第51話 農夫の晩餐と、静かな夜の準備
市場からの帰り道、三人の影が長く地面に伸びる。
家に辿り着くと、アルノはすぐに上着を脱ぎ、慣れた手つきで台所へ立った。明日のギルド行きを控え、今夜は手早く、それでいて滋養のつくものを作ろうと決めていた。
まずは、保存しておいた自家製のハムを取り出し、丁寧に厚切りにしていく。
次に、先ほど畑から収穫したばかりの瑞々しい野菜を、沸騰した湯にさっと潜らせた。
「よし……」
軽く焼いたパンの上に、湯通しして甘みの増した野菜を敷き詰め、その上に先ほどのハムを贅沢に乗せる。
具沢山のサンドイッチが、次々と出来上がっていった。
メインディッシュは、アルノが得意とする「包み焼き」だ。
アルミホイルを広げ、その上に新鮮な肉と、香りの強い香草をたっぷりと置く。
仕上げに、この世界では貴重な調味料である「醤油」をひと回し。
「アルノ、いい匂いがしてきたよ!」
エトリエルが覗き込むのを手で制しながら、アルノはホイルの端をきっちりと閉じた。
熱したフライパンにそれを乗せ、蓋をして蒸し焼きにする。
傍らでは、竈で炊いている米が、パチパチと美味しそうな音を立てていた。
さらに、仕上げとして生姜をたっぷりと使い、少し甘みを加えた「ジンジャー汁」を作り上げる。冷えた体を芯から温める、アルノ特製の健康飲料だ。
「さあ、出来たぞ。冷めないうちに食え」
「「「いただきまーす!」」」
ホイルを開けた瞬間、醤油と香草の混ざり合った、たまらない香りが部屋いっぱいに広がった。
「これ、お肉がすごく柔らかい! 醤油の香ばしさが最高だよ!」
「サンドイッチの野菜もシャキシャキしていて、美味しいわ。ジンジャー汁が体に染み渡るわね……」
ルファスとエトリエルが幸せそうに頬張る姿を見ながら、アルノも自分の分のサンドイッチを口にする。
自分で育てた野菜と、手間をかけた料理。これこそが、かつて戦場にいた頃には想像もできなかった贅沢な時間だった。
食後の賑やかな時間がひと段落すると、アルノは一人、風呂場へと向かった。
「さて、明日に備えてしっかり温まっておくか」
裏手に回り、積み上げられた薪の中から、火持ちの良いものを選んで抱え上げる。
焚き口に薪をくべ、火を熾す。
パチッ、パチッとはぜる火を見つめながら、アルノはふと明日のことを考えた。
(ボリスの「急ぎの用」……。まあ、何が来ても驚かんが、あまり面倒なことじゃなきゃいいんだがな)
揺らめく炎が、アルノの顔を赤く照らす。
外では夜風が木々を揺らし、家の中からは居候たちの笑い声が聞こえてくる。
薪をもう一本くべると、お湯が沸く心地よい音が響き始めた。




