第36話 リーディア村到着と、高ランクの予感
煩悩との死闘(?)を繰り広げながら歩くこと数時間。ようやく視界の先に、緑豊かな丘陵に囲まれた「リーディア村」の姿が見えてきた。
この村は王都への薬草供給の拠点であり、村全体が薬草の香りに包まれている。
「着いたぞ。ここがリーディアだ」
アルノの声に、エトリエルとルファスが歓声を上げる。
村の入り口には、木材と石で造られた堅牢な集荷所があり、そこが今回の目的地だ。アルノは銀等級の証であるプレートを門番に見せ、スムーズに村の中へと入った。
「わあ、ここ、空気がすごく綺麗! 植物たちの精霊が喜んでるわ」
ルファスが深呼吸をすると、周囲の花々が共鳴するように微かに光を放つ。
「ほんとだ。あっちの畑、僕の故郷の育て方に似てるかも。ちょっと気になるなぁ」
エトリエルがふらりと畑へ寄り道しようとするのを、アルノは襟首を掴んで引き戻した。
「勝手に動くな。まずは仕事だ。……おい、頼んでいた薬草の受け取りに来たぞ」
集荷所のカウンターでアルノが声をかけると、奥から恰幅の良い村長が出てきた。しかし、村長の顔はどこか険しく、安堵と不安が混ざり合ったような複雑な表情を浮かべている。
「おお、ギルドの方ですか! 待っていましたよ。……ですが、実は困ったことが起きましてな」
村長が差し出したのは、今回受け取るはずだった「特級ラトマ」の束だ。しかし、その葉の先は不自然に黒ずみ、魔力の残滓がこびりついている。
「昨日、村の奥にある『薬草の聖域』に、見たこともない巨大な魔物が居座りましてね。その影響で、出荷予定の薬草に魔毒が混じってしまったんです。……このままでは王都の病院に届ける分が足りません」
アルノは黒ずんだ葉を指でなぞり、眉を寄せた。
(……この魔力、ズーガ岬の連中やエドワードが使っていた、あの『人工的な淀み』と同じ性質か?)
「アルノ、これ……。精霊たちが泣いてるわ。すごく嫌な魔力だわ」
「僕、あっちの方から変な音が聞こえる。……すごくお腹を空かせた、嫌な奴の声」
二人の顔つきが、新人冒険者から「本来の姿」へと一瞬で切り替わる。
単なる荷運びの依頼のはずが、雲行きが怪しくなってきた。アルノは頭を掻き、煩悩のことなど考える暇もない「現実のトラブル」に再び足を踏み入れる覚悟を決めた。




