第24話 平穏な日々と、岬の不穏
アルノは、これから始まる三日間の薬草採取に向けて、念入りに道具を準備した。
愛用の薬草鎌、通気性の良い採集袋、そして根を傷めないための移植ゴテ。かつて伝説の竜を駆ったその手は、今や繊細な薬草を扱うための「職人の手」へと馴染みつつあった。
【初日:マーヤの森】
目的地は、王都からも近いマーヤの森だ。狙いは「コリステマ」。料理のアクセントにも使われるコリアンダー(パクチー)に似た独特の芳香を持つ薬草だ。
アルノは森の柔らかな木漏れ日の中、腰を落として丁寧にコリステマを摘んでいく。
「ふむ、いい香りだ。これなら家の料理にも少し使えるな……」
魔物の気配もなく、ただ風の音と鳥のさえずりだけが響く。まさに、これこそがアルノの求めていたスローライフな冒険者の姿だった。
【二日目:テスラト草原】
二日目は一転して、視界の開けたテスラト草原へ。ここでは切り傷に特効がある「ラトマ」の採取が目的だ。
風にそよぐ緑の波をかき分け、赤褐色の葉を持つラトマを探す。
「あった。これは質の良いラトマだ。根を少し残して……よし」
時折、遠くで野うさぎが跳ねるのを見守りながら、アルノは穏やかな時間を満喫した。
【三日目:ズーガ岬】
そして運命の三日目。アルノは王都の最果て、断崖絶壁が続くズーガ岬へと足を運んだ。
ここでしか採れない「リックステール」という薬草が依頼の品だ。その名の通り、リックスという小動物のふさふさとした尻尾にそっくりな姿をした、希少な強壮薬の原料である。
海風が強く吹き抜ける岬。アルノは岩陰に生える銀色の綿毛のようなリックステールを見つけ、手を伸ばした。
「……ん?」
その時、潮騒に混じって「不自然な音」がアルノの耳に届いた。
金属が擦れ合う音。そして、数人の男たちの荒い息遣い。
「おいおい……嘘だろ。今日はただの薬草採取のはずなんだがな」
アルノはリックステールを素早く採集袋に収めると、低く身を隠した。




