第27話 静かなる拳、吹き飛ぶ傲慢
アルノがゆっくりと立ち上がり、気を集中させる。
瞬間、ズーガ岬の空気が物理的な重さを伴って変質した。吹き荒れていた海風さえもが、その圧倒的な威圧感に押し殺されるように凪いでいく。
「な、なんだ……!? この凄まじい威圧感は……。身体の震えが止まらん!」
鍔迫り合いを演じていた男たちの動きが完全に止まる。彼らの本能が、目前の「農夫の格好をした男」を最大級の捕食者だと認識したのだ。アルノは無造作に、岩陰から姿を現した。
「何だお前は!? 貴様、俺たち『暁の軌跡』と対等に渡り合えると――」
言いかけたリーダー格の男の顔面に、アルノの裏拳が吸い込まれた。
ドンッ!!
「ぐはぁっ!?」
乾いた音と共に、男の巨体が木の葉のように舞い、背後の巨木に激突してめり込んだ。言葉を最後まで紡ぐ暇さえ与えない、慈悲なき一撃。
(竜騎士――オン。拳闘家、魔力秘伝――展開。足格闘家、マーシャルアーツ――全オンライン)
アルノの肉体の中で、複数のスキルが精密な歯車のように噛み合う。剣を抜くまでもない。土を汚し、静かな薬草採取の時間を奪った者たちには、この拳だけで十分だった。
「……剣を使わないだと? 舐めるな! おらぁぁっ!!」
残された三人の男たちが、逆上して一斉に斬りかかる。だが、アルノの瞳には、彼らの剣筋が止まっているかのように遅く映っていた。
「遅い。……はっ!」
踏み込み一つ。
最短距離を通る拳が、先頭の男の腹部を捉える。防具の上からでも、その衝撃は内部にまで浸透し、男は白目を剥いて崩れ落ちた。
背後で見ていたエトリエルが、念通話で感心したように呟く。
『うわぁ、相変わらず容赦ないね。アルノ、それ「農夫の拳」じゃないでしょ。完全に大地を砕く勢いだよ』
(うるさい。こいつらは土の栄養にさえならない。さっさと片付けて、リックステールの鮮度が落ちる前に帰るぞ)
「暁の軌跡」と名乗った組織の末端たちは、自分たちが誰の逆鱗に触れたのかも理解せぬまま、伝説の竜騎士による「拳の教育」をその身に刻まれることとなった。




