3章5話 作者、夏休みを満喫する
廃墟での一件後、目の前には俺と契約した練と雪娘がいた。
ついに妖怪と契約したんだな、の余韻も一瞬で知らぬ間に雪娘とも契約していた。
混乱する俺に練は、解説を始めた。
「創助、お前さん、意識失う寸前に雪娘をどうするか考えたんだよ。殺すか生かすかってな。」
「ん、うーむ。言われてみれば、そんな気がする。」
「んで俺様と同調してたからその意識は俺様にも流れてきたわけ。」
「ほうほう。それで?」
「とりあえず、契約しといた!」
「おめえかよ!原因!!!」
本当に余計なことするな!こいつ!
「でへへ!すまんな!」
詫びてはいるが、誠意はまるで伝わらないな。
そんなことを考えていると、部屋の扉が開け放たれる。
そういえば、今更ながらここはどこだろうか。
落ち着いたシックの部屋。デスクとチェア、本棚に俺が寝かされているベッド。
ダメだ。全然思い出せない。
「おはよ。起きたね。」
ひとまず開け放たれた扉を見やると、月花がスウェットにパーカーを合わせたラフな格好で出てくる。
「あ、え?月花さん……?ここは……?」
「安心して、私の家よ。怪我もそこの雪娘が癒してくれたわ。あなたも私もね。」
話しながら注いできた水を手渡される。
グイッと飲み干すと、生き返るような感覚に襲われる。
お礼を言おうとしたタイミングで、月花に頭をぐしゃぐしゃに撫で回される。
「ありがとね。助けてくれて。……本当は私が守らないといけなかったのに。迷惑をかけたわ。……それにこの世界にあなたを連れてきてしまった。本当にごめんなさい。」
深く頭を下げて謝罪してくる月花。
俺は慌てて立ち上がる。
「や、やめてください!!!自分で決めたことですから!」
「そう……そう言ってくれると助かるわ。」
申し訳なさそうにする月花に対して、雪娘が言いづらそうに手を上げる。
「あの……私が言うのもあれですけど。ずっと私いたんで。主は練と契約するしかあの場は乗り切れませんでしたよ。」
「おうおう。そいつが本題だったな!お前さんは何者で、何が目的だったんだ?創助はそれを知りたかったみたいだぜ。ついでに言うなら、なんで契約に応じてくれた?」
雪娘の返しに対して、俺が疑問に思っていたことを口にしてくれる練。
本当に意識が同調していたんだな。
俺が聞きたいこと、思いそうなことが詰め込まれてる。
「なぜ契約したのかは、簡単です。主。あなたの絶大な力を見て確信しました。九尾様を助けて欲しいのです。」
えええええええっ!?九尾!?
いや、そうだけど!!雪娘は九尾に仕えてたけど!!!
俺は内心かなり混乱しつつも、冷静に話を進める。
「お前は九尾の手下かなにかなのか?」
「はい。あそこにいたのは、とある方をおびき出すため。そのために、霊能者を手当り次第攻撃していました。月花さんのように強い力を持つものが現れたのなら、よき餌になると思っていたのです。」
「なるほどね。霊能教会に情報を掴ませて、その人を捕まえるのが目的か。」
「ってことは、そのお方ってのは霊能者なんだな?」
「はい。あなた方もよく知っているお方です。」
俺は知っているからそこまで緊張感は無いが、月花も練も固唾を飲み込む。
「九尾様の孫……『琴上人』様です。」
「「「九尾の孫!?」」」
まあ、原作通りの思惑だな。
俺は納得しつつ、一応月花達に合わせて驚いた振りをした。
「あのクソジジイめ……全部知ってやがったな……鈴蘭もカイナも放っておいて、何処まで子供たちを巻き込むつもりなのよ!」
何が合点がいったのだろうか。歯を食いしぱりながら、月花から暴言が止まらない。
恐らく琴上仁に対して、苛立っているのだろう。本来は鈴蘭の祖父で現在はジンの祖父ということになっている琴上家当主の男だ。
仁の弟、義は琴上家のやり方に反発。自らの身を妖怪に落とし、九尾と結ばれた男だ。
後に登場する天邪鬼に悪意を増幅され、人間への悪意を強め、琴上家を火の海に変えた。
残された一族と仁は九尾と義に怒りを向け、九尾の息子であり自分の甥である恭を霊能者として育て上げ甥孫であるジンも霊能者として育て上げた。
自分の娘や孫を放置してまで、復讐に人生を捧げた男だ。
月花と陽太はずっと力に怯え続けるカイナと記憶を失った詩歌を、百合野家から守り続けたという過去がある。
さぞかし仁に思うことがあるのだろう。
「……えっと、わかりそうでわからないんだけど。なんで急に助けを俺に求めるの?ジンを捕まえることが目的なんだよね。」
