4章7話 茅野創助は切り札である
八岐大蛇をその身に纏うカイ。
オロチの姿は次第に槍の姿へと変質する。
「行くぞ、オロチ。お前の力見せてもらうぜ。」
「俺も戦う。この体でどこまでやれるか、分かんねえけど。」
カイの横に並び立つジン。姿は銀色の狐である。
「素晴らしいねえ。八岐大蛇を継承した者となり損ないの九尾。九尾となり損ないの霊能者。三大妖怪のうち、二角が争うわけか。……見物させてもらうよ。ジン、カイ。私のお友達。」
九尾と義。ジンとカイ。
両者が対立し、霊力の壁が形成させる。
遠ざかる天邪鬼。地面に胡座をかき、鈴蘭の声で笑う。
───────今、戦いが始まる。
「面白い。どちらが妖怪を統べるか決めようでは無いか!蛇!!!」
「言ってろ!年増狐!!!」
槍を構えたカイはブンブンと音を立てながら、槍を回転させ間合いを図る。
九尾は微笑むと、火球を形成し投げつけていく。
カイは火球を弾くように槍を振り回し近づいていくが、近づいたタイミグで九尾の尻尾が伸び襲ってくる。
「じゃあ、俺は孫の相手をすればいいのかな。つまらないお遊びになりそうだ。」
「いつまでも、バカにしてんじゃねえぞ。俺に妖怪の力与えたこと、後悔させてやる。」
「ほほう?さっきまで泣きべそかいてたやつのセリフとは思えんなあ!!」
「好きに言ってろ!!!」
一直線に走り抜けるジン。刀の代わりに鋭く伸びた爪で攻撃を仕掛ける。
義は爪の斬撃を低い姿勢で交わすと、ジンの腹部に強烈な一撃を叩き込む。
「ぐふっ!?」
「腹がガラ空きだぞ?なでなでしてやろうか?」
「じゃ好きに撫でてくれよ!オレのシッポをな!!!」
ジンは踏みとどまると、シッポを伸ばし九本のシッポを巧みに操る。
簡単に全て避けられてしまうが、回転しシッポで追撃していく。
「やはりお遊び程度だな。」
「なにっ!?」
義はジンのシッポを一本ずつ押さえていくと、全てのシッポを結んでいく。
身動きが取れなくなったところで、シッポを掴んだまま回転する義。
ジンはそのまま壁際まで吹き飛ばされる。
「おわっ!?あああああっ!!!」
「ぐっ……なんじゃ、体が動かん……!!」
攻防を続けていた九尾とカイであったが、突如膝をつく九尾。
「何をしたのじゃ……!!」
「知らないのも無理はない。この槍は神と人と関わったことで生まれた槍だ。八岐大蛇が新たに身につけた力だからな。」
「新たな……力……じゃと!?」
「……その昔、スサノオ神は人を食い荒らす大蛇を討ち果たしたという。その時、高貴なる血筋には名誉ある『草薙剣』の形代を、妖を葬る家系には邪を滅ぼす『妖魔剣』を与えたという。……そして八岐大蛇をひとつの槍に封じ込めたという。……これがその槍。『草薙の太刀』。見たものを呪う神槍だ。つまり、本物の『草薙剣』ということだ。」
「ぐっ……そんな馬鹿な!!!ぐはっ!?」
痛みに耐えながら言葉を口にする九尾。
だが、吐血しもはや戦えなくなっていた。
「九尾!!!!」
急いで駆け寄る義。
「よそ見してんじゃねえ!!!!」
渾身の一撃を放つジン。
「ぐあああああっ!?」
ジンの蹴りが直撃した義は九尾と共に地面に転がる。
「はあ……はあ、はあ。」
肩で呼吸をするジン。
戦いの中で力の使い方を学習したのか、ようやく人間の姿にもどる。
「やった……のか?」
「ふたりとも無理やり天邪鬼に動かされていたんだ。暫くは動けないだろうよ。んで、こいつらどうすんだ。お前に任せるぞ。」
息一つ乱れていないカイは、ジンに二人のことを任せる。
ジンは複雑な表情をしながらも、瀕死な二人を見つめる。
「聞きたいことが……沢山ある。……だから、なんもしない。傷治せよ。三大妖怪と元当主がこんなんでくたばるのかよ?」
