第40話 リーディア村での宴会騒動と酒
「薬草の聖域」を浄化し、変異したワイバーンを退治して戻ってきたアルノたちを、リーディア村は村を挙げての大歓声で迎えた。
特に、死に絶えかけていた特級薬草が息を吹き返したと知った村長の喜びようといったらなかった。
「アルノさん! それにエトリエルさんにルファスさん! 皆さんは村の救世主だ! 今夜は最高のもてなしをさせてもらいますぞ!」
村の広場には大きな焚き火が焚かれ、テーブルには採れたての野菜や豪快な肉料理が並べられた。そして、何よりも目を引いたのは、リーディア特産の薬草を漬け込んだ「百草秘酒」の樽だった。
「アルノ、これ飲んでみて! すごくいい匂いだよ!」
エトリエルが、魔族らしい酒の強さで次々と杯を空けていく。
「精霊は本来お酒は飲まないけれど……この地の生命力を感じるわ。少しだけなら」
ルファスも頬を赤らめながら、上品に口をつけている。
アルノは最初、監督役として自制していた。だが、村人たちに囲まれ、感謝の言葉と共に並々と注がれる秘酒の誘惑には勝てなかった。
「……まあ、仕事は終わったんだ。一杯くらいなら……」
それが間違いの始まりだった。
この「百草秘酒」、口当たりは爽やかだが、後から強烈な魔力とアルコールが追いかけてくる、いわば「冒険者殺し」の酒だったのである。
一時間後。
「……おい、誰だ俺の……俺の髪を弄ってるやつはぁ……」
アルノは完全に出来上がっていた。銀等級の威厳はどこへやら、テーブルに突っ伏しながら、隣にいるエトリエルに絡み始める。
「あはは、アルノ、また髪の匂い嗅いでいい? 酔っ払ったアルノ、可愛いねぇ」
「ふざけんなぁ……俺は、俺はなぁ……静かに……土をいじって……もふもふに囲まれて暮らしたいだけなんだよぉ……」
「あら、アルノ。もふもふなら、私が精霊の力で大きな綿毛になってあげましょうか?」
ルファスも酔いが回ったのか、瞳の焦点が合っていない。彼女の周囲で、無数の小さな光の精霊たちが酔ったようにフラフラとダンスを踊り、幻想的(かつ混沌とした)光景を作り出している。
「アルノさん、あーんして! このお肉、美味しいよ!」
「やめろぉ……俺は、俺は、男のあーんは受け付けん……あー、でもセルマのあーんなら……いや、ラッドに耳掃除してもらう方が……」
煩悩が酒の勢いで決壊し、アルノの口からは普段なら絶対に出ないような本音が漏れ始める。それを見た村人たちは、「銀等級様も意外と人間味があるな」と爆笑しながらさらに酒を注ぐ。
結局、アルノが最後に見た光景は、エトリエルとルファスが自分の両肩に寄り添い、村の子供たちと一緒にフォークダンスを踊るカオスな幻影だった。
翌朝、アルノは人生最大級の頭痛と共に、村の集会所の板間で目を覚ますことになる。
その両脇には、昨夜のことはどこ吹く風で、スヤスヤと幸せそうに眠る二人の居候の姿があった。
「……二度と、この村の酒は飲まん……」
朝日が、アルノの二日酔いの顔に無情にも差し込んでいた。




