表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元竜騎の俺は郊外に住んでいたが王国騎士団長は俺をどうやら冒険者にしたいらしい  作者: みなと劉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/55

第48話 深夜の攻防戦!? アルノ、煩悩に打ち勝て

深夜。

 静まり返ったアルノの自宅に、窓から差し込む月光が青白く部屋を照らし出していた。

 だが、その静寂とは裏腹に、アルノの心の中は暴風雨が吹き荒れる戦場と化していた。

 「……う、うう……」

 あまりの寝苦しさに、アルノは意識を浮上させた。

 体が重い。何かに拘束されているような圧迫感がある。

 意識がはっきりするにつれ、右腕に伝わる驚くほど柔らかく、そして熱い感触に心臓が跳ね上がった。

 「(うおおおぉ……た、確かに……柔らかい……!)」

 見れば、そこにはアルノの右腕を抱き枕のようにギュッと抱きしめて眠るユーミの姿があった。

 あろうことか、その豊かな胸がアルノの腕に全力で押し当てられている。

 寝間着の薄い生地越しに伝わる体温と弾力。

 かつて死線を潜り抜けてきたアルノの冷静沈着な精神が、内側からメキメキと音を立てて崩れていく。

 「(いかんいかん! いくら先代から……ユーミを嫁として迎えて欲しいと言われたとはいえ……これは毒が強すぎるぞ!)」

 アルノは思い出す。

 ユーミの父であり、かつて拳を交え、後に友となった先代魔王「ボルケーノ」の言葉を。

 『アルノよ、娘を、ユーミを頼む。お前が婿入りして、次代の魔王になってくれれば、我ら魔族も安泰なのだ』

 あの大男の豪快な笑い声が、今のアルノには呪いのように響く。

 ユーミ本人はといえば、寝顔ですら「早く貰ってよ」と言わんばかりの愛らしさを振りまいている。

 だが、アルノは頑なだった。

 自分はただの引退した農夫であり、一国の王、ましてや魔王になるなど、到底受け入れられることではない。

 「(……んん? こっちもか!?)」

 左腕に視線をやれば、そこにはエトリエルがいた。

 こちらもアルノの左腕をガッチリとホールドし、スヤスヤと安らかな寝息を立てている。

 「(こっちもこっちで、すごくいい匂いがする……いっかーん! 何を考えているんだ俺は! 相手は男だぞ……いや、魔族の性別なんて曖昧なものだと聞いた気もするが、とにかくダメだ!)」

 さらに、足元に違和感を感じて視線を落とすと、そこにはルファスが丸まって眠っていた。

 「(なんでお前はそっちにいるんだ!? そもそもお前ら、自分の部屋があるだろうが! 俺が寝返りを打って蹴っ飛ばしたりしたらどうするんだよ!)」

 右に魔王、左に魔族、足元に精霊。

 まさに文字通りの「包囲網」である。

 アルノの理性は、今や風前の灯火だった。

 煩悩という名の魔物が、彼の耳元で「いいじゃないか、このまま受け入れてしまえよ」と甘く囁きかける。

 「(……だ、ダメだ。俺は、俺は……!)」

 極限の緊張感と、押し寄せる快楽に近い感覚。

 その時、アルノを救った(あるいは追い詰めた)のは、皮肉にも生理的な欲求だった。

 「(……トイレに行きたい)」

 このままでは別の意味で大惨事になる。

 アルノは全集中を注ぎ、外科手術のような精密さで、ユーミとエトリエルの拘束を「ゆるゆる」と解き始めた。

 数分という名の永遠の時間をかけ、なんとか隙間から這い出すことに成功した彼は、逃げるようにトイレへと向かった。

 「はあ……。はあ……」

 冷たい水で顔を洗い、鏡に映る自分の情けない顔を見つめる。

 「(これから本当に、俺の人生は大丈夫なのか……? スローライフって、もっとこう……静かで、土と向き合うだけのものじゃなかったのか?)」

 トイレの小窓から見える夜空は、どこまでも澄み渡っていた。

 だが、アルノの行く先には、この三人の「欲望」という名の、分厚い暗雲が立ち込めているのを、彼は痛いほどに感じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