「言ってくれるのう。」
「しばらくすれば、回復するだろうな。だがそれでいいのか?」
「わかんないから、聞く。そんでもって、自分で考えてみる。」
「少しはまともな答えを出せるようになったな。」
「……お陰様でな。」
「じゃあまとまったなら、アイツをどうするかだ。」
目を瞑り話を聞いていたカイ。
ジンのことには何も触れず、目の前の天邪鬼に向き直る。
「さすがに強いね。『癒しと守りの八岐大蛇』は。『攻撃と魅惑の九尾』をこうもあっさり倒すとは。しかも、僕がかけた呪いまで解いてみせるとは。中々良い器を手に入れたようだね。」
「俺だけの力じゃない。元々、九尾はそこまで悪いやつじゃないさ。俺が見た八岐大蛇の記憶ではな。どっちかと言うと、人間の方が悪いよ。」
「それに関しては同感だね。では提案だ。九尾はもう使えないとして、君が代わりに人間を滅ぼしてくれよ。」
刹那。カイの背後に現れる天邪鬼。
「なっ……!?」
「カイ!!後ろだ!!!!」
振り返る隙もなく、カイの中に悪意が溢れ出す。
「ぐっ!?ぐっあああああ!!!」
「カイ!!!!」
「おのれ、災厄の鬼め。我ら妖怪で遊んでおるわ」
「あんな奴に何年間も利用されていたとはな。」
改めて現状を理解する九尾達。
手を差し伸べるジン。
カイは闇の瘴気から、自力で脱出する。
「へえ……。面白いね。君は。」
「カイ!大丈夫なのか!?」
「ああ。平気だぜ。俺自身はなんも変わってねえよ。」
「そっか!よかった!!さすがカイだぜ!!!」
「……だからさ。ジン。」
「ん?」
「ジン!!避けるのじゃ!!!」
「……え。」
「俺のために死んでくれよ!!!」
刹那。カイの瞳は赤く染まる。
ジンの腹部は草薙の太刀で貫かれていた。
「カイ……なんで……?」
「カイ……?誰と勘違いしているのですか。……私はウミ。あの時も殺して差し上げたでしょう。憎き琴上。」
「お前は……誰だ……カイを返せ…」
ジンはそのまま倒れると、血を流しながら意識を失う。
「貴様ぁああああああああ!!」
刹那。炎のように燃え上がる九尾の霊力。
辺り一面を火の海に変え、霊力を溢れさせていく。
「へえ、ここに来て覚醒か。何百年も生きてみるもんだね。まだ進化するんだ。九尾。」
楽しそうに微笑む天邪鬼。ぴょんぴょんと跳ねるように、後退しまた見物を始める。
全身に炎を纏い、燃え盛る九尾。
もはや炎そのものとなっている。
「我が宝を汚すか!!!!痴れ者が……万死に値する!!!!」
「貴方がそれを言いますか。人を愛し、愛されただけであるのに、妖と言うだけで命を落とした神獣よ。その身を汚してまで手に入れた妖と言う体で、子を孕み産み育てようとしただけで、琴上に攻撃されたのでは?憎くて仕方ないのではないですか?」
「貴様とは話にならぬ。貴様とて、我が子であろう?」
「なればこそでしょう。己の血が罪を犯すなら、滅ぼすまで。」
「悪鬼羅刹と成り果てるか!!小娘!!!」
「たかが、鬼ごときに心を惑わせれた貴方には言われたくありません!!!」
九尾とは対称的に静かな水の力を解放するウミ。
衝突する炎と水。
流水と業火は互いを打ち消し合い、傷つけ合いながら消耗を続ける。
「ハハハハハッ!いいよ!いいよ!そのまま全て滅ぼしちゃえ!!!」
楽しそうに笑い続ける天邪鬼。
その刹那。
「・・・・・・均衡の天秤は今降りた。事象は確定せず均衡を保て。我が肉体を捧げん。」
一人の桃色髪少女が炎と水の前に現れる。
一言静かにつぶやくと、光が少女の全身を包み込む。
少女の姿は、神々しくも儚い姿へと変わった。
全身を着物で包み込み、背中には黒い翼、履物は下駄と現代にはそぐわない。
そして何よりもその黒き翼が、人間らしからぬ姿を一層増してみせている。
