第22話 帰還と、芽生えた妙な親愛
翌朝、差し込む朝日の眩しさにアルノは目を覚ました。
昨夜のあの「挟撃状態」の緊張感からか、熟睡できたような、できていないような不思議な感覚だ。起き上がろうとすると、凝り固まった身体がミシリと小さな悲鳴を上げた。
「ふぅ……。まずは身体をほぐすか」
テントの外へ出たアルノは、朝日を浴びながら独自の柔軟運動を始める。筋肉を伸ばし、魔力の巡りを整えるうちに、ようやく「竜騎」の鋭さが戻ってきた。
ふと、まだ幕の中で眠っている二人を見やる。
凛々しい顔立ちを緩めて無防備に眠るセルマと、丸くなって時折耳をピクつかせているラッド。
(……まあ、どっちも可愛いといえば可愛いんだが。はっ……いかん! 俺は何を聖人気取りで……! 早く自分の畑に戻るんだ)
自分の中の奇妙な柔らかい感情を振り払うように頭を振ると、テントの外からは食欲をそそる香ばしい匂いが漂ってきた。
「おはようございます、アルノ殿。朝食ができておりますぞ」
食事係の騎士団員が、慣れた手つきで熱々のスープとパンを差し出す。ほどなくして、目をこすりながらセルマとラッドも起きてきた。
三人は昨夜の少し気恥ずかしい距離感などなかったかのように、焚き火を囲んで朝食を摂る。温かいスープが身体に染み渡り、ようやく「日常」への実感が湧いてきた。
「さて、出発だ。王都まではあと少しだな」
セルマの号令と共に、一行は再び移動を開始した。
馬を走らせること数時間。視界の先には、見慣れた王国の巨大な城壁が見えてきた。
(……あと三百メートル。ようやく戻ってきたか)
長いような短いような、波乱の調査任務だった。アルノは門を潜る際、無意識に自分の住む郊外の、あの静かな畑がある方向を眺めた。
王都の活気ある目抜き通りに入ったところで、セルマが馬を止める。
「アルノ。私は騎士団の報告があるから、ここで別れよう。エドワードの件は、また追って連絡する。……今回は、その、楽しかったよ」
「……ああ。俺はギルドへ寄って、さっさと家に帰る」
ぶっきらぼうに答えつつも、アルノの胸の奥には、セルマと背中を預け合ったことへの確かな充実感が残っていた。
「アルノさん! ギルドまで一緒に行きましょう!」
尻尾をぶんぶんと振るラッドと共に、アルノはボリスの待つギルドへと向かう。
スローライフを志す農夫の背中は、いつの間にか、王都を支える一人前の「冒険者」としての頼もしさを纏っていた。




