第42話 野営地の再会と、意外すぎる魔王
王都への帰り道、アルノは人生で最も過酷な行軍を強いられていた。
魔物との死闘でも、過酷な軍事訓練でもない。二日酔いという名の内なる敵が、一歩ごとに彼の脳を揺らし、胃を締め付ける。
「……くっ、ここまでだ。今日は……ここで野営にする……」
昨日と同じ野営地付近。どうにか辿り着いたものの、アルノの体力(というより精神力)は限界に達していた。
だが。
アルノはベッドに潜り込む前に、鋭い視線を街道沿いの茂みへと向けた。
(……気づいているな、二人とも)
エトリエルが静かに頷き、ルファスが風の防壁を薄く展開する。
リーディアの山嶺、そして帰り道。ずっと一定の距離を保ち、陽炎のように付きまとっていた「人影」が、ついにこの野営地の灯りに引き寄せられるように姿を現した。
「そこまでだ。……姿を見せろ。これ以上隠れていても意味はないぞ」
アルノが低く威圧するような声を出す。二日酔いとはいえ、その気迫は「銀等級」のそれだ。
ガサリ、と茂みが大きく揺れた。
現れたのは、フードを深く被った小柄な影。しかし、そこから溢れ出す魔力は、この世界のどんな人間とも、そして隣にいる上位魔族のエトリエルとさえも一線を画す、圧倒的に純粋で巨大なものだった。
影がゆっくりとフードを外す。
月光の下で輝いたのは、夜の色を映したような美しい髪と、宝石のように澄んだ瞳。
「……もー! アルノの歩くのが遅いから、待ち伏せしちゃったじゃない!」
「「……えっ!?」」
エトリエルとルファスが同時に素っ頓狂な声を上げた。
アルノもまた、目を見開いたまま固まっている。
「ユ、ユーミちゃん……!? なんであんたがこんなところにいるんだよ!」
そこに立っていたのは、現・魔王にして、魔族と人間に「不干渉と共生」の理を強引に認めさせた張本人、ユーミ姫その人であった。
「だって、お触れを出してから平和になりすぎて退屈なんだもん。そしたら、エトリエルがアルノの家に転がり込んだって精霊の噂で聞いたから……。ズルい! 私もアルノの作った野菜食べたい! もふもふしたい!」
「……魔王様、公務はどうしたんですか?」
エトリエルが引きつった笑顔で問う。
「影武者に任せてきた! 完璧よ!」
ユーミは胸を張って言い放つと、ふらふらとアルノに近寄り、その服の裾をギュッと掴んだ。
「というわけで、私も仲間に入れて! アルノ、今夜のご飯は何?」
(……勘弁してくれ。精霊に上位魔族、その次は魔王かよ……)
アルノは再び頭を抱えた。二日酔いの頭痛に、別の種類の激痛が加わったのは言うまでもない。




