第20話 土の味と安らぎの湯
轟音と共に、エドワードの身体は硬く冷たい土へと叩きつけられ、その衝撃で地面に深い人型の窪みを作った。アルノが放ったのは、殺すための一撃ではない。土を侮った者に、その硬さと冷たさを骨の髄まで教え込むための「教育」だった。
エドワードは呻き声を上げながらも、命に別状はない。アルノは事前にセルマから預かっていた応答通信魔具を起動しており、その凄まじい魔力の爆発音は、正確な位置情報を周囲に知らしめる合図となっていた。
「――そこまでだ、罪人エドワード・カスティル」
ほどなくして、茂みを掻き分けセルマ率いる王国騎士団の精鋭十数名が到着した。
セルマは荒れ果てた戦場と、地に伏した魔導師、そして平然と立ち尽くすアルノを見て、一つため息をついた。
「アルノ、相変わらず手加減を知らないな。地響きでこちらがひっくり返るかと思ったぞ」
「これでも抑えた方だ。こいつが土を汚すから、少し『掃除』しただけだ」
騎士団員たちがエドワードを拘束し、連行しようとしたその時。泥まみれの魔導師が、狂信的な眼差しでアルノを睨みつけた。
「待て……! お前、それほどの力がありながら、なぜ我々の組織に入らない! その『竜』の力があれば、世界の理すら書き換えられるというのに!」
アルノは足を止め、心底軽蔑したように鼻で笑った。
「は? 何を言ってる。俺は農夫だ。お前らみたいに自然や魔力を奪い取るだけの屑の集まりになんざ、命を懸けても入らねーよ。俺が命を懸けるのは、明日の朝に芽吹く野菜のためだけだ」
エドワードの絶叫は、騎士たちの手によって速やかに遮られた。
その後、アルノはセルマ、そしてまだ少し震えているラッドと共に、騎士団の馬列に加わって帰還の途についた。夕闇が迫り、一行は街道沿いの開けた場所で野宿をすることになった。
「アルノ、この近くに隠れた名湯……野良の温泉があるのを知っているか? 汚れを落とすにはちょうどいい」
セルマにそう提案され、アルノは何故か再び胸が「どきり」と跳ねた。またあの感覚だ。だが、断る理由もない。
結局、男同士、そして一匹のコボルトと一緒に、岩場に湧き出す温泉に浸かることになった。
「ふぅ……極楽だな」
お湯に浸かり、アルノは横目でラッドを盗み見た。湯気を浴びて少ししんなりとしたコボルトの耳が、時折ピクピクと動いている。
(……ラッドのコボルト耳、最高だな。濡れた毛並みの質感がまた何とも言えん……。いかんいかん、俺は何を考えているんだ)
「アルノ? 顔が赤いぞ。のぼせたか?」
セルマが顔を近づけて覗き込んでくる。湯気の中で見る親友の顔は、いつもより少し柔らかく見えた。アルノは慌ててお湯を顔にかけ、動揺を隠した。
「うるさい! お湯が熱すぎるんだよ!」
スローライフからは程遠い激動の一日だったが、温泉の熱さと、隣にいる騒がしくも信頼できる仲間たちの存在に、アルノはほんの少しだけ、心の安らぎを感じていた。




