第26話 魔族の休日と竜の行方
(エトリエル、お前……高みの見物で昼寝だと?)
アルノは念通話で呆れたように問いかけた。茂みから顔を出しているのは、上位魔族のエトリエル。かつて戦場では恐るべき力を振るっていたはずだが、今やその角の間には小鳥が巣を作らんばかりの穏やかさを醸し出している。
『いいじゃん、別に。俺は血生臭い戦いよりも、動物たちと触れ合ったり、小鳥と話したりしてる方が好きなんだからさ』
(魔族ってのは、どいつもこいつもそういうのが多いよな。俺が竜騎士だった頃から薄々感づいてはいたが……世間一般のイメージとは大違いだ)
アルノは溜め息をつきながら、かつて槍を交えた魔族たちの顔を思い浮かべる。強大な力を持つ彼らは、その実、自分のテリトリーで静かに暮らすことを好む種族が多かった。
『まあ、基本魔族は人と争わないからね。自由気ままに生きるのが魔族の性質だし。特に、今の魔王様が素晴らしいからさ』
(……ああ。魔王のユーミちゃんが「不干渉と共生」のお触れを出してから、この世界の理はがらりと変わったもんな。おかげで俺もこうして農夫に転職できたわけだしな)
『そうそう、ユーミ姫のおかげだよね! 争うより、美味しい果物を食べて寝てる方がよっぽど合理的だよ。……そういえばアルノ、相方の竜はどうしたの?』
ふと思い出したようにエトリエルが尋ねてくる。アルノにとって、それは家族以上の絆で結ばれた相棒のことだ。
(……竜騎士を引退したからな。あいつは竜の里山に帰したよ。今頃は広い空を自由に飛び回ってるはずだ)
『そっかぁ……。リングくんとまたじゃれ合いたかったなぁ。あの子の鱗、ひんやりしてて昼寝の枕に最高だったのに』
(……あいつを枕にするのはお前くらいなもんだ。ま、今の俺にはこの移植ゴテと薬草袋があれば十分だよ)
アルノは腰の袋を叩いて見せたが、その視線は再び、岬で不穏な動きを見せる男たちへと戻る。
『で、どうするの? あの「土を汚す」連中。アルノがやらないなら俺が追い払ってもいいけど……そうなると、この岬の地形がちょっと変わっちゃうかも?』
(やめろ。お前が動くと大惨事になる。……俺がやる。薬草採取の邪魔をされた落とし前は、きっちりつけさせてもらうからな)
アルノは魔力回路を静かに高め始めた。
元竜騎士と気ままな魔族。奇妙な友情が交錯する岬で、静かなる断罪の幕が上がろうとしていた。




