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元竜騎の俺は郊外に住んでいたが王国騎士団長は俺をどうやら冒険者にしたいらしい  作者: みなと劉


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第46話 王都帰還と、玉座の主の正体

翌朝、朝露に濡れる森の中で、手当を受けた羚羊カモシカは力強く立ち上がった。

 ユーミが巻いた包帯はしっかりと脚を保護しており、羚羊は一度だけ振り返ってアルノたちに深く頭を下げると、森の奥へと軽やかに消えていった。

 「よし、あの子も大丈夫そうね。さあ、行きましょうか、アルノ!」

 ユーミは満足げに微笑み、再びアルノの腕に抱きついた。

 アルノ、エトリエル、ルファス、そして魔王ユーミ。

 一行は陽光を浴びながら、王都へと続く最後の道のりを歩み始めた。

 昼を少し回った頃、一行は活気あふれる王都の巨大な正門へと辿り着いた。

 門を固める騎士たちは、アルノの背後に立つ、深くフードを被った小柄な影を一目見るなり、その場の空気を凍らせた。

 アルノが「気にするな」と目で合図を送るが、騎士たちは言葉を発することなく、吸い込まれるような鋭い動作で一斉に直立不動の敬礼を送る。

 その光景は、一介の冒険者が連れている連れに対するものとしてはあまりに過剰で、王都の主に対する絶対的な忠誠心に満ちていた。

 一行はそのまま街を抜け、ギルド「黄金の盾亭」の重厚な扉を開けた。

 カランカラン、と乾いたベルの音が響く。

 中では昼食を終えた冒険者たちが騒いでいたが、アルノの姿を見るなり、一瞬だけ静まり返った。

 「おっ、アルノ! 薬草の依頼、無事に終わったか?」

 カウンターの奥から、ギルドマスターのボリスが身を乗り出す。

 だが、彼の視線はすぐにアルノの背後に立つ影に釘付けになった。

 「……アルノ。薬草の他に、何かとんでもねえ『落とし物』を拾ってきたんじゃねえだろうな?」

 ボリスの冷や汗混じりの問いに、アルノは深く溜め息をつき、周囲に聞こえないような低い声で応じた。

 「……ああ、道中で『これ』に捕まった。ボリス、奥で話そう」

 ボリスは察したように、一行をギルドの奥にある特別室へと案内した。

 分厚い木の扉が閉まり、外部の喧騒が遮断されると、ユーミは「ふぅ、肩が凝っちゃった」と言いながらフードを脱ぎ捨てた。

 「久しぶりね、ボリス。元気そうじゃない」

 「ひ、姫様……! いや、陛下! 予告もなしにどちらへ行かれていたのですか! 騎士団の連中が血眼になって探しておりますぞ!」

 ボリスは椅子から転げ落ちんばかりに驚き、その場で膝を突いた。

 そう、この王都における最大の機密の一つ。

 それは、この国の王座に座っている「国王」の正体こそが、魔王ユーミその人であるということだ。

 かつて、この世界には悲しい誤解があった。

 「魔王は人類を滅ぼす存在である」という、遠く離れた他国が流布したデマ。そのデマに踊らされた「勇者」と称される者たちが、かつてこの地へ攻め込んできたことがあった。

 しかし、前魔王も、そして現在のユーミも、一貫して人間との共生を望んでいた。

 アルノたち「輪国」の騎士団と、当時の魔王軍は、剣を交える中で互いの真意を悟り、極秘裏に協定を結んだ。

 互いに協力し、豊かな国を築くこと。

 その象徴として、魔王がこの王都の王を兼任し、人間と魔族が手を取り合う体制が作られたのである。

 デマを流し、勝手に勇者を仕立て上げて争いを煽った他国は、その後、真実を知った輪国と魔王軍の連合軍によって攻め滅ぼされ、今や地図の上にも存在しない。

 当時「勇者」と呼ばれた者さえも、アルノやユーミと和解し、今では別の地で平和に暮らしているのだ。

 「ボリス、堅苦しい挨拶は抜きよ。私はアルノと一緒にいたいだけなんだから。あ、薬草はちゃんと届けておいてね」

 「は、はあ……。まあ、ユーミ姫……陛下がそうしたいとおっしゃるなら、私ごときが止める術はありませんが……。アルノ、お前、本当にとんでもない引率役を引き受けたな」

 ボリスが同情の視線を向けると、アルノは眉間を押さえて椅子に深く沈み込んだ。

 「全くだ。俺はただ、静かにスローライフを送りたかっただけなんだ。なのに、高位精霊に上位魔族、挙句の果てにはこの国の王様(魔王)まで我が家に転がり込もうとしてる。……俺の畑はどうなるんだ」

 「いいじゃない、アルノ! 畑仕事、私も手伝うわよ。魔王の魔力でナスを特大サイズにしてあげる!」

 「絶対にやるな! 普通のサイズでいいんだ、普通のサイズで!」

 魔王を連れての帰還。

 それは王都にとっては「主の帰還」であり、アルノにとっては「平穏な隠居生活の完全な崩壊」を意味していた。

 「……まあいい直に報告は済ませた。俺はこいつらを連れて、一度家に帰る」

 「ああ、わかった。……アルノ、くれぐれも陛下を怒らせるなよ? 国が吹っ飛ぶからな」

 「わかってるよ……」

 アルノは重い腰を上げ、賑やかすぎる一行を連れてギルドを後にした。

 王都の街並みは、今日も平和だ。

 その平和の頂点に立つ少女が、一人の農夫の腕を掴んで「今日の夕飯は何?」とはしゃいでいる。

 かつて戦火を共にした者たちが築いた、少し歪で、けれど最高に温かい「共生の形」。

 アルノは隣で笑うユーミを見つめ、溜め息を一つ吐くと、ほんの少しだけ口角を上げた。

 「……帰るぞ。家についても、騒ぐなよ?」

 「やったぁ! アルノのご飯だー!」

 銀等級の農夫と、三人の「人外」たち。

 彼らの奇妙な共同生活は、ここ王都から、新たな騒動の幕を開けようとしていた。

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