「私はあなた達との戦闘中に、ものの数秒で魂を浄化されました。私はどうやら知らないうちに悪意を増幅されていたようなのです。……おそらく九尾様も同じだと思うのです。」
「まあ、もうこの世界に足を踏み入れちゃったし、できることはしようと思うよ。ただ、まだ力を使うようになったばかりなんだ。君のこともあまり知らない。信用しきれないのは許して欲しい。」
きっと雪娘の言っている話は本当だ。おそらく天邪鬼の仕業だろう。
だが、信用しきれていないのも、この力について慎重になりたいのも本音だ。
ゆっくりやっていこう。
それに大きな不安があることも事実だ。
どうせ、雪娘が失敗したことはすぐに奴らにはバレる。いずれ対峙することにはなるだろう。
その時までに信頼と力を得ることがひとつの目標だと思う。
「……そう……ですよね。」
俺の言葉に分かりやすく落ち込む雪娘。
彼女ともゆっくり仲を深めていくべきだ。もう何年も操られていて焦る気持ちもわかるが、ゆっくり準備して動きたい。
なにせ、相手は九尾。三大妖怪の一角だ。
死を感じた猫又、視界に収めることすら出来なかった雪娘。
そんなの簡単に超えてくるのが三大妖怪だ。
だからこそ、俺はしっかり準備を進めるのだ。
「だからさ。まず名前つけるよ。そこから始めない?」
「はい!」
ひとまず、雪娘に名前を付けるところから。
大きく道を踏み出したのだから。
◆◇◆
あれから早いもので夏休みも終わりを迎える。
約束していた通り、汐音や海、ジン、鈴蘭、桃子、そして引率の陽太と川でバーベキューを行っていた。
本当にこの世界に来てから色んなことがあった。
迷ったし、困ったし。
実際まだどうしていいかわからない。
当たり前のように鈴蘭たちの輪に入り、遊ぶ練と柊。
ちなみに柊は雪娘に与えた名前だ。
二人とも普通に馴染んでるのが怖い。これが妖パワーですか。
もちろん妖怪であることはバレていない。とんでもない2人を仲間にしてしまったようだ。
何より異質なのは夏休みを満喫する鈴蘭たちの姿。
俺は夏休みを満喫する鈴蘭たちなんて知らない。
彼らはこの時にはもう多くの事実を知り、己と向き合い夏休み明け早々にお互いを傷つけあう。
紛れもなく俺がこの世界の運命を変えたのだろう。
当然だ。
ジンと鈴蘭か正体を知る鍵となる柊が、俺によって浄化されているのだから。
廃墟での事件も解決している。
月花も普通に過ごしている。
ここまで書き換えたのなら、運命が変わるのも無理はない。
本当にこれでよかったのだろうか。
いや良かったと思うしかない。
もう歴史は大きく変わってしまったのだから。
俺はもう後戻り出来ない。
責任を取って物語に関わっていく他ないだろう。
しばらく思考を巡らせる俺。見かねた汐音がこちらにかけてくる。
「もお!また、そーやって難しい顔して!ほら、お肉焼けたよ!」
明るい笑顔を振りまき俺の手を取る汐音。
焼けた肌とワンピースがよく似合っている。
弾けるような笑顔は心が洗われるようで、心地よい。
汐音に手を引かれたどり着くと、職人のような手つきで肉と野菜を焼いている海がいた。
「ひあああっ!てぇいやあああ!!!」
その掛け声は必要なのか?とは思ったが言わないでおこう。
横を見るとお肉を頬ぱる鈴蘭と桃子。
「むしゃむしゃむしゃ」
「むしゃむしゃむしゃ」
クラス二代美女もお肉の誘惑には勝てないようだ。
うさぎさんのようにたくさんお肉を口に詰め込んでいる。
さらに遠くの方を見ると、走り回るジンと練。イメージ通り二人とも超絶元気だ。
見る度に違う勝負をしている。
「肉焼けたぞ!ジン!練!」
「「あーい!」」
柊はパラソルの下でサングラスと水着で華麗に過ごしている。
「わたし日光って苦手なんですよね。なんででしょう?」
ツッコミ待ちなのかなあの方は。無視するとして。
陽太はずっと釣り糸垂らしてボケっとしている。
難しく考えているのがバカのように思えてくる。
まあ、なるようにしかならないだろう。
ひとまず俺も肉を頬張ることにした。
楽しい夏休み。
すこし変わってしまった日常だけど、今は程よく幸せなのかもしれない。
不安なことも分からないことも沢山ある。
それでまあ、最悪であり、最高なんじゃないかと言い聞かせて、この夏休みを思い出を忘れないように満喫した。
「良かった!やっと笑ったね!創助!!」
「ああ!」
これでいいんだよな……。
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