少女は右手から術式を展開する。
葉型の団扇を作り出し、自らの顔の前に翳す。
妖艶な瞳で九尾とウミを見据える。
その力の圧なのか、周囲の雰囲気は凍りつき両者の力は簡単に消失し倒れる。
「あれだけの力を扇子の一振で止めた……!?」
どうすることも出来ず、呆然としていた義が口を開く。
少女はウミを起き上がらせると、頬を打つ。
突然の痛みに、意識を覚醒させるウミ。
「何者ですか……貴方……ぐっ!?何故か……意識が書き換わっていく……!?」
少女を視界に捉えた刹那、ウミの意識は消えていきカイの人格が戻ってくる。
「モモコ……?お前なんでここに?」
「鈴蘭を助けるために決まってんじゃん。アンタこそ、なにやってんの?前世の自分に引っ張られて親友刺してますけど?」
「そ、そうだ!!!ジン!!!回復させなきゃ!!!」
「俺が手当した。直に起きる。」
ため息をつくように話す義。九尾に近寄り、回復術式を展開する。
ジンの傷も回復していた。
「それよりも、外色々面倒なことになってるから。そこの鈴蘭は早く目を覚ましなさいよ!」
「面倒なこと……?」
意識が回復したジンは立ち上がると、モモコとカイの横に並び立つ。
「天邪鬼を殺したい百合野一族と、妖を隠して育てたことを追求してきた霊能協会、それから、それを隠蔽したい琴上家のご老人たち。
それと突然世界に溢れ出した邪悪な妖怪たち。
ま、言ったらキリないけどね。
鈴蘭やジンくんのお父さんとかお母さんとか、そのほかの霊能者とか、みーんなごった返しながら戦ってるのよ。
アタシは鈴蘭を止めるために、ここまで来た。あんた達もそうなんでしょ。難しいこと抜きにしてやるわよ。」
「九尾に、八岐大蛇、天狗。揃いも揃って、僕の力から抜け出すとはね。闇の中にいたジンも答えを見出しつつあるか。カイも前世から解放されて……困ったものだ。」
「だがどうする?厄災の鬼なんだろ?めっちゃ強そうなんだけど。俺らで勝てんの?」
「無理じゃろうな。そこの天狗はまだ戦えるじゃろうが、我と義、ジンは肉体的には回復したが、霊力は底をついておる。期待できるのはオロチの力じゃが、お主も限界が近いと見える。」
「悪いな……実戦ての、初で。結構もうしんどいわ。」
「はあ!?しっかりしてよ!ここまで来て戦えるのあたしだけ!?」
「アッハハハハハ!!!どうやら、呆気ない幕切れのようだね。僕に殺されるために集まったのかな。君たちは!!!」
『そいつはどうかな!!!!』
刹那。白い空間を切り裂くように、一人の少年と一人の妖怪が現れる。
「「「創助!!!!!」」」
三人は声を合わせて、現れた少年の名前を呼ぶ。
「おう!待たせたな!みんな!!!俺も戦うぜ!それから、最高の助っ人連れてきたぜ!」
創助に連れてこられた妖怪は、ジンたちの方へ振り返る。
「おま、おまえ!!あの時の座敷童子!!!」
「お主ら、ワシを置いて最終決戦など笑わせてくれる。鈴蘭の友達第一号はワシじゃろ。」
そう、創助が連れてきたのは、座敷童子。
おかっぱな頭に、美しい着物。下駄と身につけた蹴鞠。
絵に書いたような座敷童子である。
彼女は鈴蘭が初めて仲良くなった妖怪である。
「彼奴本当に人間か?複数の妖怪の匂いがするのじゃが……」
創助を見て驚く九尾。
どうやら、創助が契約している複数の妖怪を感じ取ったらしい。
今の創助は3人と融合している状態。普段よりも、妖の匂いが強くなっているだろう。
「ああ、俺石の妖怪と、雪娘と、雲外鏡と契約してるからな!あと俺自身も妖怪な!」
「「「「「はあああああっ!?」」」」」
その場にいた全員が驚愕する。
「ヒーローは遅れてやってくるってな!勝負だ!天邪鬼!鈴蘭を返してもらうぜ!」




