第41話 二日酔いと、容赦なき追及
ズキズキと、頭の中で鐘を乱れ打ちされているような痛みが響く。
アルノはリーディア村の集会所の板間で、這いずるようにして上体を起こした。
「……うぅ。水、水をくれ……」
「あ、アルノ、起きた? おはよう。はい、お水。ルファスが朝露から集めた特製だよ」
目の前に差し出されたコップをひったくるように受け取り、一気に飲み干す。喉を通り抜ける清涼な水が、少しだけ火照った脳を鎮めてくれた。ふと視線を上げると、そこには昨夜の深酒が嘘のように、ピカピカと輝くような笑顔のエトリエルと、涼しい顔で髪を整えているルファスがいた。
「お前ら……なんでそんなに元気なんだよ……」
「魔族は代謝がいいからね。お酒の毒なんてすぐに消えちゃうんだ」
「私は精霊ですもの。不純物は風と一緒に流してしまったわ」
(人外め……。こっちは人間なんだよ……)
アルノが再び頭を抱えて唸っていると、エトリエルがニヤニヤしながら顔を近づけてきた。
「ねえ、アルノ。昨夜のこと、覚えてる?」
その言葉に、アルノの背筋に冷たいものが走った。断片的に、だが確実に「やってはいけないこと」をした記憶が蘇る。
「……いや、全く覚えていないな。酒を飲んで、そのまま寝たはずだ」
「嘘だわ。あんなに熱心に語っていたじゃない」
ルファスが鏡を見ながら、追い打ちをかけるように告げる。
「『セルマのあーんなら受けて立つ』とか、『ラッドの尻尾で顔をうずめて窒息したい』とか……あと、私たちのことも『可愛い』って何度も言ってたわよ?」
「言ってない!! 断じて言ってない!!」
アルノは顔を真っ赤にして叫んだが、その勢いで頭痛が増し、再び「ぐはっ」と膝をつく。
「言ったよー。僕の髪を弄りながら『エトリエル、お前……実は女の子なんじゃないか? だったら俺、もう……』ってところで力尽きてたけど」
「………………。」
アルノは絶望した。銀等級の威厳、元竜騎士の誇り、そして何より守りたかった「硬派な農夫」という仮面が、リーディアの秘酒によって粉々に粉砕されていた。
「……帰るぞ。さっさと薬草を王都に届けて、この任務を終わらせる」
よろよろと立ち上がり、荷物をまとめるアルノ。その背中に向かって、二人の居候は「あ、また赤くなった!」「可愛いわね、アルノ」と楽しそうに囁き合っている。
リーディア村から王都への帰り道。
物理的な魔物の襲来よりも、二人の口から語られる「昨夜の自分の失態」という名の精神攻撃に、アルノは一歩ごとにHPを削られ続けることとなった。




