第25話 精霊の囁きと、思わぬ再会
ズーガ岬の荒々しい潮騒に紛れ、鋭い金属音が響く。アルノは気配を消し、海風に晒された岩の影に身を潜めた。
視線の先では、数人の男たちが激しく剣を交えている。
その動き、立ち居振る舞い……ただの荒事ではない。練り上げられた殺意と、組織的な連携。アルノの直感が警鐘を鳴らす。
(なんだ……? あの装備、普通の冒険者や盗賊じゃない。王国騎士団でもないが、妙に統制が取れている……。厄介な連中だな)
厄介事からは距離を置くのがスローライフの鉄則だ。しかし、この場所から離れようとしたその時、鼓膜を揺らすのではなく、直接脳裏に響く澄んだ声が届いた。
『アルノ……?』
(ルファスか。お前、こんな場所までついてきてたのか)
声の主は精霊ルファス。かつてアルノが戦場を駆けていた頃からの腐れ縁とも言える高位精霊だ。その姿は常人には見えず、声もアルノにしか届かない。
『ひどい淀みを感じたから様子を見に来たの。あそこの男たちが守っているのは、ただの荷物じゃないわ。この岬の地脈から魔力を無理やり引き出すための「触媒」よ。あのエドワードと同じ匂いがするわね』
(なるほど……理解した。またあの「組織」の連中か。放置すればこの岬の生態系も、俺がさっき摘んだリックステールも全滅だな。……解決できたらいいけどな、面倒だが)
アルノが溜め息をつき、どう動くべきか思考を巡らせていた、その時。
背後の茂みがガサリと揺れ、見慣れた、しかしこの場にはあまりにも不釣り合いな「角」を持った者がひょっこりと顔を出した。
『お? アルノじゃん』
(うおっ!?)
あまりの唐突さに、アルノは心臓が跳ね上がるのを感じた。そこにいたのは、以前の戦いで縁のあった上位魔族の知り合いだった。
『そんなとこで何してんの? 隠れんぼ?』
相手も念通話で、脳天気に問いかけてくる。アルノは額を押さえ、これ以上ないほど深い溜め息をついた。
(……お前こそ、なんでこんなところにいるんだ。今は薬草採取の真っ最中なんだよ。静かにしてろ、取り込み中だ)
『えー、だってあいつら、俺の昼寝の場所でガチャガチャうるさいんだもん。アルノが片付けてくれるなら、俺、高みの見物してよっかなー』
精霊に魔族、そして不穏な組織の影。
穏やかな薬草採取の旅は、いつの間にかアルノの制御不能な方向へと加速し始めていた。




