言葉』って知ってる?」
「いやしらん。」
「……再び幸福が訪れるって意味があるらしいよ。」
「ふぇ、そうなん。鈴蘭白くて綺麗だよねー」
うん、どうやら俺の知ってる母さんでは無いか。
母さんなら読んだことあるし、何かしら言ってくるはずだもんな。
ああ、そうか。納得した。2人の共通点。どこを見ても見当たらない父親の姿。
妹は1話しか読んでない。母さんは外伝除いて続編まで読んでる。
それが見た目や性格に影響与えたのか。
父親には小説描いてることすら話してないからな。現れないのはそういうことか。
読んだことある人はこの世界にも影響を与えるって訳か。
流れてくるような思考。まるで作者が俺なら、そういう設定にすると言わんばかりだ。
作者だからそこら辺は、分かってしまうのかもしれない。
朝食を終えると、俺はシャワーに入った。
改めて自分の容姿を確認してみる。
細身の体、長い前髪、赤茶色の髪の毛。
幼い見た目に幼い体がそこにはあった。
どうやら、全くの別人だ。
◇◆◇
シャワーを終えて昼食。
母さんはとんでもないものを持ってきた。
「はい、ぺぺロンチーノ!元気そうだから食えるっしょ?」
「ぬあっ!?」
俺はあまりの衝撃に大声で驚愕してみせる。
俺の大好きなパスタではないか!!
食欲を誘うニンニクの香り、絡み合う麺とぺーコンとほうれん草。
シンプルだが、絶対にうまいと理解出来る。
「た、食べていいの!?」
「え?食べないなら母さん食べるけど。」
「いやいや!!!食うに決まってる!!」
だが、ほんとに食べれるのだろうか。
あまりにもパスタは大好きだ。だが、食べすぎて太るわ、アレルギーになるわ、痩せるわ、で大変だった食べ物だ。
俺からしたらエデンのリンゴだ。リンゴもアレルギーだけど。
もしかしたら、いけるのか。この体ならもしかしたら、いけてしまうのではないか!?
考えてもみなかった。こんな転生特典があるなんて。
チートだ!チートではないか!!!
オレはパスタが大好きなんだ!!!!ペンネームにしちゃうぐらい大好きなんだ!!!
その後、三杯もおかわりをしたことは言うまでもないだろう。
美味しかった。グルテン。最高かよ。なんちゃってパスタとは何もかもが違ったよ。うますぎる!!!
転生して大変だったけど、これだけは最高かもな。最高のご褒美だ。
妹や母さんとも上手くやっていけそうだし。
もう少しだけ頑張れそうだ。
もしかしたら、この世界の親友にも出会えるかもしれないしな。
専門の時から俺の小説を読んでくれてるあいつに。
出会うのはかなり先になりそうだけど。
色々希望が見えてきたよ。
でもどうやら、食いすぎたようです。お腹破裂する。消化せねば。
「く、食いすぎたからちょっと歩いてくる。」
俺はお腹を擦りながら、近くにあるという公園目指して散歩することにした。
「だから言ったのに。食いすぎだって。」
母さんに呆れた顔で言われたが、仕方あるまい。
何億年ぶりのパスタだと思っているのか。あるだけ食べるに決まってるだろう。
俺はそのまま外に出ると、重たい足取りで歩き始めた。
◇◆◇
歩き始めて数分。近くの大きな公園が見えてくる。
歩いてわかったことだが、目印となるような箇所は前にいた世界と似ているところが多い。
交番や郵便局、スーパー、川に公園。ということはお寺や神社も近くにあるのかもな。
重要拠点のひとつ琴上神社も見つけれるかもしれない。
もう一人の主人公ジンの家だ。
そんなことを考えていると、鈴の音が頭に響く。
シャリン、シャリンと揺れるようにゆっくりと、こちらに近づくように。
かたっ、かたっ、と独得な音も近づいてくる。
どれも聞きなれない音。
それでも俺はたぶんこの音の正体を知っている。
「お主、ワシが見えておるな」
刹那、背後から聞こえていた音は途絶え、目の前に少女が現れる。
黒髪おかっぱに赤い着物。腰から下げた鈴に下駄。
風変わりな色白の少女は怪しくこちらを見つめる。
どこから現れた、というのは無駄な思考だ。
きっと、そこにいてそこに居ない。
「……座敷童子」
俺は意図せずその名を口にする。動揺し、慌てて口を手で塞ぐ。もう遅いのはわかっているが、言うつもりはなかったんだ。正直、かなり動揺している。
『座敷童子』。鈴蘭の家に住み着くようになった妖怪。長い年月を生きたことで幅広い知識と洞察力を持っている。人間や霊能者の事情に詳しい。これまでに鈴蘭の先祖『ユリノ』、ジンの祖父『シノブ』に仕えてきている。厄介すぎるほど重要人物だ。関わりたくないランキング上位だ。
てか、なんで俺に見えてるんだよ。普通妖怪って見えないだろ。俺はただの一般人!モブですよ!作者、設定ミスったか?
いい加減、現実を受け入れよう。どうやら、俺にも妖怪が見えてしまったらしい。何故だか見えてしまったから、驚いてしまったのだろう。名前当ててしまった。最大のヤラカシである。言い逃れはできない状況だ。そもそもこいつに言い逃れなんて難しい話だが。
一瞬驚いたというな、あからさまな演技の後、何もかもを見透かしているように口を開き始める。
「……おや、ワシを知っとるのか?なら、話が早い。琴上まで案内してくれ。結界が幾重にもあって中々たどりつけん。」
「大きな神社だよね。見たことあるけど、行ったことなくてさ。他の人に頼めるかな。」
「おや、しらばっくれる気か。神獣。」
「……神獣?」
「おや、外したか。あやつらに匂いが近かったのだが。……まあ良い。そういうことにしておこうか。」
「何の話かな。さっきから。」
隠し通せないとしても、表立って話すつもりは無い。どこまでバレているのか、オレがどういう状態なのか知らないが、とぼけさせてもらうよ。絶対めんどくさい事になるから。
「ふっ、まあいいか。助言だ。霊力は隠せてるよ。ただ、匂いが隠せてない。少なくとも『草薙剣』は抜けるだろう。気をつけな、隠したいなら、ね。」
少女は目を細くして不気味に笑うと姿を消す。
「俺に……霊力か……見えちゃったなあ、妖怪」
俺は頭とお腹を抱えて帰宅した。
どうやらパスタ食べれる!よっしゃあ!と喜んでいる場合ではないらしい。
ちょっとこの世界いいかもなって思ったんだけどな。これだよ。
ふざけんなよ!作者!!!出てこいや!!!
はい、俺でーす。
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